二人目
昼の街は騒がしい。商人の声が飛び交い活気に溢れている。
青年「おばさーん!これ5つ下さい!」
元気な声で果物を買う青年の手には既にもちきれないほどの荷物が抱えられていた。
商人「はいよー!にぃちゃん今日も元気だね!」
青年「おばさんほどではないですよ!繁盛してるみたいでなによりですね!」
商人「あっはは!まだまだ若い者には負けてらんないからねっ!」
青年「ふふ、じゃあ僕はこれで。」
そう言って荷物のせいかヨロヨロと歩きだす。
少しあるいた先には古い教会があった。
青年「こんにちはー!神父様ー?」
呼び声が聞こえ奥から中年男性が顔をだす。
神父「ああ、君か。今日も悪いね。」
青年「いいえ、僕が買い出しに行ってるのはやりたくてやってることですので!お気になさらず。」
照れくさそうに笑いながら言う。
青年「それより、最近街で子供達が消える事件が絶えないみたいですね…。」
先ほどとはうって変わった表情をしている。青年の言う通り最近街で子供の行方不明が相次いでいる。犯人はいまだ特定されていないようだ。
神父「そうみたいだね。本当に許せない、でも神は見ているから大丈夫だよ。きっとすぐ捕まる。さぁ私達も神に祈ろう。」
青年「ええ、そうですね。祈りを捧げましょう。」
二人は神へと祈った。
青年「でわ神父様、僕はこれで。また来ますね!」
神父「ああ、待っているよ。気をつけて帰るんだよ。」
青年「はい。」
青年は教会をあとにした。それから数時間後、街に夜のとばりがおりた。
ルンタッタッン♪ルンタッタッン♪
軽快なリズム、鼻唄をならし遊びながら歩いているかのような人影が月に照らされ浮かび上がる―――……そう、それはまさに道化の姿。
道化「今日も救ってあげなきゃ♪ルンタッタッン♪」
たどり着いた先は…教会。
一ヶ所だけ、ぼぅっと小さな灯りが見える部屋がある。
道化はその部屋を視界に捕らえた瞬間、大きく踏み込んだ。二階くらいの高さの位置にある部屋へと目掛け飛んだ。
………バリーンッ!!
窓を割り中へと飛び込んだ道化は、くるりと着地し部屋の住人に微笑んでこう言った。
道化「君を救ってあげる♪笑わせてあげる♪」
部屋の中にいたのは…昼間の神父。
神父「な、なんだ?!誰なんだ?!」
突然、窓を突き破り侵入されれば驚くのも無理はない。
道化「さぁさぁ、お待ちかね♪道化にございます♪」
神父「道化がなぜここに?頼んだ覚えはない。」
道化「嫌だな~♪待っててくれたんでしょう♪」
神父「なにを言っているんだ?悪いが私は今忙しいんだよ。」
道化「冷たいな~♪待ってるって言ってたのにな~♪あれれ~これなんだろう?♪」
道化は近くにあった机の上の紙を数枚手に取った。
神父「そ、それはっ!」
道化は焦る神父を横目に書かれた内容を読み上げた。そこには、たくさんの人の名前、金額が書かれていた。
道化「これな~に?♪」
怪しい笑みを浮かべながら神父へと問いかざした。
神父「それは…み、身寄りのない子達を育てるのにかかる費用を計算していたんだよ。不景気で大変だからね。ほら、わかったら返しておくれ?」
神父は紙を道化から渡してもらおうと手を差し出す。しかし、道化はその手をはじいた。
道化「嘘つきは人拐いのはじまりだよ♪書かれてる名前、最近街でいなくなった子供の名前ばっかりだよ♪」
神父「………ちっ!」
神父は自分の胸元へと手をいれ、何かを素早くとりだし構えた。
バーン!!!!!
大きな音と壁が壊れパラパラと落ちる音。
壊れた壁には数センチの穴があいている。
神父の手には銃が握られている。
神父「余計な真似をしなければ」
道化「へ~♪この子はずいぶん高値でうれたんだあ♪」
神父の言葉にかぶせるように道化は言った。
神父「お前っ…避けたのかっ!」
道化「神父様~♪なんで子供を拐って売り飛ばしてるの♪神父ともあろう人がさ、変なの♪」
手の紙をヒラヒラさせながら問いかける。
神父「そんなの決まってるだろう。金だよ。最初はここに集まる子達を養うためにやりだした。それも今ではどうでもいいんだよ、金がほしいんだよ。」
手に持つ銃は道化に向けられたまま神父は答えた。
道化「ふ~ん♪そんなにお金が好きなんだあ♪で?もともとここにいた子供達の気配もしないけど?売っちゃった?♪」
銃口を向けられているにもかかわらずニヤニヤと笑う道化。
神父「ああ、その通りさ!お荷物だったんでなあ!だが、残念だ。お前は売れそうにない。死んでもらう!」
バーン!!!バーン!!!
鳴り響く銃声。
道化「あっはははは♪神父のくせに人身売買?君、立派な道化になれるよ~♪」
ふざけながら飛んだり跳ねたり避けている。
道化「ほ~ら♪紙返してあげるよ♪僕からまた取られないようしっかり手で握ってることだね♪」
神父は慌てて紙を掴み取る。
道化「ほらほら、僕を殺さなくていいの?僕、このこと誰に言っちゃうか分からないよ~♪ははは♪」
道化は窓から外に飛び出した。
神父「くそっ!待てっ!」
神父も道化の後を追うため下におり外にでた。
道化「鬼さん、こっちら~♪手のなる方へ~♪」
道化は上機嫌で逃げて行く。時折、足を止め神父が近づくのを待っている。神父は息も上がり、当たる気配もない銃を撃ちながら追いかけてきている。
神父「あの道化めっ!…?!なんだ?なにか顔に違和感が……?きのせい…か。それより道化だ!」
道化は相変わらずクスクス笑いながら逃げている。
二人がしばらく鬼ごっこをした時…。
道化「あ~あ、行き止まりだ~♪」
わざとらしく遠く離れた神父に向かって言った。
神父「ひ、ひひっ。終わりだ!!死ねー!!」
そう叫びながら道化のもとまで走ってきた。
そう、道化のもとまで。
「お前!なにをしている!銃をおろせー!」
「取り押さえろ!」
道化の声とは違う人間達の声。
神父「?…?!け、警官?!な、なぜ?!」
動揺しきっている神父はあっけなく取り押さえられた。
「ん?こいつなにか握ってるぞ?!」
警官は神父の手から無理矢理奪い取り、クシャクシャになった紙を見る。
その時、少し離れた所にいた警官が
「これは、最近街で行方不明になっている子供達の名前じゃないですか?」
と言った。
「確かに!…ん?お前…?」
警官が先ほどの声の持ち主へと振り返ったが、そこには誰もいない。
「?…まぁいい!それより話を聞かせてもらうぞ!人拐い!」
神父「道化が…道化が…」
すっかり弱々しくなった神父はぶつぶつ道化、道化と呟く。
「なにをわけのわからないことを言ってるんだ!連れていけ!」
神父は数人の警官に囲まれ連行された。
連行の途中、一人の警官が不思議に思い、神父に聞いた。
「お前、なんだ?その顔。」
その言葉に対して不思議に思った神父は夜の窓にうつる自分の顔を見た。
神父「ひっ…!?」
顔には涙の雫のマーク。
神父はそのマークを見て不気味に笑う道化を連想して、またぶつぶつと言いはじめた。
その頃、道化は…。
ルンタッタッン♪ルンタッタッン♪
行き止まりと言った建物の屋根の上に座り、足をばたつかせ鼻唄を奏でる。
その建物は、交番だった。
道化「救ってあげたよ、神父様♪」
次の日。
街での話題は神父の人拐いの件でもちきりになった。話題が飛び交う中を颯爽と歩く一人の青年。
青年「おばさん、これ一つ下さい。」
おばさん「あら、あんた!聞いた?近くにある教会の神父の話!」
青年「ええ…とても残念です。まさか、神父様が…。」
おばさん「ショックだろうね、あんたよくお使いしてたものね…。元気だしな!ほら、サービスで一個あげるよ!」
青年「わぁ!ありがとうございます!気を使っていただいてすみません。」
おばさん「いーの、いーの!またおいで!」
青年「ぜひ!それでわ、また。」
青年は笑顔で店をあとにする。ゆっくり歩きだす青年の足元に一匹の野良猫がじゃれる。歩みをとめ身をかがめ野良猫を撫でる。
青年「金に溺れて自分を見失うなんて愚かだと思わないかい?あのおっさんはね、捕まったけど救済されるんだよ。外にでてくる前に寿命がくるし、裁く人間が外に出るのを許さないかもしれないけど…それも救済の一つだ。また一人、救ってあげたよ?」
低くかがんだ青年の表情は周りからは伺えない。ただ一匹、野良猫をのぞいて。
野良猫の大きな目には…目元の涙の雫、そして歪み微笑む口がうつっていた。
第二話 神父の真実