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偏差値は戦である  作者: 受験孔明
第一部 転生と初戦〜中学受験編
15/25

第15話「選択」

第十五話 選択


 発表が始まった。


 スマートフォンの画面。


 塾の掲示板。


 受験番号。


 結果は時間差で一つずつ出ていく。


 森岡悠真は、リビングのテーブルに座っていた。


 母はスマートフォンを持っている。


 何度も画面を更新していた。


「……出た」


 母が小さく言う。


 2月1日午後。


 番号を確認する。


「あった」


 短い言葉。


 だが、その一言で空気が少しだけ緩んだ。


(一つ取った)


 悠真は画面を見る。


 確かに自分の番号がある。


 大きな喜びはない。


 だが。


(ゼロじゃない)


 それだけで違った。


 戦い方が変わる。


 心の余裕が生まれる。


 そして。


 結果は少しずつ揃っていった。


 2月2日午後。


 合格。


 2月3日。


 合格。


 押さえ校。


 安全校。


 受かった学校が並ぶ。


 紙に書き出す。


 学校名。


 通学時間。


 偏差値。


 進学実績。


 どれも悪くない。


 いや。


 むしろ良い。


(どこでも行ける)


 そういう状態だった。


 テーブルの上に合格通知が並ぶ。


 母が一枚ずつ見ていく。


「ここ通いやすいね」


「こっちは進学実績がいい」


「雰囲気も良さそう」


 どれも正しい。


 どれも間違っていない。


 普通なら。


 迷わず決める場所だった。


「ここでいいんじゃない?」


 母が一枚を指差した。


 現実的な選択。


 安全で。


 将来も見える。


 悠真はその紙を見る。


(ここでもいい)


 頭では理解している。


 だが。


(でも)


 何かが足りなかった。


 うまく言葉にできない。


 受かった。


 結果も出た。


 努力も無駄ではなかった。


 それなのに。


 心のどこかが静かだった。


 喜びきれない。


 満たされない。


「……考える」


 悠真は言った。


 母は少しだけ間を置き、


「うん」


 とだけ答えた。


 それ以上は言わない。


 簡単に割り切れるものではないと知っているからだ。


 夜。


 自室。


 受験が終わったはずなのに、机の上は片付かなかった。


 問題集。


 模試。


 塾のプリント。


 どれもそのままだ。


 悠真は椅子に座る。


 静かだった。


 何をすればいいのか分からない。


 昨日まで。


 やることは決まっていた。


 問題を解く。


 模試を受ける。


 順位を見る。


 上を目指す。


 だが今は違う。


 終わった。


 終わったはずだった。


(本当に?)


 その問いが消えない。


 机の端には第一志望の学校案内が置いてある。


 何度も開いた跡。


 少し折れた角。


 憧れだった学校。


 まだ結果は出ていない。


 だが。


 なぜか嫌な予感がしていた。


 悠真はノートを開く。


 白紙のページ。


 少し考えて書く。


 ――勝ちとは何か


 ペンが止まる。


 さらに書く。


 ――合格=勝ち?


 しばらく見つめる。


 そして。


 小さく首を振った。


(違う)


 その感覚だけは、はっきりしていた。


 さらに書く。


 ――納得=勝ち


 静寂。


 外はもう暗い。


 リビングから母の声が聞こえる。


 心太が本をめくる音もする。


 いつもの日常。


 だが。


 何かが変わっていた。


 悠真は椅子にもたれた。


 三日間を思い出す。


 選んだ問題。


 捨てた問題。


 迷った瞬間。


 切った判断。


(戦った)


 それは事実だった。


 だが。


(終わっていない)


 その感覚も消えない。


 孔明は何も言わなかった。


 ただ静かに見ている。


 まるで。


 まだ先があることを知っているように。


 悠真は窓の外を見る。


 冬の夜空だった。


 第一志望の結果発表まで、あと少し。


 本当の選択は。


 まだ終わっていなかった。


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