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# 5

朝起きると、空模様がとても怪しかった。天気予報を見ると、夕立が来るらしい。

─傘、持ってかなきゃ。

別に水に当たるとすぐに体温が上がったり下がったりはしないが、それ以前の問題で、私は雨に濡れるのが嫌いだ。そこは琴葉と気があうところだ。

「シャワーとかは大好きだけど、雨ってなんか別物だよねー、雨に濡れるのって嫌だよねー」

と、いつもそこで同意する。


学校に着くと、琴葉は私より先に着いていて、机について何か書いているようだった。

よく見ると、私の日記帳とよく似ている大学ノートで、ただ色が黒だった。表紙に何か書いてあるようだったが、裏になっているので読めない。


変だ。

琴葉は暗い色を嫌う。黒いノートなんて持ってるわけがない。

学校のノート色の指定はないから、自分で選んで買ったことになる。とっても不自然。

琴葉らしくない。


「琴葉おはよーっ」

鞄はまだ持ったまま琴葉のところに行った。

私が挨拶をした途端、琴葉は慌てたようにノートを閉じて机にしまった。

「あ、つつっつばめ、おは、よう!」


おかしい。

どう見ても、どう考えても、おかしい。


─琴葉・・・・・・。

その日は琴葉がよそよそしくて、なんだか避けられているみたいだった。

授業も頭に入っていないみたいで、ノートもとっていなかった。


                       ***


琴葉は明るいし前向きで、心配事やストレスなんか何もないように見えるけど、本当は色々と溜め込む性格だ。

本人はそれに気づかない。溜め込みすぎる前に、私が気付いてあげないといけないんだ。



その事を学んだのは、小学校5年生の頃だった。

琴葉は小さい頃から習い事が多く、小学校低学年の時点で、ピアノと空手と塾に行っていた。

ピアノは週二回、空手は一回、塾は月曜日、水曜日、火曜日。


それが5年生になって高学年になったことで、ピアノが週三回、空手は二回、そして塾は月曜日から土曜日まで毎日になった。


だんだんと目の下のくまが濃くなっていく琴葉の中の気持ちを、私は気付いてあげられなかった。

誰も、気付かなかったのだ。

琴葉は相変わらず明るかったし、4月から6月にかけて成績がグンとあがった事を喜んでいたから、誰も、ずっと一緒にいた私でさえも、琴葉がとんでもない量のストレスを抱えている事が分からなかった。


でもある日、琴葉はストレスに潰されてしまった。

授業中に倒れてしまったのだ。

真っ青になって、目が変な風になったと思ったら椅子から落ちてしまっていた。


教室は騒然となり、すぐに救急車が呼ばれた。

病院で色々と調べられた結果、極度の精神的疲労が原因だろうということだった。


そのあと2週間、琴葉は学校に来なかった。カウンセラーなどに通いながら、自宅で静養していたそうだ。

その頃は私も合わせてもらえず、学校ではとても寂しい思いをした。


こんなことがあったので、琴葉の習い事の量は減るどころか一つもなくなり、様子を見てから再開する事になっていた。


中学に上がってピアノと塾は週に一回通う事になったが、琴葉は大丈夫なようだった。


それに、中学に上がってからの琴葉はすごかった。

何がすごかったかはうまく言葉に出来ないけど、なんだか明るさも元気も倍増したようだった。

いつも血色がよく、楽しそうで、嬉しそうで。

私にも理由は分からなかったが、琴葉が健康なら、楽しいなら、それでいいと思っていた。

琴葉の精神が安定して、一番ほっとしていたのは琴葉だろう。倒れてしまったあと、琴葉はみんなに対してとても申し訳ながっていた。

事あるごとに私に謝り、もう無理はしないから、許してねと言っていた。誰も責めていないのに。

そういうところがあるから、琴葉がストレスが溜まるんだなーと思う。



今回もそれだろうか。


                       ***


天気予報はあたり、3時半頃から雨の匂いがしてきて、4時ぐらいから大雨になった。久しぶりの大雨だ。

─あぁ、こういうのを「バケツをひっくり返したような」っていうんだなー、久しぶりに見た。


私はテニス部に入っているので、外では部活ができず、体育館でやった。

バスケ部とバレー部も一緒なので、狭かった。


もう、こういう時は部活なしにしてくれていいのに。

早く帰りたいし。


習い事のない日、琴葉はいつも私の部活が終わるのを図書室で待っていてくれる。

琴葉は習い事をしているので、部活を免除されているのだ。


─今日は待っててくれるかなぁ・・・・・・。

不安だった。

あんな感じだと、もしかしたら待っててくれないかもしれない。

もし待っててくれてなかったら、本当に何かあったんだとしか思えない。


汗を拭き拭きそんな事を考えながら鞄に荷物を詰め、傘を持って図書室に行くと、琴葉はちゃんといた。

なにか分厚い、でも綺麗で楽しそうな表紙の本を読んでいた。

読書嫌いな私には、どうしてあんな分厚い本を読んでいられるのか分からない。


「琴葉、おまたせー」

「あ、つばめ、お疲れー。帰ろっか」


あぁ、よかった。琴葉、いつも通りだ─

と思った瞬間、稲光が。


「ひいいいっ」

頭を抱えてうずくまる琴葉。


そうだった。

琴葉、雷ダメなんだ。


稲光から5秒ほど後に、「どどどどど・・・・・」と、なんだか地味な雷の音。


「いやああだあああ!つばめ!ちょっとどうしよう!?」


・・・・・・雷、弱すぎだぞ琴葉。


「あああでも怖いじゃんよーーー!雷って怖いじゃん!」


あ、まただ。

思考に入ってくる、琴葉。


本当、私の考えてる事、聞こえてるんじゃないだろうか。


「─へ!?なんで分かったの!?」


さっきまで雷イヤー、帰れないー、と言ってうずくまっていた琴葉が突然顔を上げ、また私の思考に入ってきた・・・・・・って、え!?


おもーい沈黙。


だって今、琴葉・・・・・・完全に、私が考えてる事に相槌を打った。

というか、「なんで分かったの!?」って。


え、待って待って、んーと・・・・・・?


琴葉はうずくまりながら私を上目遣いに見て、「あー、やっぱり・・・・・・バレた?」という顔をしている。


小学生の時に図書室の本を破いてしまったことがバレてしまった時、これと全く同じ顔をして、笑っていた。



と、いうことは。


どういうことだ?

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