第6話 私は、少しだけ落ち着かないようです
次の実技試験は、ペア制だった。
「二人一組で、防御魔法と補助魔法を連携させる」
教師の説明が、演習場に響く。
「組み合わせは、こちらで指定する」
ざわめきが起こる。
期待と不安が入り混じった、心の反応。
私は、静かに待つ。
誰と組まされても、結果は最適化できる。
そう判断していた。
「アリア・エリシア・ルーメル」
呼ばれる。
「レオン・クラウス」
――予測外。
私は、わずかに目を瞬いた。
「了解……しました」
声が、ほんの少しだけ遅れた気がする。
レオンと並んで、指定された位置へ向かう。
彼は、どこか気まずそうに頭を掻いた。
「よろしくな、アリア」
「こちらこそ。成功率は、十分に確保できます」
合理的な返答。
だが、胸の奥が、静かにざわついている。
「……?」
原因を探る。
ペア固定。
物理的距離の近さ。
周囲の視線。
複合要因だ。
試験開始。
課題は、模擬魔物からの攻撃を想定した連携防御。
一人が防御壁を張り、もう一人が補助を行う。
「私が補助を担当します」
「分かった。俺が前に出る」
役割分担は、即決だった。
レオンが防御魔法を展開する。
少し不安定だが、以前より明らかに改善されている。
私は、彼の魔力波形を観測する。
「……今です」
補助魔法を流す。
彼の防御魔法に、私の魔力が重なる。
防御壁が、安定した。
「お……!」
レオンが、驚いた声を上げる。
模擬魔物の攻撃が、防御壁に弾かれる。
問題なし。
順調――のはずだった。
「次の攻撃、強度上昇!」
教師の声。
同時に、別のペアが視界に入る。
隣のペア。
レオンと同年代の女子生徒が、彼に声をかけていた。
「レオン、大丈夫!? 次、気をつけて!」
彼は一瞬、そちらを見る。
「うん、ありがとう」
その瞬間。
胸の奥が、強く反応した。
「……?」
圧迫感。
温度上昇。
心拍数の上昇。
「これは……」
理解が、追いつかない。
彼が、他者と会話しただけだ。
それ以上でも、それ以下でもない。
だが。
「……処理が、乱れています」
集中が、一瞬だけ途切れる。
補助魔法の出力が、微かに揺らいだ。
「アリア?」
レオンの声で、我に返る。
「問題ありません。出力を修正します」
私は即座に、魔力を再制御する。
防御壁は、再び安定した。
試験は、そのまま成功。
教師が、満足そうに頷く。
「良い連携だ。特に補助が優秀だな」
私は礼をする。
だが、心は――落ち着かない。
試験終了後。
レオンが、少し申し訳なさそうに言った。
「さっき、集中切れたか?」
「……はい」
正直に答えた。
「原因は、特定できていますか?」
彼は、少し驚いた顔をする。
「え、俺に聞くのか?」
「はい。あなたが、関与しています」
彼は目を瞬き、それから苦笑した。
「なんだそれ」
私は、言葉を探す。
「あなたが、他者と親しげに会話すると……」
胸の奥が、またざわつく。
「心の状態が、乱れます」
沈黙。
レオンは、しばらく考えてから言った。
「……それってさ」
彼は、少し照れたように視線を逸らす。
「嫉妬、じゃないのか?」
嫉妬。
初めて聞くわけではない。
概念としては、知識に存在する。
だが。
「……断定できません」
「即否定しないんだな」
「事実として、似た反応です」
私は、冷静に続ける。
「独占欲。不安。比較。喪失の予測」
レオンは、なぜか少し嬉しそうに笑った。
「それ、全部“心”だぞ」
その言葉が、静かに胸に落ちる。
心。
制御できない。
最適化できない。
数値化できない。
「……厄介ですね」
私がそう言うと、レオンは首を振った。
「悪くないと思うけどな」
彼は、真っ直ぐに私を見る。
「アリアが人間になってるって感じで」
その瞬間。
胸の奥が、ふっと軽くなった。
「……評価、更新」
私は小さく呟く。
この反応は、危険だ。
だが――否定したくない。
私はまだ、結論を出せない。
だが、一つだけ確かなことがある。
私は今、
彼が誰かに取られる可能性を、
無視できないと感じている。
――これは、明らかに。
心の、暴走だ。




