ブラッド・クリムゾン
夏休み、その夏休みの花火祭りの日に俺は疾走していた。
「メルト! そっちだ!」
「わかっておる!」
メルトと呼ばれた黒髪の少女は俺の言葉に反応し暗闇の住宅街を疾走し土手のほうへと走っていく。
それについて行きながら俺自身も土手をすべるように降りると目の前ではメルトと男性が睨み合っていた。
「井上四郎。 26歳、元サラリーマン現在無職。 能力、発火点創造、作成するのは10メートル以内、作成した後50メートルは離れても維持可能。 先月からの連続放火事件においての手口はその能力で特大点の発火点を大手会社の喫煙場所に作成し、社員がタバコを吸いに着たら…ドーンってわけだ」
俺は胸ポケットから手帳を出し自分が追っている事件に対する情報をつらつらと述べる。
「あってるだろ? 連続放火魔さん? 会社を首にされた恨みで無関係の人を殺し続けた…馬鹿な人だ、これで俺らはまたいっそうアンチスキルのやつらに目くじらを立てられ始められ、あんたは政府の犬に殺される」
「黙れぇ!」
俺がそう行った所で井上四郎は叫ぶ。 それと同時にあがる花火の音が耳に響く。
「お前に何がわかる! お前に何が理解できる! この能力を持っているだけで会社からは危惧され! 同僚からは化け物を見る目で見られる! 結婚なんてできやしない! 親からは家を追い出されこんな場所まで来て! 少しのミスで化け物だからと罵られ…大人の世界を生きていない餓鬼何ぞに何がわかるというんだ!」
その目に映るは濁った世界、すべてに裏切られ続けその全てを投げ打ってここにいる存在。
だから同情はしても容赦はしない。
「だからといって人間を殺すのは悪だ」
「ああ、そうだ、俺は悪だ。 だがあいつらのほうが悪だ! 使い勝手のいい能力者は優遇し危険度の高い能力者は俺のような扱い! これのどこが日本は能力者大国、能力者に優しい国、だ…ふざけるなよ!」
「…」
「だから俺の能力を示す、俺の力を見せ付ける。 馬鹿にした罵ってきた化け物は本物の怪物だったとな!」
「ほんとの怪物ね…」
俺はその言葉を聞いて怪物を思う。
「お前らが俺を追い詰めたところはどこだ?」
井上四郎が唐突にそんなことを言う。
「そりゃ花火祭りの開催……っ、そう言うことか」
「こりゃまずいのぅ」
井上四郎の意図に気が付いた俺は息を呑むが、その本人と対峙しているメルトは微塵にも心配はしてないようにそう言う。
「そうだ! 俺たちがいる反対の土手にあるのは花火の発射装置、土手の下といってもすぐ近くには住宅街、俺の能力で走りながら最大能力範囲で引火点を作りながらきた…この意味ぐらいわかるだろう? 探偵さんよ?」
「くっ」
川を挟んでも引火点の連続による爆破の道を作り被害を増大させるこの能力者。
その威力と効果範囲をこの1ヶ月で思い知らされている俺はこの後の起きる惨劇に途方もない焦りを感じる。
能力は…使えない。
「ふむ、何を奏者は悩んでおる。 我に一言言えばいいものを」
わかってる、だからこそそれは言えない。
「何を言っている…」
「我はな自身で判断して最終決定を下すことができぬのよ、それが契約であり呪い、我の決定権は後ろのおる奏者に委ねられておると言っておるのだ」
「…」
「我はこう言っておるのだ、お前を殺して止めるのでその決定をくれと…の?」
そうメルトが言った瞬間に走る戦慄、後ろにいる俺に此処まで思わせるほどなら対面している井上四郎は…。
「う、うわああああああ!?」
叫びながら腰を抜かし地面に尻をつけながら後ずさる。
「そう泣くでない、せっかくの大の男が惨めぞよ?」
「くるな…くるな化け物おお!」
「くく…先ほど自身を化け物といって我を化け物というか」
井上四郎の行動全てが面白いというように笑うメルト。
そう思ったところで目の端、川の向こうで感じる人の気配。
「まずい!」
その言葉に同じ意味を悟った井上四郎は歓喜を上げる。
「俺の勝ちだぁ!」
「キクイチ!」
焦った様なメルトの声。
メルトはきっと町の被害を考えてはいない、俺がこの場にいて爆発に巻き込まれる可能性を危惧して焦っている、名前で呼んだのがその証拠。
だったら…、
「だったら決めるしかねえよな、メルト」
「うぬ」
「殺さないように止めてくれないか?」
「…了解じゃ」
そう言ってメルトは仕方ない主だという表情でその体を疾走させる。
「命まではとらぬ…が、奏者には止めろといわれたのでな、その動きは封じさせてもらうの」
瞬間。 メルトから生える血の色の棘が井上四郎に突き刺さる。
「が!? ぎゃあああああっ!?」
「そう叫ばれては向こうのものたちに気づかれてしまうのでな」
そう言ってメルトは井上四郎の口の中に無理やり手を捻り込む。
「眠れ」
「がっ!?」
その言葉と共に腕を抜き井上四郎は事切れたようにその場に倒れる。 別に死んじゃいない、俺がそう言ったのだから。
そして打ちあがる花火の弾幕。
つられるように見上げる俺。
「ふーむ、戦いがいはなかったが奏者とこの風景を見れたことは存外悪くないの」
「そうかい、お疲れ様」
俺はメルトの頭を撫で、顔に付いた血を拭き取ってポケットから携帯を出し一言入れてきる。
「またあの女に連絡かの?」
「うん、まぁね」
その言葉に彼女はブスっとした表情になる。 そんな顔じゃ綺麗な顔が面白いことになってるぞ? それに事後処理はいつも彼女の役じゃないか。
「あやつは奏者にべたべたしすぎじゃ」
「うーん? そうかな?」
思い当たる節は………うん、なかなかにあった。
「奏者は我のものじゃ、我は奏者のもじゃがな?」
そういって腕に抱きつくメルト。
「お前はいつもよく恥ずかしい言葉を言えるなあ…」
「一目惚れ! というやつじゃからの!」
木っ端ずかしいことを堂々と…でも、こうやって腕に抱きつきながら花火を嬉しそうに見るメルトを見て悪い気にはなれなかった。
「ありがとな」
「ふふん」
今はそのときを楽しむようにと言う様にはかなげに散っては消えていく花火を見て今を楽しもうと思う俺だった。
てきな話を書きたくなったこのごろ