婚約破棄を止めた王宮の役人の息子の話
「アルガリータよ!義妹が扇を欲しがっているのにあげないとは何事か?!」
殿下が公然と婚約者公爵令嬢を非難している。
殿下の隣にはプルプル震えている令嬢がいる。これが公爵令嬢の義妹か。
「これはお母様の形見ですわ。これは差し上げられません」
「リッタが可哀想だ。義姉ならあげるべきだ!ええい、こんな冷たい女とは婚約を続行できない。婚約をは【お止め下さい!大変なことになります!】」
俺は介入した。
「誰だ。貴様は!」
「はい、ケビン・ブッカーです」
「知らんぞ!」
「殿下、こいつは王宮の掃除局長の息子です」
「たしか、領地無しの子爵です」
結局、俺はボコられた。
「お、お止め下さいませ。扇を差し上げますから・・・」
令嬢を庇ったつもりだが、逆に令嬢に庇われた結果になった。
更にハンカチまで貸してもらった。
「さあ、ハンカチでございますわ」
「どうもです・・・」
「「「プゥ~クスクスクスクス~~」」」
「ヒーロー気取りか?」
「情けないな」
笑われまくった。
結局、婚約破棄を阻止出来たが・・・学園の低位貴族用のカフェではこの話題で持ちきりだ。
「おい、殿下が公爵令嬢を叱責していたぞ!婚約破棄が起きるかもだ!」
「ケビンが邪魔したんだってさ」
「皆はどちらの派閥?」
「ば~か、派閥の末端にも入れねえよ」
「ねえ、ねえ、政争から戦争にならないかしらね」
「「「戦争起きないかな!」」」
戦争が起きると好景気になる。それは経験則で分かる。
出世の糸口になる。
「おい、ケビン、何故、婚約破棄をとめた?」
「それは、大変なことになるからだよ」
「だから、それが良いんだ」
しつこくからむ同級生がいた。
しかし、中には庇ってくれる友人がいる。
「ケビンを責めるな。どうせ、婚約は破棄されるよ」
「そうよ。時間の問題だわ。それよりも小麦買い占めるようにお父様に言おうかしら」
小麦買い占めの話が出たので。
「どうせ、政争すら起きないよ。小麦の買い占めはやめておけ」
とだけ言ってカフェを去った。
屋敷に戻る。
俺と父上、母上、妹のニーナ、メイドのマリーがいる。
マリーは俺の一歳年下で十六歳だが遠慮がない。
「あら、坊ちゃま。傷だらけですわ。治療して差し上げますわ。令嬢でも取り合いましたか?」
「ああ、そうだ」
「何ですって!ご自分で治療をして下さいませ!」
冗談を言ったら機嫌を悪くした。どうも女心は分からない。
食卓を囲む。母上とマリーが食卓を整えた。
「ああ、女神様、罪深き我らに糧を頂き感謝しております」
父上の祈りの言葉で食事が始まる。
家族の団らんの時間だ。
父上が切り出した。
「ケビン、今夜、ワシと一緒に王宮に行くように、そろそろケビンに仕事を任せたいと陛下が仰せになった」
「はい、父上」
「まあ、ケビン、名誉なことよ」
「お兄様が?私は」
「ニーナはまだ早い」
その後、王宮に行く。我が家の俸給は低いが職務上王宮の近くの屋敷を与えられている。
夜中、陛下に謁見した。父上の少し後ろで俺は座礼を取る。
「王国の太陽であらせられる陛下と太陽に寄り添う月であらせられる王妃殿下にご挨拶申し上げます」
「うむ。ケビンよ。大きくなったな」
「陛下、まだ、まだ、体だけでございます」
とりとめもない話の後に、用件を切り出した。
「ケビン、掃除を命じる」
「御意!」
俺は片膝をついて礼をした。
その後、尚書より資料を渡される。
「・・・・暗記しました。つつがなく掃除をいたします」
「結構です。では資料を回収します」
そして、王宮の奥に行き。
服と髪を整える。
オールバックの強面風?
礼服も遊び人風だ。
「これは・・・」
「ケビン殿はご存じだと思いますが、掃除の時に目立つ服装の方が逆に顔の特徴が取れないのです」
「ケビン様、似合いますよ」
俺はそのまま普通の馬車で王都繁華街に向かった。
ここでは殿下と側近達がお忍びで飲みに行っているそうだ。
婚約破棄の相談をしている。
「殿下、明日こそ婚約を破棄しましょう」
「うむ。変な邪魔が入った」
「リッタも公爵の血を引いている。王妃になれるぞ」
「殿下ぁ、あたし。王妃様になれるのね」
とりとめもないグダグダな話が終わってから。
解散し。
殿下とリッタ嬢は王都の闇に消えた。
ここら辺か。
俺はフードを深く被って2人の前に立った。
「誰だ!」
「ヘンリ~、怖いわ」
刀を抜く。
さすがに殿下は危険を察知し腰に手を当てるが、
横なぐりに剣を振るいリッタ嬢の首を斬った。
痛みを感じさせないと言えば聞こえがいいが・・・これは偽善だ。
何故なら俺は首を切断されたことがない。死んだときのことはわからないから仕方ない。
「ヒィ、ヒィ、私は王子だ。王宮に言えばいくらでも金は払うぞ!」
ドンと腹を蹴飛ばした。
そして、物盗りに見せるために・・・
リッタの体を探り。扇を見つけた。
あの公爵令嬢の扇だ。
そのままフードを捨て派手な姿になり王都の繁華街に消えた。
初めての掃除の後だ。祈りを捧げたくなった。
少し離れた教会に向かう。
馬車が止っている。こんな夜中にも祈りに来ている人がいるらしい。
ドア前の献金箱に銀貨を入れ中にはいると・・・
「姉ちゃん。ずっとつけていたぜ」
「俺らと飲みに行こうぜ」
「お、嬢様逃げて」
酔っ払いが令嬢にからんでいた。
あの馬車の主人か・・・
祈りの邪魔だから、ゴロツキを蹴っ飛ばした。
「おう、邪魔だ。ここでは中立なんだぜ。老いも若きも靴磨きの浮浪者も陛下もな」
「うわ。裏組織の兄ちゃんだ」
「逃げろ!」
どうやら、ただの酔っ払いだったらしい。
「有難うございます。私はマルガリータと申します」
「その、俺は遊び人のハンスって者だ」
「クス、遊び人って、面白いスキルだわ」
「そんなことより何故、こんな夜中に」
「今日は母の命日ですの。義妹に馬車を取られて・・・」
あの公爵令嬢だ。顔を覚えられても嫌だな。
「じゃあ、ごめんなさい」
次の日、学園のカフェは大騒ぎだった。
「大変よ!政争は起きないわ!リッタ嬢、昨晩熱病で急死ですって!」
「え~、何で死ぬのかな!」
「ヒィ、小麦買い占めちゃったよ」
「俺なんて甲冑注文だしたぞ」
「「「何で死ぬんだよ!!!」」」
「なあ、ケビン、何故、政争は起きないって予想できた?」
「だって、ここ数十年、起きてない。起きると思ったら事前に病死しているしな」
その後も婚約は続く。白い結婚になるらしい。二年形式的に結婚したことになり。
その間に代わりの政略結婚が準備される・・・・
マルガリータ様の教室に向かう。ハンカチを返さなくてはいけない。
「マルガリータ様、その扇は?」
「分からないわ。商人が屋敷にやってきて公爵家の家紋がついているからもしかしてと持って来たのよ」
「まあ、良かったですわね・・・マルガリータ様、あら、Dクラスの方が呼んでおりますわ」
会話途中に俺は割って入ってしまった。
「あの、マルガリータ様、この前のハンカチをお返します。きちんと洗濯をさせました」
「まあ、良かったのに、怪我は如何ですか?」
「はい、良くなりました」
「あの、もしかして、ハンス様?」
何だ。顔の特徴を覚えられたか。まだ、まだ俺は甘い。
「では失礼します」
「ちょ、ちょっとお待ちになって!」
慌てて教室を去った。
Dクラスに戻る途中、殿下が木に背を寄りかかって膝を抱えて座っていた。
「・・・リッタ、リッタ・・・」
(だから、大変なことになると言ったのに)・・・と自然につぶやいてしまった。
・・・王宮掃除局、掃除の他に暗殺を受け持つ王しか知らない機密事項であった。
この王国は今日も安泰平和である。
最後までお読み頂き有難うございました。




