君を救ってあげる♪(僕を救って)
悲しい、嬉しい、つらい、楽しい、劣等感、優越感。
泣き、笑い、騙し、騙され、出会いと別れ。
さぁさぁ!
僕は愉快な道化!みんなを笑わせてあげる!
今日も僕はみんなの元へ行くよルンタッタッンルンタッタッン♪
ああ、いとおしい人間。
ああ、にくらしい人間。
――――さぁ今行くよ。
道化「さぁ、今日もみんなを救ってあげなきゃ♪」
道化と名乗る男は上機嫌で鏡に向かい化粧をしている。
道化「よし、完璧♪」
そう呟いて目元に涙の雫をつけたし満足げに微笑んだ。
軽快なステップを踏み鼻唄をならし扉の向こうへ向かう。
太陽が沈み夜が街を覆った頃の御話し。
街の人気のない路地裏、そこには道に転がり動かない男が一人。
すぐそばには、転がる男に寄り添う女が一人。
道化「匂うな~♪鼻をくすぐるな~♪」
女は無言のまま道化へと目線を移動する。
重そうに口をひらき女は言った。
女「邪魔しないで。」
道化「僕は道化、笑わせてあげるよ?♪」
女「遠慮するわ。今、とても幸せなのよ。」
道化「幸せ?幸せ?摩訶不思議♪なぜ幸せ?」
女「愛してる男が私のものになったのよ。もういいでしょ、どっか行って。」
道化「そりゃめでたい♪その人形がきみのもの♪」
女「……いい加減にして!人形じゃないわ!よく見てみなさいよ!」
道化「うん、見えるし見てるね♪その人形、目が開いたままだからね♪ほら見てる♪」
道化はそう言いながら人形と呼ぶ男の顔を、女のほうへと乱暴に向けた。
道化「ほら、目が合った♪」
女「……やっと、私を見てくれた。これからは私だけを見てくれるわよね?」
男に向かって女は問いかける。
道化「むーりっ♪」
またもや道化は男の顔を乱暴に動かす。その生気のない目は道化へと移動した。
その瞬間女は
女「返して!!!!!!!!!」
地面に落ちていたナイフのようなもので道化を切りつける。
しかし、道化は身軽な動きで宙に一度円を描き一歩後ろへヒラリと着地して笑う。
道化「おっとっと~、くるくる回る♪」
女はそんな道化の言葉を聞いているのかいないのか、男を両手で抱え睨んでいる。
女「この人は私だけのものよ!私だけを見て愛しくれるのよ!私以外に見向きもしないの、ねぇ?そうでしょう?だってすぐどこかに行ってしまう貴方なんてもういないものね?私が消してあげたものね?」
返事は当たり前の如くない。
道化「君は消したね♪でも愛してくれる人を消した、消した――――殺したね♪」
女「これで……あなたはこれから私だけの…フフフ、愛してるわ。」
道化「おやぁ~?おかしな人だな~♪人形を愛してる?あはは♪じゃあなぜ人形にしたの?ねぇ、なぜ殺した?♪」
女「彼を私だけのものにするためよ。」
道化「人形は動かない、意思もない、だから君を愛してない♪」
女「愛してくれるわ!だって彼はっ…!?」
言葉を発している途中、女は驚き目を見開く。その原因は道化だ。
今、女の顔のすぐ前に道化の顔がある。先ほどまでは距離があったはずなのに。
道化はニタリと笑った。
道化「君の御話しは終わり♪あきたよ♪気づいてるくせに気づかないふり?君は自分のことばかり、感情ばかり彼に押し付けて、彼が他のレディに逃げたのも納得だ♪」
そう良いながら道化の右手は女の首に優しく絡み付いていた。
女「だ…だって、彼を一番愛しているのは私なのに…」
道化「それを決めるのは君じゃない♪可哀想にね、君に惚れられたばっかりにお人形の仲間入り♪」
女「私にはそれしか方法がなかった…私が彼を殺した…?私が?」
女はだんだんと勢いをなくしていく。気づかないふりをしていたことに気づいたかのように。
道化「そう♪き・み・が♪」
女「っ!…あ、いや…いやっ!」
必死に男を揺さぶりだす。その時、女の首に絡み付いていた右手は道化とは違う右手が絡み付いていた。
女「…え?」
手をたどり相手を確認する。
その手は動かないはずの
男 の 手。
女は喜びと戸惑いの表情を繰り返す。
男「俺と一緒にいたいか?」
女「え、ええ!もちろんよ!さっきはごめんなさい、痛かったわよね。」
男「じゃあお前が俺のいる場所にきてくれ。もしお前がたどりつけたなら、きっとずっと一緒だ。」
女は一瞬唖然としたが、すぐに何かを悟ったように微笑んだ。
女「………わかったわ。今行く、これからはずっと一緒ね、永遠に。」
そう言うと先ほど道化を切りつけようとしたナイフを手に取った。
絡み付いている男の手ごと女は自分の喉めがけてナイフを突き刺した。
女と男は倒れこみ、女はなにかを男に向けて伝えようとしているが、その声は聞き取れない。
あたりは静寂に包まれた。
~♪~♪~♪
静寂を裂く鼻唄が流れる。
そこには倒れている二人からすぐ近くにある建物の屋根に腰掛け、見下ろす道化の姿。
その手には死んでいる男と繋がる長い糸。
翌朝、街の交番の前に人だかり、ざわめく通行人達の目線の先には――――昨夜の男女。
糸が切られた糸人形のように動かない。しっかりとお互いの手を握り合う姿。
しかし、女の閉じられた目元には
涙の雫が描かれていた。
それはまさに道化の目元かのようだ。
通行人にまぎれ無言で二人を見つめる青年が一人。
帽子を深くかぶり表情は隠れている。青年は立ち止まっていた足を上げ街中へと歩きだす。
そして小さな、小さな声でこう呟いた。
青年「愛だのなんだのくだらない。愛は毒にもなる。だからそんな毒から救ってあげたよ。もうこれで二人は苦しくない。二人に幸があらんことを。」
青年は帽子をくいっと手で少しあげ空を見上げた。
青年の目元には
涙の雫が描かれていた。
第一話~愛の毒~