#2 2014年 4月20日 『病室』
日が沈む。
橙色の光が真っ白な病室に射し込んでいる。
4月の終わりをすぐそこまで控えた日の午後は、なんとなく肌寒い。
俺の向かいの男は、窓の外を見つめながら微笑んでいる。
その目には、やはり幼かった日の情景が浮かんでいるのだろうか。
数時間前、雨が降ったせいで散ってしまった桜を見ていると、向かいの男が寂しそうに呟いていたことを思い出す。
「桜、散っちゃいましたね」
4月ももう終わりが近い。
たとえ雨が降らなくても、桜はすぐに散っていただろう。
それでも、彼の表情は暗く、悲哀に満ち溢れているように見えた。
「桜に何か思い入れが?」
はい。
そんな風に答えた彼は、ぽつりぽつりと話してくれた。
彼が幼い頃に出会った、“花の字を持つ女の子”の話。
「13年前が小学1年生なんて、やっぱりあんた若いね」
そう言うと、彼は困ったように笑った。
「えぇ、まだ18ですから」
18歳にして、彼の命は残り僅かだという。
詳しい病名は何も教えてくれなかったが、自分の未来は死しかないと、そう言っていたことがあった。
信じられない。
彼にはまだ輝かしい未来があってもおかしくないのに。
「…それで、その出会いからどうなったんだ?」
小学生の頃に出会った彼女との日々は、彼がこの世界に残している唯一の未練であり、今を生きる希望だと教えてくれた。
言わなくてもわかる。
俺の前に座っているこの男は深く、どこまでも深く。
その女性に恋をしているのだろう。
再び、彼は口を開いた。
13年前、初めてその彼女に出会い、そうして人生のほんの一時。
輝いていた青春の日々の思い出を語った。