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識別師と道中

 辺りを照らすものは何も無い。光源は夜空の星ぐらいだ。焚き火をしても手元ぐらいしか見えない。

 暗闇の中で道具や食料の確認、点検を僅かな明かりを頼りに行っていく。


「もうそろそろ食べ頃だな」

 声につられて顔を上げると、パーティメンバーの1人である剣士が、焚き火で炙っていた肉を手にとって食べ初めていた。

「お腹すいたわー」「一仕事した後の飯は美味い」「お前はいらないよな、何にもしてないもんな」

 剣士が肉の刺さった棒を手に取ってから、残りのメンバーの魔術師、盗賊、僧侶も肉に手をつけ始めた。

 僧侶の言う『お前』は僕の事だ。彼女の言うとおり、僕は今日の魔物との戦闘で何にもしていない。

「わ、分かってます」

 皆から視線を逸らし、手持ちの道具の確認を続ける。

 このパーティーで識別師の役割は荷物持ち。僕がパーティーに加わった時に「今更識別してもらうアイテムなんかないし、見つけたとしてもお前には頼らない」と僧侶に言われた。他のメンバーも「いてもいなくてもいい。でもいない方がいい」とパーティーに入った日に言われた。

 本当はみんなが思っている職業とは違うぞと言ってやりたい。でも彼等には戦う術がある。だから僕なんかが楯突いても何も良い事なんてない。


 識別師、それは僕の職業だ。パーティーの道具の管理は勿論のこと、正体の分からないアイテムの識別や、レア度の高い武具に付属しているオプションの識別を行う、戦闘よりかはデスクワーク向けの職業だ。

 冒険者は回復薬等のアイテムをしっかりと準備してから冒険に出るので、正体の分からないアイテムは拾わない。中身を調べるのにも時間がかかるし、それがその時に欲しいアイテムじゃない事もある。だから事前に持ってきたアイテムだけでやりくりしていくのがセオリーとなってきている。

 だから識別師は世間では役に立たない荷物持ちと評価されている。それが僕は悔しい。


 パーティーメンバーの会話を聞きつつも一心不乱に自分の仕事をしていく。

 会話が止まったので、顔を上げて皆の様子を見る。皆は寝たみたいで、焚き火の周りで雑魚寝していた。


「僕もご飯を食べて寝よう」

 道具の確認、点検を終えると、取り出した道具をリュックの中に閉まっていく。それが終わるとパンと魚の干物を食べた。食事を終えるとそのまま横になって眠った。


「おら、起きろ」

 腹部に痛みを感じて呻きながらの起床。声からして剣士に蹴り上げられたみたいだ。

 鈍い痛みが僕の眠気を吹き飛ばした。数秒呼吸が出来なくなり、息の出来ない苦しみで顔を歪ませる。


「ごめんなさい」

「早く荷物まとめて支度しろよクズ」

「は、はいっ」

 僕は慌てて起き上がり、剣士に言われるがまま荷物を纏める。纏めると言っても道具の詰まったリュックを背負うだけなので時間はかからない。焚き火の火は既に消されているので、荷物を纏めるだけですぐに出発できる。

 リュックを背負う頃には、みんなは既に歩き始めていた。僕は遅れて先を歩く皆の後を付いていく。予定なら今日中に街に着くはずだ。着かなければ食料が危ない。


 このパーティーの最終目標は黄昏の迷宮を踏破して『どんな願いも叶う宝』を手にすること。黄昏の迷宮に行くには街から船を使う。黄昏の迷宮の入り口は海に浮かぶ小さな孤島に存在している。元は無人島だった為、その島には船でしかいけない。

 誰が言い出したのか分からないが、黄昏の迷宮には『どんな願いも叶う宝』がある。らしい。にわかにも信じがたいが、この話を真に受けて黄昏の迷宮に挑戦する冒険者は後を絶たない。挑戦者が途絶えないという事実が宝の存在を確かなものだと裏付けている様な気さえする。

 迷宮の名前も宝同様誰が言い出したのか分からない。でもみんながみんなあの迷宮の事をそう呼んだ。

 誰も黄昏の迷宮を踏破したことがない。だから迷宮を踏破すれば知名度が上がるだろう。僕が欲しいのは宝じゃなくて知名度だ。迷宮を踏破したパーティーに識別師がいたということを知らしめたい。そして識別師の使い物にならないというレッテルを吹き飛ばしたい。


 街へ向かう道中、何回か魔物に遭遇した。

 剣士が魔物を食い止め、その間に魔術師が魔法で魔物に止めを刺す。そのパターンで乗り切ってきた。

 僧侶は傷ついた剣士の怪我を癒す。盗賊は辺りを警戒し、魔物の襲撃を未然に察知して防いでいる。昨日の焚き火を作って寝泊りした場所も盗賊の判断で決めていた。

 そんな中僕は仲間の戦闘をぼーっと立って見ている事しかできなかった。


「この調子なら迷宮も行けるんじゃないか」

 剣士が刀に付着した魔物の血を刀を振って払い落とした。

「でもお荷物が1人いるじゃん。コイツ要らなくない?」

 僧侶が僕を指差す。盗賊と魔術師も僧侶の意見に同意していた。

「今回は運が無かったんだ、諦めろ」

 剣士が吐き捨てる様に言った。

 みんなが僕を悪く言おうとも、僕は黙って歩き続けた。


 識別師みたいな人気の無い職とパーティーを組んでくれる人は中々いない。パーティーメンバーが見つからない人はギルドにパーティー申請するしかない。申請をすると、ギルドが人数の空いているパーティーを探してくれる。ギルドからはそのパーティーに申請者を加えるようにと通知が行く。その通知を断るとペナルティが課せられるので、この申請を断るパーティーは少ない。


 日が暮れる前に目的の街に着くことができた。

 宿で部屋を確保した後は自由時間だ。みんなはお風呂に入りに行ったり街に出かけたりと、散り散りになった。僕は食料と道具の補充をする為に市場に出た。

この街は迷宮が現れるまでは小さな港町だったのだが、迷宮が現れてからは徐々に観光客や冒険者の数が増えて発展していったとか。僕も詳しい事は知らなかったが、大体のなりゆきは街で配っているパンフレットを読んで知った。


 無事に買い物を終わらせ、宿の部屋に戻るとみんなは部屋に居なかった。晩御飯でも食べに出かけているのだろう。そう考えながらリュックを床に降ろす。ふとテーブルの上にメモが置かれていることに気付いた。

「飯を食いに行ってくる。お前は留守番だ」

 メモに書かれた内容を読み上げる。予想通り食事に出かけたみたいだ。

 こんな事態になるんじゃないかと想定した上で、食料は少し多めに買ってある。

 リュックからパンとジャムの入った小瓶を取り出す。パンにジャムを垂らし、そのまま口に運ぶ。イチゴジャムの酸味と甘さが口に広がっていく。

 食事が終わればやる事がなくなってしまった。部屋の中を見渡すと、ベッドの上にみんなの武器が転がっていた。やる事がないのなら武器の手入れをしようと考え、剣士の使う剣に手を伸ばす。

 グリップの汚れを布で拭っていると、みんなが部屋に戻ってきた。


「なに人の武器に触ってんだテメェ!!」

 剣士は剣を持っていた僕を見た瞬間に怒鳴った。謝ろうとしたが、先に拳が僕の顔に打ち込まれた。

「ご、ごめんなさい」

 すぐに剣をベッドの上に戻し、痛む頬を片手で押さえながら自分のベッドに潜り込む。

 みんなの笑い声を尻目に涙を流しながら眠りに就いた。

プロットを作ってみてから小説を書いてみよう、一人称をしっかりしようをテーマに小説を作ってみました。

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