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# 2

この、私のすごい力を知ってる人は一人。私の母だけ。

母は私と似たような力を持っている。ただ、私の方がかなり進化している。


母が出来るのは、人の乱れた温度を元に戻すことだけ。

だから、私の温度が上がりすぎた時、下がりすぎた時に、「人の乱れた温度を元に戻す」力を使って助けてくれた。


小さい頃は、母も私も、私が持つ力の存在を知らなかった。

だから、母もなぜ私の体温がこうも変わりやすいのか、もしかしたらと疑ってはいたが、確信は持てなかったという。


私のこの力を知ったのは、一年生の夏だった。

まったく泳げなかった私を心配した母は、私を浅い野外プールへ連れて行き、冷たい水に顔をつける事に慣れさせようとした。お風呂にさえ顔をつけられず、シャワーの水を顔にかける事さえできなかった私は、かなり水に恐怖を感じていたようだ。

とても日差しの強い日で、母もいつでも力を使えるように心の準備をして連れて行ってくれたそうだ。

でも、最初に更衣室で着替え終わった私は、更衣室のドアを開けて母より先に外に出てしまった。


「つばめ、ダメ、待ってっ」

と呼ぶ母の声と、くらっとするほどの熱気が私を包んだ事を覚えている。


─ あ、しまった・・・・・・

と思って。

そして私は、ほとんど本能的に力を使ってしまったのだ。


だんだんと体が何かに包まれていくような感覚があって、それが冷たい物で、私を守ってるという印象を受けたと思ったら、もう暑くなかった。


なんともちょうどいい温度。


「おかーさん、暑くない!なんで!?」


「つばめ・・・・・・」


母はとても複雑な顔をして、結局プールには入れてもらえずにに家に帰った。



玄関に入った途端、母は真剣な顔をして私の目線に合うようにしゃがみ、両手を私の肩において私の目をしっかりと見据えた。


「いい?今からお母さんの言うこと、よく聞いてね。

さっき、暑くなくなったでしょ?あれはね、つばめの中の力がね、ツバメを守ったのよ。

だけどね、その力はつばめだけが持ってる、特別なものなの。誰にも言っちゃいけないのよ。言ったら大変なことになっちゃう。わかる?」


力がどうのっていうのは分からなかったけど、私はどっか他の人と違ってて、そのことは誰にも言っちゃいけない、言ったら大変なことになっちゃうんだ、ということはちゃんと分かったから、

「うん、わかった!」

とだけ言った。



一度力を使ってしまったら、もう後はコツを掴めばよかった。

二年生になると、力の元みたいなのが、頭の中心あたりにあることを知り、それをなにかすれば温度をコントロールできることがわかった。


手のひらに線を引くことで最も早く温度を変えられることを知ったのは、3年生の春。


それからだんだんと、母にも助けてもらいながら、どのくらいの頻度でやればいいのか、この力を使ってどのようなことができるのか、ということを一生懸命に学んだ。

一番大変だったのは、変えた温度をキープする事だ。

3年生後半あたりまでは、ずっと集中していないと力がもたず、せっかく張った膜が消えてしまった。

それを必死でトレイニングして、今では最初に膜を厚めに張ればずっとキープできるようになった。


結果、この力について、このようなことがわかった:

- 私の体の温度を、上にも下にも変えることができる。

- 何かに触れながら温度を変えると、その何かの温度も変えることが出来る。物でも人でもオーケー。

- 私が温度を下げても上げても、近くにいる人は温度差を感じない。

- 何かの温度を自分に取り入れ、それをさらに他人と共有することができる。

- 体の一部分の温度をだけを変えることはできない。

- 自分の温度を変えずに、触れる物の温度を変えることは出来ない。

- 結構体力を消費する。


母と共通することは、触れる物の温度を変えることができる、ということと、近くにいる人は温度差を感じないということ、それから私が出来ないこと。

母は自分自身の温度を変えることは出来ないし、温度を共有することもできない。

そして、その力も、私が力に目覚めた事で必要なくなってしまった。


「いいのよ、使わないに越した事はないんだから」

と母は笑って言うが、私はなんだか母の役目を取ってしまったみたいで申し訳なかった。


                       ***


「ちょっと、つばめ!ほらもー、またぼーっとするー」

手のひらをひらひらと目の前で振られて気がついたら、親友の琴葉ことはが笑って私を見ていた。


しまった、私ったらまた!


「ご、ごめん!またぼーっとしちゃった!」


周りを見るとみんなとっくにプールに入って泳いでいた。

私はというと、プールに入る順番を待っている。


うわ、いつのまに!


琴葉が「また」ぼーっとすると指摘したように、私はなんだか考え事にふけっているわけではないのに、心ここに在らずみたいな事が多い。

これは力とか関係なく、私の性格なんだろうと思う。


「もー、次の次だよ、つばめの番!今年始めのプールだからってぼーっとしたらダメだってー。それまで気がつかなくて突き落とされる時危ないって!」

「わ、私突き落とされるの前提!?」


こんな感じで、琴葉は私がぼんやりしているとすぐに我に返してくれる。

他の人にはぼんやりしてるようには見えないと言われるのに、なぜか琴葉には分かってしまうのだ。不思議だ。


「─いや、そりゃつばめの親友歴長いからだよ!」

突然琴葉が思考に入ってくる。

「へっ?」

「えっ?あ、いやぁ、あははっ」


こういう風に、琴葉は時々私の思考に割り込むような発言をする。

なんとも不思議な親友を持ったものだ。



それはそうと、プールの授業というのはなんとも体力を消費する。

泳ぐだけでも十分疲れるのに、温度調節をしないといけない私としては、夏の体育というのは最悪の授業だ。


まず、日光を浴びるので体温を下げるための膜を張らないといけない。

でもプールの水は冷たいから、温度を上げるための膜を張らないといけない。


温度を上げるための膜と下げるための膜は微妙に違う。

簡単に言ってしまえば、冷たい膜と暖かい膜なのだけれど、それもちょっと違う気がする。

どう言ったらいいのか分からないが、とにかく何かが違うのだ。

膜が皮膚に触れているわけじゃないから、膜自体が体温を下げているわけではなく、膜が発する、冷気や暖気とも違う「何か」が体全体の温度を変えるのだ。


この膜を張るという作業は、かなり疲れる。

肉体的にではないが、精神的にでもない。

力的に疲れる、というのが一番近い。


なんだかだるくなるし、頭の回転が遅くなる気がするし、力の反応が遅くなるようで、次の膜を張る時にやたらと時間がかかる。


─はーあ。なんでまたこんな力持って産まれちゃったんだろうねー。


私の一個前に並んでいた女子が水にそろそろと入っていく。

飛び込み禁止は私にとってとても好都合だ。

水に入る前に体温を上げる膜を張ってしまうと、ただでさえすぐに日光で温まる私の体が湯気を上げ始めてしまう。


飛び込んでしまえば最後、膜を張るのが間に合わなくなってしまう。一度張ってしまっているから、力の反応も少なからず遅くなっている。

膜を張るのが間に合わない、イコール。

生命の危機、という事になる。


先ほどプールに入った女子(名前忘れちゃった違うクラスの子)、泳ぎがすごくうまい。

見ていて気持ちいいぐらいスイスイと泳いで、すぐに向こう岸についてしまった。

琴葉もスポーツでは学年一、水泳も含めてどんなスポーツをやってもコツをつかむのが早く、すぐに学年一、二位に入ってしまう。頭もいいから教え方も上手いし優しいし明るいので、琴葉は誰にでも人気だった。

そんな琴葉がなぜ私と親友でいてくれるのか、私にはさっぱりわからない。


私の番だ。


私もさっきの子と同じように、まず右足をつける。

つける寸前に膜を張る指令を頭の真ん中の何かに出す。そこまですぐに凍死するほど体温が変わるわけではないので、少しは足が水がついても気にしない。


膜が全体に行き届いた事を確認してから、スルンと水に入る。


「うあぶっ」


び、びっくりした!


そうだった、沈むんだった。

なぜか力を使った直後は浮遊力が減るらしい。簡単にプールの底に尻餅をついてしまう。


必死で立ち上がると、私のすぐ後ろに並んでいた琴葉が慌てていた。


「ちょ、ちょっとつばめ大丈夫!? っていうかどうやったらそんな見事に沈めるの!?」


「あふっ、けほっ、うん、大丈夫大丈夫、ありがと。じゃ行ってくる!」

と、あえて2番目の質問には答えずに平泳ぎをスタートする。



3メートルまでぐらいは、順調だった。

ただ、今年始めのプールで、日光と水のせいで、体温コントロールに体力をかなり消費してしまっていたために、だんだんと手足が重くなり、酸素が足りていない事が実感できるようになった。沈みやすいので、人より水かきの回数が多い。だから余計に疲れやすいのだ。


それでも10メートルまでは必死でがんばる。


もう少しで15メートル、と思った時、右足が痙った。

ほぼ同時に左腕が、肩から肘にかけて痙る。


─うわ、ヤバ、まただ・・・・・・。


と思った時にはもう遅く、首が痙っていた。


一瞬のうちに、ズブンと体が沈んでしまう。

前にも泳いでいる途中で足が痙って溺れかけ、保健室に急遽運ばれた事はあったが、一度に三箇所なんて初めてだった。


必死で目を開き、痙った腕と足を動かして水面に出ようとするも、動けば動くほど体は重くなり、霞んだプールの底が近づいてくるのを見ながら、私は本気で「もうダメかも」と思っていた。


─琴葉っ、助けて・・・・・・!

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