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白の魔術師  作者: Marlowe
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馬車に揺られて

街から街への交通手段は、徒歩か乗合馬車が一般的である。

乗合馬車は無い街もあれば、日に2〜3台出る街もある。

今ディアが滞在している町は月に一度馬車が出ており、5日の足止めで済んだのは運が良かったといえるだろう。

ディアは停留している馬車に乗り込み、人でにぎわう商店街を眺めた。


(これであの子と会うこともないといいんだけど…)


そう思うと心中でため息をつく。


(本人が悪い子じゃないのはわかるんだけどね…。………ナカ来なかったりして……)


ナカが一目で彼女に好意を持った事にはすぐに気付いた。

自分は違う理由で彼女を観察していたのだが、とうやらそれを同じだと勘違いされたことも。

その結果、何度も何度も「どうして逃げるんだ?」と聞かれた。

彼個人が彼女と話すチャンスなら、自分が去ったあとにいくらかあったはずだ。

実際一度去った後に二人の様子をうかがってみれば、楽しげに話している姿も見かけた。

だが、ディア本人が彼女を避けているので「出し抜く」というわけではないが、自分だけが彼女と親しくなるのには抵抗があり歯がゆく思わせたのかもしれない。

ナカのそういうフェアで、なんだかんだ世話焼きな所がディアは気に入っていた。

だから、友人の恋路を応援出来るのなら、ナカが自分と別行動となり彼女と共に行動するのも、万が一自分の望まない事態になったとしても、覚悟を決めて受け入れようかと思っていた。


そんなことを考えていると、ある気配を感じた。

隠そうともしないその気配そのは、間違いなくイーリスが近くにいることを示している。

事態受け入れようとは思ったものの、やはり恐怖心が消えたわけではなく、馬車に乗り込んでくるナカとイーリスを見て、上手く笑顔を向けられた自信はない。

実際には顔がひきつっていただけかもしれない。

自分の存在を確認するや否や、急に表情を強ばらせるイーリス。

途端に気配は圧力へと変わる。


(万が一の事態になったら、二人がなんとかしてくれるかな……)


そんなことを人事のように思いながら、圧力に耐えつつ、二人がこちらに来るのを待った。


「待たせたなディア」


「いや、出発までに間に合えば問題ないでしょ」


「おう。でな、イーリスも同じ方向に行くらしいんだ。途中まで一緒に行っても良いだろ?」


「うん、いいよ」


「お?いいのか?」


反対されるかと思っていたナカは予想外の返答に驚いた。これまでの経緯から絶対に答えはNOだろうと思っていたのだ。

ナカも飾らず、媚を売らず、しっかりしていない訳ではないが、どこか頼りなく目を離せないディアのことを気に入っていた。

そのためディアの返答に一瞬喜んだものの、いつもの人懐こい表情からは考え付かない硬い表情をしたディアに言葉を呑んだ。


「ナカ、これ持ってて」


差し出されたのは旅人が標準的に装備するベルト。

多機能になっていて、旅に必要な最低限の物が全てこれで収納できる。金も、武器も。

そのため、簡単には外れない構造になっており、あらかじめこれが装着されていなかったことが伺える。

彼愛用の短剣はベルトに刺さっている。つまり、ディアは丸腰となる。


「万が一の事態になったら、ナカが俺を止めてね。殺しても構わないから。はい、ここ座ってて」


「え?……え!?」


事態が把握できないナカは、ディアに導かれるままディアがもともと座っていた席から手が届かない程度に離れた場所に座らされる。


「君も………イーリスだっけ?座ったら?」


「いえ。私はこのままで。」


彼女を見れば、今のやりとりで警戒心が高まったようだ。

表情からは緊張の色が伺え、圧力も増している。

ディアはその圧力に耐えるのに、彼の精神は早くも息切れをし始めていた。

現状を打開しなければと早々にディアは口を開いた。


「君が、俺を警戒するのはわからなくはない。だけど俺は誰かに危害を与えるつもりは無いんだ。だから、その力を抑えてくれないかな…。正直、しんどいんだ……」


「え!?」


イーリスが驚愕の表情でディアを見る。

それと共に少し、圧力が弱まった。

双方言葉を交わさずしばしの間があったが、それ以上圧力が弱まる気配はない。

多少弱まったとはいえ、耐え難い力をかけられていることに変わりは無く、ディアは全身からいやな汗が吹き出す。

イーリスの表情を伺えば、先ほど向けられた敵意よりも驚愕と困惑のほうが強まっているようだった。


「……もしかして、コントロール出来ないとか?」


「……すみません何のことでしょう。」


「え!?」


イーリスの顔は困惑を色残しつつも、言葉を発すると共にまた警戒の色が強まる。

同時にまた圧力が増し、ディアは思わず椅子の背もたれに手をついた。

ディアの頭を混乱が支配し始める。相手の状況を観察し、考え得る可能性を頭の中で列挙する。


「君は……もしかして神殿の巫女なの?」


「あ、はい。」


「あぁなるほどそれでそんな強力な聖霊連れてるんだ……。」


「え!?見えるんですか!?」


途端に圧力が急激に弱まる。

イーリスは警戒心よりも驚きのほうが増したようだ。

ディアは強力な圧力から解放され、崩れ落ちるように席に座った。

だが、現状が安心できる状況であるかはまだ分からない。

ディアは長く一息つくと、再度気持ちを引き締めるよう自身を叱咤して口を開いた。


「うん。すごいよ。そんなに大きな聖霊は初めて見る。その聖霊、君の意志や感情に呼応するみたいだね…。」


「そうなんですか・・・。自分では分からないのですが・・・。」


そういうとディアは俯いた。

声のトーンも明らかに下がっており、彼女のコンプレックスに触れたことを察したが、ディアはひとまず自分の都合を優先する。


「だから……なんもしないからちょっと警戒説いてくれないかな…。確かに俺には君が警戒するに足るものがあるんだけど、俺は自我を失ってはいないし、何より俺は君とその聖霊にはまず勝てないしさ。」


「あ!! すみません!!」


弾かれたように顔を上げたイーリスには、先ほどの強張った表情はすっかりなくなり、泣き出しそうな困ったような顔になっている。

今度は思い当たるものがあったのか、わずかに残っていた圧力も霧散する。

それを受け、ディアは危機は去ったと判断し、緊張と強張っていた表情を緩めた。


「いや、話のわかる人で助かったよ…。ナカ、もう大丈夫そうだから、ベルトありがとう」


「…お、おう」


ナカはイーリス以上に状況が掴めていない。

言われるがままベルトをディアに手渡すと、それを装着するディアと俯いたままのイーリスの様子を交互に伺う。


「あ…あの……。」


消え入りそうな声で声をかけてきたイーリスを見やると、視線はすっかり下に落ち、不安げな感じが見るからに伝わってくる。


「本当にすみません……。私、力を上手くコントロール出来なくて、神殿で除霊をしていたときも、取り付かれた方まで倒れていたりとかしょっちゅうで………」


言葉の後半に近づくにつれ、まるで小さくなるように肩を窄めるイーリス。

表情は伺えずとも、今にも泣き出してしまいそうな雰囲気にナカもディアも焦りを覚える。

思わずディアはナカを見やるが、状況がつかめていないナカにフォローができるはずも無いことを思い出し、席を立ちイーリスに歩み寄る。


「うーんと………俺は除霊をしてもらったことも、するのを見たことも無いから詳しくは分からないんだけど、一つの肉体に共存した複数の精神を切り分けるのは相当に難しいって聞いたことがあるよ。実際、俺も旅に出ていろいろな人を見ていて精神の境目が分からない人って確かにいたし、そういう人が主に自我を失って神殿へ運ばれることが多いから、除霊は特に難易度の高いことなんじゃないかな」


顔を覗き込めば、彼女は顔は伏せたまま口を開き、


「……でも、神官様達はそんなことなくて、私だけがこうなんです……。それで修行の旅に……」


喋り終えると同時にディアを見やる。

不安な表情は消えないが、何とか和らげようとディアは優しい笑みを浮かべた。

それを見たイーリスは強い安心感を覚え、気持ちが軽くなり顔を上げられた。

彼女の表情を見たナカが遅れを取ったと思ったのか小さく「あっ」といったのをディアは聞き漏らさなかったが、とりあえず放置。


「まぁ、とりあえず座ろうか」


「はい」


今度は促されるまま座るイーリス。

先ほどは少しはなれたところに座ったディアだが、今度はナカとイーリスの近くに腰をおろし、口を開いた。


「とりあえず、俺のこと説明するよ。」


「あ、はい」


ナカは無言で頷く。なんだか無駄に敵視した視線を送られるが無視する。


「俺ね、霊媒体質なんだわ。」


「霊媒体質ですか…」


「うん。君は魔術師の魔力って感じ取ることはできる?」


「はい。貴方も一目で強い魔術師だと思いました。」


「え!?お前魔術師だったの!?」


思わず叫んでから話の腰を折ってしまったかと思い、ナカは両手で口を押さえた。

その姿に表情をほころばせつつ、ディアが説明を続ける。


「いや、俺魔法使えないのよ。」


「え?それだけ強い魔力があるのにですか?」


イーリスがなにやら驚いているようだが、魔力にご縁の無いナカにはさっぱり分からない。

口元を押さえたまま二人の様子を伺う。


「うん。人って魔術師じゃなくても、少なからず無意識に魔力を使ってそこら変の妖精や悪魔に憑依されないよう身を守ってるじゃない?」


「はい。そのように習いました」


「うん。」


イーリスには基礎知識があると判断し、ナカへ視線を巡らせる。

相変わらず口元を押さえたままの体勢ではあるが、その表情から話しについてこれていることを確認しながら話を進める。


「その身を守っている力を破って憑依するにはその力の何万倍もの力を要するから、一般的に力が極端に弱まった場合か、憑依する側がよほど強くない限り憑依はされないんだけど、俺は生まれつき体外に魔力の放出が出来ないのよ。」


再びイーリスへと視線を戻す。


「だから、俺は妖精や悪魔に憑依された上で魔力比べをして、俺が勝つことで乗っ取られないよう自分を保ってるから、俺の中には数体の精霊と悪魔がいる。

君はその悪魔の魔力に反応したんでしょ?」


イーリスは質問され、戸惑う。


「その…明確には分からなくて。だからまずはお話をさせて頂きたいと思っていたのですが……」


「うんうん。

君のその感知能力は優秀なものだと思うよ。一応悪魔の力は隠してるしね」


「そうだったんですか…。でも魔力が使えないって、何故なんですか?」


ディアは肩をすくめる。


「さぁ?生まれつきこうらしいから。婆ちゃんや両親ががんばって治そうとしたらしいんだけどね。」


「そうなんですか…」


「うん。それで、両親がマジスナにいるらしいから向かっているところなんだ」


それを聞きイーリスはしばし思案する。

その間ナカは お前って実はすごかったんだねー など話しかけ、二人はいつもの雰囲気へと戻っていた。


「……あの」


「ん?」


「よろしければ私もマジスナまでご一緒させていただいてもよろしいでしょうか」


「もちろん!」


他が驚く勢いで答えたナカはその勢いのままイーリスの手を握り、見るからにうれしそうに上下に揺さぶる。


「改めてよろしくな!イーリス!」


「ありがとうございます。ディアさんも、よろしいですか?」


「うん。いいよ。さんは要らないよ。俺もイーリスって呼ぶから」


「はい!よろしくディア」


ディアはこちらへ向けられる愛らしい笑顔と理不尽な軽い非難の目に、こちらも笑顔を返しつつ、予想外ににぎやかになりそうな旅に期待と不安を膨らませた。

すみません後半息切れ…orz(早)

後で修正します(つДTT)

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