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神獣の後継者の秘密  作者: 雅樹
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 生まれたとき、彼女は他の者とは違っていた。

 黒い髪に茶色の瞳、日焼けのしていない綺麗な肌色の容姿の母とも違う。光を反射して綺麗に映える金髪の髪に深い海を思わせる青い瞳、淡い褐色の肌の容姿の父とも違う。

 真っ白な雪のような肌に白に近い銀髪、両親を見つめる瞳は葡萄のような色に近い淡紅色。

 両親とは全く違う、異質な容姿。しかし、両親は娘の異端な姿など気にせず、初めて自分達の間にできた子供である彼女の誕生をおおいに喜び、“シルフィ”という名を付けた。

 






 だが、彼女には他とは違う部分がまだあった。

 ひとつは生まれてばかりだというのに自我があり、自分の状況などを何故か理解できていた。どうしてという自身への疑問が浮かぶがまるで考えてはいけないというように考えが霧散する感覚に襲われたため、気にしない方が良いかと本能的に思い、疑問を振り払ってはいたが。

 そしてもうひとつ。シルフィは喜ぶ両親と彼女の様子を確認している医者がいるところとは別の場所に視線を移した。視線の先、そこに存在している曖昧な者達が見えていた。

 姿が揺らぎ、うまく姿が認識出来ないものの四つの人と思われる存在。彼等は両親と同じくらい、いやそれ以上に自分が生まれてきたことを祝福してくれているが、彼らの姿はどうやら彼女にしか見えないらしい。首を傾げ、何度か瞬きを繰り返した後、彼らに手をのばし、「あーうー。」と赤ん坊言葉で声をかけているのと四つの存在はそっと側に寄ってきたが、娘の行動見て彼等が見えない両親と医者はとても不思議そうな顔をしていた。






 

 自分以外には見えぬ不思議な存在の彼ら。両親が側にいない時はいつも彼等が側にいて、面倒を見ていてくれた。そしてそんな彼等の他に様々な色の淡い光がフヨフヨと彼女の側を漂っていることもあったが嫌な感じはせず、むしろ側にいることで幸せでとても懐かしい気持ちになった。どうしてかは分からない。

 首がすわり、ハイハイも出来ることになると両親と同じように彼等も喜んでいた。淡い光達もピョンピョンと元気に動いていた。言葉を話せるようになったときも同様で、そこからは自分達の名前を呼ばせたいのか四つの存在は何度も名前を繰り返していた。四つの存在の名前を言えるようになるととても喜んでいた。両親が誰の名前?と呟くのが聞こえてはいたがすぐに気にしなくなった。

 彼女は順調に成長していったが、四つの存在の姿は成長してもはっきりとは見えず、容姿がいまだによく分からない。しかし、それぞれ違った声と彼等の名乗っていた名前で自分は判断していた。

 

 “セファ”と名乗る少し高めの少し調子の良い男の声を発する者はいつも様々なことを教えてくれる兄のような存在。

 “リース”と名乗る少女のようなまだ幼さの残る元気な声を発する者は魔法と呼ばれるものの知識を分かりやすく教えてくれる友達のような存在。

 “シエル”と名乗る落ち着いた大人の女性の声を発する者は生活で困っているときにそっと助けてくれる姉のような存在。

 “アーク”と名乗る幼い声ながらもしっかりとした意思を感じられる声を発する者は将来役に立つからと様々な知識を与えてくれる先生みたいな存在。

 生まれたときから側にいた彼等は彼女にとって家族であり、大切な存在であった。





 







 それから順調に成長し、シルフィは何事も起こらずに大人になっていくのだと両親も彼等もそう思っていた。しかし、現実は残酷だった。

 昼間の日光は雪のような肌のシルフィにとって毒でしかなく、他の人よりも視力も弱いことも分かった。外に出ることもままならず、また両親と出掛けても周囲から奇妙な目で見られたり、嫌な視線を向けられることも多い。

 1人で行動すること自体が不自由な状態だったのだ。

 不自由な子供の現状に母は毎日のようにシルフィに対してそんな姿で産んでしまってごめんなさいと泣いて謝り、父も何か解決方法はないかと毎日のように調べ続けるも良い結果がないのか両親は日に日に憔悴していった。

 しかし、生まれながらに自我が存在した現在四歳のシルフィは自分のせいで迷惑が両親にかかっていることを理解し、家から出ることをやめ、外への憧れを殺し、部屋に閉じ籠った。

 両親に迷惑をかけたくないという一心で。

 だが、次第に両親の心は荒んでいき、毎日のようにお互いがお互いを責めるように喧嘩をしていた。初めは口喧嘩程度だったが、鬱憤が日に日に溜まっていったのか、小さな牽制程度の魔法を使っての争いとなっていっていた。周囲が諫めたり、止めたりという日もあったが喧嘩が無くなることはなく、シルフィの側にいた四人の彼等にも止めることはできなかった。

 

 そんな両親の喧嘩が見ていられなくて辛かったシルフィは両親を止めるために泣きながら二人のところに行った。しかしその時の二人は頭に血がのぼっており、シルフィが見えていなかった。弱いながらも両親は攻撃魔法を発動、それがぶつかり合った。

 突然の出来事に魔法をリースから習っていたシルフィだったが、障壁魔法を展開させることもできず、ぶつかり合った魔法の余波をもろに受けた。余波程度の衝撃ならば大人ならば無傷であり、よく成長している子供なら多少の怪我ですんだであろう。

 だが、他とは違う四歳の子供を死に至らしめるのには十分だった。

 全身を襲う痛みは一瞬だけ。必死に彼女の名を呼び続ける四つの声と突然の出来事に固まってしまっている両親の姿を沈んでいく意識の端で捉えるも、シルフィは経った四年という人生を終えた。

 

 ただ、彼女は最後に願った。“人並みで良いから幸せになりたい。まだ生きたかった。”と。






 

 

 

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