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前編

いつもの兄妹のお話です。ただ、現代パラレルみたいな感じですので。

………こういうの書くのって初めてなので、うまく出来てるといいのですが。

思えば、恥の多い人生を送ってきました。

などと語っても、現在の自分を変えることなど出来やしない。

風峰陸斗。今年で20歳になる大学生は、現在スーツ姿のまま特急電車に乗っていた。

諸事情から親元を離れ、遠く離れた街で1人暮らしをしていたのだが………今回、ある連絡を受け、5年以上も離れていた実家へと戻る途中であった。


「…………………………」


学校で普通に授業を受けている中で入ったのは、訃報。

両親が自動車事故に遭い、亡くなったという連絡。

最初にそれを聞いた時、どう反応していいか分からない、という状態だった。

頭が理解に追いつく前に、気がつけば彼は簡単に荷物だけ纏めて、こうして電車に乗っていたのだ。


「………父さんと母さん、か」


正直言って、陸斗は複雑だった。

悲しいと言えば悲しい。確かに身寄りのない自分を引き取り、これまで育ててくれたのだから、恩義は感じている。

だがしかし、自分が彼らを愛していたかと尋ねられたら、素直に頷けるか疑問である。

そもそも、陸斗が家を出る理由というのも、両親から離れたかったからというのが1つであった。

彼らが求めていたのは、あくまで自分達の「理想通りの息子」であって、あるがままの陸斗は求めていなかった。

彼らが陸斗に施そうとしたのも、そのための教育。もう1人の子供も、そうやって育てられた。

彼はそれに耐えきれず、中学卒業に際して家を出た。

幸い、進学先は私立の名門校だったため、家を出る理由も「1人暮らしをして社会経験を積みたい」と説明すれば、変に勘ぐられることもなかった。

ここ数年は電話で簡単なやり取りをするくらいで、顔を合わせたのは家を出る時くらい。

まったく実感がない、というのが彼の正直な感想であった。


「…………………………」


静かに息を吐く。窓の外では、既に日も沈みつつある。

ふと、陸斗の脳裏に1人の少女の姿が浮かんだ。

養子である自分とは違い、風峰家の息女である義妹の姿だ。

血のつながりに関係無く、自分を慕ってくれた相手でもある。………家を出るもう1つのきっかけでもあるのだが、この状況ではやはり心配になってしまう。

陸斗にとっては複雑な相手であっても、あの子にとっては実の両親なのだ。


「………玲夜」


ずっと会っていない義妹の名を、そっと呟いた。











陸斗が実家に到着したのは、すっかり日も沈んでからだった。

彼を出迎えたのは古くから家に詰めている使用人で、顔を見てすぐに家に入れてくれた。

通された先、やや広めの畳張りの部屋には2つ並んだ棺桶がある。本来、顔の部分が覗ける仕組みになっているはずだが、硬く釘打ちされている。


「中は、見ない方がよろしいかと」


使用人の老婆が、そう静かに告げる。

自動車事故だったのだから、やはり相当酷い有様だったのだろう。

こうやって遺体を回収出来ただけ、まだマシなのかもしれないが………。

陸斗は2つの棺桶を前にしたまま、そっと目を伏せ、両手を合わせた。

いくら愛は無かったとしても、死者を偲ぶ感情くらいは存在している。

………両手を合わせ、どれくらいの時間が経っただろうか。目を開け、その場を後にしようとする。


「……おお? 陸斗、帰っとったんか」


そう彼に声をかけてきたのは、大柄な髭面の初老男性。

右頬に大きな古傷が走っており、人相の悪さと相まってカタギの人間ではないように見える。

そんな男性の顔を陸斗はほっとしたような顔になる。


「南澤のおじさん………お久しぶりです」


「そうやな。もう、ここ離れて5年やったか? 大きゅうなったな」


豪快に笑いながら肩を叩く男性に、陸斗は安らいだ表情を浮かべる。

南澤和夫は風峰家の遠縁で、大阪で貿易商を営む男性だ。

養子である陸斗とは血のつながりはないが、彼のことを気に入っており、彼が実家を離れる際にも影ながら手助けしてくれた人物でもある。

と、南澤は棺桶の方に静かな視線を向ける。


「………突然スリップして山道から落ちたらしい。何でそないなところに夫婦揃って行っとったんかは分からん。警察は事件性はない言うとるけど、何があったかは分からん」


「そう、ですか」


「………やっぱ、複雑か?」


南澤氏は、陸斗と風峰夫妻に感じていた軋轢を知る、数少ない1人だ。

今回のことにしても、陸斗が複雑な感情を抱いている、というのは明白であった。


「分からない、っていうのが本音です。突然過ぎて、どう感じてるかも分かんないし、何言っていいのかも分かんないし、頭の中ゴチャゴチャで………」


どうにか、それだけが言葉に出来た。

そう答えると、南澤氏は「そか」と短く答える。

陸斗の中のざわめきを纏めるには、もう少し時間がかかる。

ゆっくり時間をかけて、自分自身に納得のいく答えを出せばいい。

ふと、南澤氏は思いついたように口を開いた。


「そや。そう言えば、玲夜ちゃんには会うたか?」


「玲夜……ですか? いえ、まだです」


「ワイも久しぶりに会うたけど、えろう別嬪さんになっとったで」


そう言われ、記憶の中の玲夜の姿を思い浮かべる。

引っ込み思案の恥ずかしがり屋で、どこへ行くにもいつも自分の後ろについて来ていた。

5年前、1人暮らしをするのにも反対され、駅に見送りに来た時も泣きじゃくっていた。


「玲夜ちゃんも辛いやろうし、早めに会うて安心させたり」


そう言い、ぽんと肩を叩いて南澤氏は去って行った。

………実は、これまで陸斗が家との関わりを断っていた理由の1つに、義妹である玲夜の存在があった。

嫌いというわけではない。寧ろ、愛おしいと想っている。

自分を純粋に慕ってくれたのだから、この家の中で唯一心を開いていた相手と言っても過言ではない。

だがしかし、そんな玲夜の好意に甘えてしまう自分がいる事を自覚し、それを恥じた。

だからこそ家を出る決心を固めたのだが………。


(………玲夜、か)


数分後、意を決した彼は老婆に玲夜の居場所を聞いた。

ちょっと前までは尋ねてくる親族の応対に追われていたそうだが、今は部屋で休んでいるとのこと。

そして、既に陸斗が帰ってきたことは伝えてあるとのことらしい。


「兄さん?」


久方ぶりに聞く、義妹の声だ。

振り向いたそこには、最後に見た時よりもずっと大人っぽくなった義妹の姿があった。

肩口で切りそろえていた黒髪は腰まで伸ばし、背もすらりと高くなった。陸斗は平均的な背丈だが、玲夜は平均女子の身長より高く見える。


「あー………ただいま、玲夜」


そう、彼女の名を口にした。

………すると、その目尻から雫が伝った。

何かマズイことやったか? そう考えた矢先、胸元に玲夜が飛び込んで来た。

突然のことに仰向けに倒れかけるが、そこは男の子。踏ん張って、どうにか1歩下がるだけで倒れずには済んだ。


「兄さん………兄さん、兄さん兄さん兄さん兄さん!」


何度もそう自分を呼び、泣きじゃくる義妹。

陸斗は彼女を抱きしめたまま、そっとその頭を撫でる。

大きくなったのに、撫で心地は昔と変わらないな。

そんな場違いなことを、陸斗は考えていた。


「………ごめんな、1人にして」











「兄さん、あんまり父さん達と仲良くなかったでしょう?」


葬儀を終え、納骨を済ませてから、玲夜がそんなことを尋ねてきた。

知っていたのか、と陸斗が驚きの表情を浮かべるも、お構いなしに玲夜は続ける。


「兄さんが出て行ってから、何度も父さん達、兄さんを呼び戻そうとしてたんですよ。それを南澤のおじさまが取りなしてくれてたんです」


「そう、だったのか?」


「ええ。どうも父さんも母さんも、兄さんが県外に進学するの嫌がってたみたいでしたから」


多分認めたのは、進学先が名門校だったからです。

そう続けた玲夜に、陸斗は納得する。

進学を認めた際、隠していたようだが苦虫を噛み潰したような顔をうかべる時があったのだ。

何度も両親からの干渉を防いでくれていた南澤氏には、やはり頭が上がらない。


「これからどうするかな………」


陸斗が言っているのは、遺産のことだ。

両親はそれなりのお偉いさんだったのだから、遺産もそれに見合うほどある。

しかし、成人したとはいえ大学生の陸斗と、高校生の玲夜に遺産全てを管理しろというのは無理がある。


「遺産に関しては、南澤のおじさまにお任せしようと思っています。気心の知れた相手ですし、しっかり管理してくださると思いますので」


「………そうだな。俺も当面の学費さえ出してくれれば、どうこう言うつもりもないし」


元々、陸斗は家からの仕送りにはほとんど頼っていない。

大学を卒業したら即座に就職し、家との縁を切ろうとまで思っていたくらいだ。

1人暮らしを始めてすぐにアルバイトを見つけ、学費はともかく、生活費は自分で工面していた。


「私、兄さんと一緒にいたいです」


そう呟いた義妹に、陸斗はほんの少しだけ眉を顰めた。

今の玲夜を一人にするのは忍びないが、陸斗も今は大学生で、玲夜自身も地元の高校に通っている。

簡単に頷ける話ではないため、やんわりと諭そうと口を開くも、それよりも早く制された。

玲夜が後ろから、陸斗に抱きついたことで。


「兄さんと一緒が、いいです」


歳の割に発育がよく、服の上からでも豊かな胸は丸わかりだ。

薄着なのか、背中にダイレクトな柔らかさが伝わってくる。

あまり異性と関係を持った事のない陸斗は、いくら相手が義妹といえど、赤面するしかない。

それを知ってか知らないでか、玲夜はさらに抱きつく力を強める。


「兄さんと」


「わ、分かったから離れてくれ!」


色々と気分はいいのだが、これ以上抱きつかれてると恥ずい。

玲夜の事は後々、再び相談するとして………と陸斗は問題を後伸ばしにすることにした。


「玲夜ちゃんも寂しいんや」


その夜、葬儀の後片付けで残ってくれている南澤氏に玲夜の事を相談すると、そんな言葉が返ってきた。

当然、義妹の発育にドキドキした事とかは省いて。


「ワイも聞いた話なんやけどな。玲夜ちゃん、あんまりご両親とうまく行ってなかったらしいんや」


「そう、なんですか?」


それは初耳だ。

陸斗の記憶では、両親は玲夜を溺愛していた。歪ではあったにせよ、そこに愛はあったと思う。

しかし、南澤氏は首を振ってそれを否定する。


「………ここだけの話、最近見合い話が多なっとったんや」


「見合いって……あの子まだ高校生ですよ」


「させる側には関係あらへん。さすがの玲夜ちゃんもそれには反発して、最近はギスギスしとったそうやで」


それを聞いて、陸斗の中に罪悪感がさらに大きくなった。

きちんと連絡を取り合っていれば、それくらいの事は分かっていただろう。

いくらしっかりしているとはいえ、まだ高校生だ。両親と不仲で悩んでいないはずがない。


「個人的な考えやけど、玲夜ちゃんが陸斗と一緒に暮らす言うんは賛成や。あの子、日頃から「兄さんに会いたい」って言うとったし。学校も問題ないやろ。手続きすれば転校も簡単やし、向こうに学校もあるやろ?」


要するに、向こうで一緒に暮らせばいいだろう、と言っている。

確かに陸斗としても、玲夜をこの広い家に独りにするのも気後れする。

玲夜自身、陸斗と一緒にいたいと何度も口にしているし、そんな義妹を残して帰るのも忍びない。

しかし、言葉に出来ないのだが、何となくあの義妹と一緒に暮らすとなるととてつもない嫌な予感がしてならない。本当によく分からないのだがこう………第六感で。

そんな陸斗の悩みが表に出ていたのか、南澤氏はふっと表情を崩し、


「まぁ、しばらくはこっちにおるんやろ? ゆっくり考えたらええ。無理強いするわけにもいかんしな」


ぽん、と肩に手を置いてそう言った。











大学には忌引申請を出してあるし、出席日数的にも数日休んだ程度で問題もない。

とはいえ、実家にいると言っても、特にやる事はない。

玲夜は日中学校に行ってるし、俺としても家でごろごろしてるくらいだ。

が、5年ぶりの家の中はどうにも落ち着かず、仕方なく外に出た。

都会から離れているとはいえ、そこそこに家はあるし、店も出ている。

5年は長いが、そこまでこの街を変えるほどの時間ではなかったらしい。

変わった部分と言っても、せいぜいコンビニやファーストフード店が出来たくらいだろう。


「………変わらないな」


そう呟き、陸斗は歩みを進める。

と、横手に学校が見えた。昔通っていた中学校だ。

授業中らしく、校庭には体操着姿の生徒達の姿が見える。


「あれ、風峰?」


そんな陸斗に声をかける存在があった。

振り向くと、そこにはカジュアルな格好をした、同じぐらいの年頃の男性の姿。

髪は明るい茶髪に染まっていたが、その顔には見覚えがある。


「………中田か?」


「おう、久しぶり」


中田太一は中学生時代の同級生だ。

そこまで深い付き合いでもなかったが、同じクラスだったのでそれなりに話す方、と言ったところだろうか。

それでもやはり、懐かしいものはある。思い出話に花は咲く。


「ご両親、亡くなったんだって?」


「知ってるのか」


「まぁ、有名な話だからな。街の人間はほとんど知ってると思うぞ」


やはり話す事と言えば、それになってしまう。

それなりに偉い人だったので、どうしても話題になってしまうのだろう。

陸斗としても今更としか思えないし、複雑でもあるため、曖昧に答えるしかない。


「しかし、玲夜ちゃんも一人になっちまうんだよなぁ」


「…………………………」


今、家を出て自分と一緒に暮らすという話が出ている。

特別親しいわけでもないので、その話を切り出すつもりは陸斗にはなかった。


「そういや、岡崎憶えてるか?」


「サッカー部の?」


「そうそう。アイツ、ちょっと前に玲夜ちゃんに告ってるんだよ」


初耳だった。

まぁ、これまでなるべく実家とは関わりを持とうとしなかったから、知らなくて当たり前なのだが。

とはいえ、玲夜からもそういった話は聞いていない。もちろん、話すような事でもないのかもしれないが。


「ま、こっぴどくフラれたらしいがな」


「………こっぴどく?」


それはまた、玲夜には似つかわしくない言葉だ。


「………まぁ、世の中には知らない方がいい事もあるって事だ」


そう言い残すと、中田は去って行った。

なんだか気になるが………そこに触れてはいけない気もする。

それにしても、帰ってきて何度も思っているのだが、昔と比べて義妹が随分変わったような気がしてならない。

何と言うかこう、大人っぽくなったのは喜ばしいのだが、何だか違和感があるというか………。


(………いや、考えるのはよそう)


中田も言っていた。知らない方がいい事もある、と。

きっとそこは、知っちゃいけない事なんだろう。

そう自己完結し、とりあえず家に戻ろうと足を進めようとして、


「兄さん、どうしたんです?」


声をかけられて、陸斗は歩みを止める。

振り向けば、そこには制服姿の玲夜の姿があった。


「散歩だよ。久しぶりに帰ってきたし、ちょっと歩いてみようかなと。お前こそ、学校終わるの早くないか?」


「最近は午前中だけなんですよ。それより、一緒に帰りませんか?」


特に問題はない。どうせ行くところも特にないわけだし、なら帰るだけだ。

陸斗はそれに頷くと、玲夜はにこやかな笑みを浮かべ、その腕に抱きつくようにして歩き出す。


「………ずっと、夢だったんです。こうやって兄さんと一緒に歩くのが」


「昔も一緒に歩いてただろ」


「あの頃は………後ろをついていくしか出来ませんでしたし」


確かに考えてみれば、いつも玲夜は後ろをついて来ていた。

引っ込み思案で大人しく、あまり積極的とは言えない義妹。

そんな彼女が、今自分と一緒に歩いている。それが少しだけ嬉しかった。


「………なぁ、玲夜」


「はい?」


意を決して、その言葉を紡いだ。


「向こうで、俺と一緒に暮らすか?」


いくら手伝いの者が出入りしているとはいえ、妹を一人にしてはおけない。

玲夜は見た目からしても、相当な美少女だ。懸想する男がいてもおかしくない。現に中田は告白した男がいるとも口にしていた。

告白程度ならいいが、よからぬ事を企む者がいないとも限らない。

無論、玲夜の意志は尊重するつもりだ。何かと複雑な時期だろうし、いくら兄とはいえ、血の繋がっていない男と暮らすのに抵抗があるかもしれない。


「いいんですか!?」


………眼をキラキラさせ、そう期待大という様子で聞いてくる様子に、心配無かったかと思い直した。

ああ、そういえば「一緒にいたい」って言ってたよな………。


「もちろん、転校やらそういう手続きが終わってからになるけどな」


幸い、陸斗が暮らしている部屋は広い。

同居人が一人増えても問題はない。それくらいなら生活するスペースはある。

………まぁ、最近は勝手に転がり込む奴が約一名いるのだが。


「………私、兄さんと一緒がいいです」


「そうか」


これから大変だな、と陸斗は内心思った。











「………ふう」


湯船に浸かり、陸斗は深く息を吐き出した。

玲夜と暮らす事を決めたが、すぐに暮らせるわけじゃない。やる事は山ほどある。

まず、玲夜の転校手続き。手続き自体はすぐに終わるし、向こうにも学校はいくらでもある。それに彼女の学力も高い方なので問題はない。

引っ越し先は陸斗の暮らしている部屋。一人増えてもスペース的に問題もない。


(とはいえ………)


一番の懸念は、時たま部屋に転がり込む半居候だ。

鉢合わせした際、トラブルが起きないとも限らない。

と言っても、既に引っ越しの話はついてしまっているため、どうとも出来ない。


(どうすっかなぁ)


ぶくぶく言いながらも考えるが、いい案は浮かばない。

やはり直接会った時に考えるしかないのだろうか。


「兄さん、湯加減はどうですか?」


そんな声が聞こえたので、思考を一時停止する。

どうやら玲夜が風呂を沸かしてくれていたらしい。

屋敷といっても昔風の古いタイプなので、風呂は薪をくべて沸かす形となっている。

なので、昔はよく自分達で風呂を沸かし、一緒に入っていた。………昔の思い出だ。


「ちょうどいいぞ」


「あ、じゃあ私も入りますね」


ちょっと待て。

即座にそうツッコもうとしたが、脱衣所に人影が映る。

磨りガラスなのでハッキリとは見えないが、人影からは衣擦れの音が聞こえる。

さすがにそれはマズイだろうと制止しようとしたが、それよりも早く脱衣所の戸が開いた。


「………来ちゃいました」


身体にタオルは巻いているが、隠し切れていない。

歳の割に豊かな胸が自己主張しており、どうやら玲夜自身もそれを隠すつもりはないらしい。上半分が見えている。

一緒に入るわけにはいかない。湯船から上がり、入れ違いに風呂場から出ようとして………。


「一緒に入りましょうよ」


と、腕を掴まれた。

振り払って外に出ようとしたが、今度は抱きつかれるようにして引き留められる。

帰宅前も抱きつかれたが、タオル一枚な分、ダイレクトに柔らかい感触が伝わる。

状況が状況なので、ヘタに振り払えない。

大人しく出るのを諦め、玲夜に促されるように再び湯船へと戻る。


「懐かしいですね。昔はよく二人でお風呂入りましたっけ」


「あ、ああ。そうだな」


確かに二人で風呂に入ったが、それは昔の話だろう。

まだ二人共、凹凸のない小学生だった頃の話であり、特にお互いを意識した事も無かった。

だが今は違う。陸斗は成人を迎えた立派な男で、それ相応に成熟している。

玲夜とて、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。もし裸の彼女がいたら、まず間違いなく正常な男なら飛びつかずにいられないだろう。

現に、陸斗もかなりいっぱいいっぱいであった。


「えいっ」


後ろから、義妹が抱きついてきているから。

湯船に浸かる際、タオルを取り払ってしまったのだろうか。ダイレクトに来てる。


「私、大きいでしょう? 88のEカップですって。クラスで一番なんです」


文句なしの巨乳だ。


(だが玲夜、それを俺に言ってどう反応しろと言うんだ!)


反応に困る男が風呂場に一人。

据え膳食わぬは男の恥。ここで頂いてしまうのも一つの選択である。

だがしかし、相手は義妹。いくら血が繋がっていないと言っても、戸籍上では妹だ。そしてこれから一緒に暮らす相手でもある。そんな相手に手を出すわけにはいかない。

彼の1人暮らし歴は5年にも及ぶ。その間、鍛えに鍛えた自制心で理性を強化し、男の本能を抑え込む。


「…………………………」


陸斗の位置からは見えないが、玲夜はかなり不満そうな表情をしていた。

もしかしたら、彼女としては手を出される事を期待していたのかもしれない。

………互いの想いが通い合うのは、これから数週間後の事。

元々、玲夜との再会の部分までは「リリカルなのは」の二次にしようと思い書き進めていたのですが、「別にこれ二次創作じゃなくてよくね?」と思い、オリジナルにしてみました。

現時点で予定しているのは、玲夜側の経緯や心境。その後どのようにして二人が進んでいくかなどです。



風峰陸斗

大学二年。20歳。

幼少期に風峰家に養子として入るが、両親とそりが合わず、5年前の高校進学に際して家を出る。そのまま実家とはほとんど連絡を取らないまま5年を過ごす。

今回、両親の訃報を聞き、5年ぶりに帰郷する事となった。



風峰玲夜

高校三年。17歳。

陸斗の義妹で、ブラコンともいえるほど陸斗にはベッタリ。

昔は大人しく引っ込み思案で、陸斗の後をついて歩いていた。



南澤氏

風峰家の遠縁。大阪在住の初老男性。

大柄で強面で、右頬に傷があるため、そっちの筋の人とよく間違われるが、実際は貿易商。

気さくな性格をしており、何かと陸斗の便宜を計っていた。風峰家の遺産管理を行う予定。

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