# 6
誰もいない図書室でしばらく(どのくらいかは数えてなかったので分からない)微妙な沈黙が流れた後、おそらく頭をフル回転させていたであろう琴葉がすごい勢いで立ち上がり、読んでいた本を棚に戻し、バッグを持ってきて私の前に立った。それはもう漫画かと思ってしまうくらいの速さだった。
「じゃあ、帰ろっか!」
・・・・・・どうやら、無かった事にしたいらしい。
しかし。
そうはさせない。
「琴葉。ちょい、まち。」
もう図書室の出口のほうに行こうと向きを変えていた琴葉の腕を掴む。
琴葉は1秒固まってから、さっきと同じ、「マズイ」という顔でゆっくり振り向いた。
─流すな。
心の中で言ってみる。
─聞こえてるんでしょ?
びくっとする琴葉。
間違いない。
聞こえてるんだ。
稲妻が光る。
琴葉はもう、稲妻が光ってもピクリともしなかった。
その代わり、ふっと肩の力を抜いて、私が掴んでいた腕を、私の手から抜いた。
そして俯いて、
「・・・・・・ごめん。」
─うん。
「隠して、た、ことがある。」
─知ってる。
「私ってドジだから。いつかバレるって、思ってはいたんだけど。」
あはは、と笑う琴葉は、なんだかイタズラしているのを見つかった、小さな子供みたいだった。
罪のない、愛らしい笑顔。この状況にふさわしくはないが、琴葉らしいといえば琴葉らしい。
「あのね、私、人の心が読めるの。ちっちゃい頃からずっと。」
「ほう。」
なんかバカな返事だ。
予想通りといえば予想通りだけど、いざ言われてみるとどう反応すればいいのかわからない。
「でも、さ。」
・・・・・・なんだか嫌な予感。
「つばめも、私に隠してることあるね。」
あー。
やっぱりこうなるか。
そうだよね、心が読めるんだもんね。
力のこと、知らないわけないんだ。
「・・・・・・うん、ある。」
琴葉はなんだかとても寂しそうな笑顔を私に向けて、
「ちゃんと、言って。」
と言った。
私は迷った。
琴葉は自分の力の事を私にちゃんと告白した。
順序的に言うと、私の番だ。
でも。
母は言った。
この力の事は、誰にも言っちゃいけないと。
言ったら大変な事になってしまうから、と。
どういう場合なら許されるんだろう。
琴葉のような、私の親友なら、信用できる相手ならいいのだろうか。
「大丈夫だよー、つばめ。」
私は知らず知らずのうちに下げていた頭を上げる。
「大丈夫、私、誰にも言わない。言えないから。約束する。親友を危険に晒すなんてそんなことしないよ。信用、できない?」
そうだ。
琴葉はわたしの親友。
秘密を作って、壁を作って何が嬉しい?
「うん。・・・・・・私も、力があるんだ。といっても、そんなに役にたつもんじゃないけど・・・・・・。私は、自分の体温を変えられる。何かの温度を移すこととか、とにかく温度とか体温でいろんなことができる。琴葉と同じ、ちっちゃい頃から。今まで言わないで、ごめんなさいっ」
頭を下げる。
「つばめなんで謝るの!私だって隠してたんだし、っていうか私はもう知ってたし。ただ、ちゃんとつばめの口から言って欲しかっただけだから。言ったら危険な事もちゃんと分かってたから。」
あの微妙な沈黙の後、初めて琴葉と目を合わせた。
琴葉の目はとても綺麗で、優しくて。
そして何より、嬉しそうだった。