# 13
「じゃあ、最初に自己紹介したい人!」
という母(つまり副リーダー)の声に、パラパラと手が挙がる。一番最初に、しかもピンと腕を伸ばして手を挙げているのは、スカジャンさんだった。
「はい、じゃあ悟空。どうぞ!」
指名されてものすごく嬉しそうな悟空さん。みんなの間をすり抜けながら、母の隣に立っている私の前に立って、咳払いをしてから始めた。
「えーっと、つばめちゃん!さっきちょっと話したけど、ちゃんとした自己紹介遅れてごめんな。俺、椎名悟空って言います。えー、催眠術士です。よろしく!」
ガッチリと私の手を握り、ブンブンと振ってニカッとするスカジャンさん。
みんなの中に戻ろうとして、「あ!」と声を上げて振り向くと、
「俺のことは孫悟空って呼んでくれな!」
と付け加えた。
─ごめんなさい。もうあなたは、私の中で「スカジャンさん」に決定しているのです。
とは思いながらも、私は「はあ・・・・・・」と返事をした。
如月さんが私の横にスッとより、「スカジャンでいいわよ」と囁いた。「あ、はい・・・・・・」と、また微妙な返事をする私。申し訳ないです。
「あら、如月さん、次?」
私の耳元で何かを囁く如月さんを目にし、母が声をかけた。
「いいですよ」
と如月さん。ふわ、と背筋を伸ばした。
「如月景子です。もうさっき話したけど、超能力者、です。改めて、よろしく」
「よろしくお願いします」
まだよく分からない。超能力者ってなんだろう。
次に手を挙げたのは、如月さんよりちょっと若そうで、小柄な、お化粧も薄い女性だった。ストレートのロングヘアがとっても綺麗な人だ。
「はい、じゃあ鈴香さん」
母が指名する。
その人はにっこりと笑って、私の方に踏み出した。
「はじめまして。宮田鈴香です。私は、ちょっと視力が特殊で。なんていうのかなあ、ビルとかの裏を、表から見える、っていうのかな」
んん? どういうことだろう?
私の頭からはきっとはてなマークが出ていたんだろう、鈴香さんという人は、本当に鈴がなるような声で笑った。
「そうね、ピンとこないわよね。じゃあ、こういったら分かりやすいかな。視線を、曲げることができるの。例えばビルの裏が見たかったら、私自身は動かずに、ビルの表側から上を見て、視線をビルの上で曲げて裏を見る。わかるかな?」
「え・・・・・・」
すごい。
「便利ですね!」
またコロコロと笑う。
「そうね、私、背も低いから、人探しとかには便利よ」
私もやってみたい・・・・・・。というのが、私の正直な感想だった。
「あ、私神谷つばめです。改めて、よろしくお願いします」
「うん、こちらこそ!」
うん、なんかとっても笑顔のよく似合う人だ。
その人もすぐにみんなの中に戻って行った。
「はい、じゃー次・・・・・・。うーん、じゃあミキさん、どうぞ」
ミキさんはまた、ひらりひらりと歩んで、みんなの中から出てきた。
「さっき挨拶しちゃったからあんまり言う事ないから、もう一回自己紹介するからね!」
「あ、はい」
「名前は本堂ミキ。人を魅了して寄せたり、まあ人じゃないものも寄せられるっていう力を持ってますー!よろしく!」
「よろしくお願いします」
さっきと同じ、ハイパーな感じの高い声で自己紹介をしてくれた。
・・・・・・うーん、やっぱり裾に目線が行ってしまう。
「あの・・・・・・次僕、いいですか?」
遠慮がちに手を挙げたのは、ちょっと太めの縁の眼鏡をかけて、緑と白のシマシマTシャツをきた、20代後半ぐらいの男性だった。なんか、カジュアルな服装がすごくよく似合っている。
母が頷くと、その人はまた遠慮がちに前に進み出て、手を差し出した。握手だ。
私がその手を握ると、その人は少し上下に振った。
「初めまして。僕は天海翔といいます。物を小さくしたり大きくしたり色を変えたり、物自体を変えたり、あとなんだろ・・・・・・。天気を変えたりできます。あ、でもこれは力のメインというよりおまけみたいな物で、ホントの力は・・・・・・」
そこでちょっと切り、握手していた手を離すと、私の肩を指でトン、と叩いた。
え・・・・・・?
「なにこれ・・・・・・」
何が起こったのか分からない。けれど、天海さんが私の肩に触れて離した瞬間、私の心は本当に嘘みたいに軽くなり、なんだか心配事なんか何もなくて、生涯楽しく生きていけそうな気がしてきた。
「これが、僕の本当の力なんだ。人のネガティブな思考や心配事、不安を取り除いて、喜びに変える。この力のせいで、時々リサイクル屋なんて呼ばれるけどね」
すごい。本当に、すっごいいい気分になった。
「だけど、この力、カブってるんだよなぁ・・・・・・」
「え?」
ちょっと囁くみたいな声だったから、聞いちゃいけない事だったのかもしれない。天海さんは慌てて打ち消した。
「あ、いやなんでもないんだ。とにかく、これからもよろしく。楽しくやろうな」
「はい、よろしくお願いします!」
なんだかとっても頼もしい人だ。
母が口を開いた。
「はい、じゃあ次、飛鳥行く?」
「はい!」
元気に返事をして出てきたのは、真っ青なワンピースをきた女の子だった。私と同じぐらいの年齢だろうか。
「初めまして神谷さん!私、椎名飛鳥といいます。力は、物を消す事です。欠点は、消した物は出せないって事です。時々感情が高ぶると消そうと思ってないのに何かを消しちゃって、大変な事になる事もあります。この間なんか頑張ってやった作文消しちゃって、書き直さないといけませんでした」
可愛く舌をぺろっと出す飛鳥ちゃん。おっちょこちょいでおしゃべりなイメージだ。
「これからもよろしくお願いします! あ、神谷さんのこと消すようなことはしないので大丈夫です! 仲良くして下さい!」
「うん、こちらこそよろしく!」
最後に軽く握手を交わしてから、飛鳥ちゃんは軽やかにスキップしながらみんなの中に戻っていった。
うん、活発な、楽しそうな子だ。
14人いて、紹介してくれたのは、まあ母と琴葉はカウントしないとしても、これで6人の筈だ。さっき挨拶した陽菜乃ちゃんとロロニーのお姉さん・・・・・サキさん、あと優夏さん(っていう名前だったっけ)はどうするのかわからないが、陽菜のちゃんを入れなくても、あと3人はいる。
─結構多いな・・・・・・。
と思っていたところで、またみんなの中から手が挙がった。
「あの・・・・・・私いいですか?」
ふわんとした雰囲気のその声の主は、多分小学3年生ぐらいの女の子だった。
「あぁ、ごめんね、前に指名しなくて。じゃあ、湖夢ちゃんお願いします」
母の声に頷いて、その湖夢ちゃんはトントン、と前に出てきて、ぺこり、と頭を下げた。
「沢木湖夢です。力と言っていいのかわかんないけど、見る夢はいっつも本当の事になります。だからなんか、予言みたいなのもできます。あんまり知りたくない事とかもわかっちゃうし、知りたい事に限って夢に出なかったりするので不便です。よろしくお願いします」
またぺこり、と頭をさげる。なんか最近の子って敬語勉強してたりするのかな?
それとも、ここにいる子たちがそうなだけだろうか。陽菜乃ちゃんといい、湖夢ちゃんといい、敬語が上手すぎて気後れしちゃう。
まあとにかく、あと二人。一人はあのリーダーの人だとして、もう一人は・・・・・・?
「あ、次、俺か? あ、そっか、俺しかいねえのか。じゃーしょうがねえな」
野太い声を出してのそのそと出てきたその人は、なんというか・・・・・・大工そのもの、みたいな人だった。
いかつい顔で、大柄で、シンプルな青いシャツを着て、汚れた白い半ズボンをはいている。おまけに、頭にはバンダナだ。
私の視線に気付いたのか、その人はニカっと笑って「あ、これか?」とバンダナを指差した。笑うとなんだか優しい感じがする人だ。
「俺大工だからよぉ、汗が垂れると嫌だし、あとこれ巻いてると、なんか大工っぽいだろ?」
「あ・・・・・・そうだったんですか」
この世の中に、こんな大工らしい大工さんがいるとは思わなかった・・・・・・。
その人は大きくて太い手を私に差し出した。握手だ。今日の何回めの握手だろう。みんな違う手を持っている。
その人の手は少し硬くて、爪にはちょっと土が付いてて、でもあったかくていい手だった。
私が手を握り返すと、その人は嬉しそうにブンブンと振って、振りながら自己紹介を始めた。
「俺の名前は南川士郎! 大工だ! あ、これさっきも言ったな。うーん、特に話す事ねえなぁ」
私が「え!?」と言いそうになったその時、士郎さんは「あぁ!」と笑ってバンダナの頭をペチッと叩いた。
「俺とした事が。力だったな、力。そう、俺の力は、自分の考えてる事とか記憶とかを他の人に見せる事が出来るってぇやつだ。すまんな、力は使わねえから、すぐ忘れちまうんだよ」
え・・・・・・?
そんな便利な力なのに、使わない・・・・・・?
「なんで、ですか?」
士郎さんは私の方をまっすぐ向いていて、きっと私の質問は聞こえていたはずなのに、目をそらして聞こえなかったように振る舞った。
ちょっと謎だったけど、もしかしたら聞いちゃいけない質問だったのかもしれない、と思って、気にしないことにした。
母がまた、みんなの方に顔を向けて、ぐるりと見渡してから、優夏さんのところで目を留めた。
「優夏くん、自己紹介、した?」
優夏さんはフッと笑って、
「一応しましたが、まあもう一度言いましょう。まだハッキリ言っていなかったかもしれませんし」
そして私の方に細くて白い手を(ちょっと羨ましい)差し出して、うっすらと笑った。
「改めて、初めまして。僕は有谷優夏と言います。力は、妖を見ることです。妖といっても、まあ幽霊とか妖怪とかそういう類のものは大抵見えます。別に集中力を要することはありません。ただ、その辺に目を向ければいる、というだけの話です。特に─」
視線をちらっとミキさんの方に向けて、
「あの人の周りには、うようよですよ」
ミキさんは顔をしかめる。なんだろう、仲悪いのかな?
そういうことにはあまり関わりたくない私は、黙って優夏さんの手を握った。
そしてとうとう、残るはリーダーの人だけとなった。
その人を振り返ると、まだ座布団の上に座って目を閉じていた。
母もこっそり様子を伺ってから、私の方に向き直った。
「うーん、今日はダメかもね。ああなるとしばらくあのままだから。リーダーなのに申し訳ないけど、今日は帰る、つばめ?」
私は他にどうしたらいいかわからなかったので、母の言葉に黙って頷いた。
母が副リーダーになった話とか、とにかく説明してほしいこともたくさんあったし、宿題も終わっていない。
「じゃあ、また明日寄っていいから。みんなも、来れるようだったらなるべく来てくれると嬉しいな」
最後の方はみんなの方に目を戻して最後を締めた。
みんなもその言葉に頷く。
じゃあ最後、挨拶をして帰ろう。
私はみんなの方を向いて、頭を下げた。
「今日はありがとうございました。また明日、来ます。これからも、よろしくお願いします!」




