第4話 私は、クラスで浮いているようです
結論から言うと。
私は、このクラスで浮いている。
「……理由、分析中」
昼休み。
教室の空気は、微妙に私を避けて流れていた。
視線は来る。
だが、声はかからない。
近づこうとすると、間が空く。
話しかけると、会話が短く終わる。
「嫌悪……ではありませんね」
むしろ、感情――いえ、心の反応としては、恐れに近い。
あるいは、過度な気遣い。
要因は明確だ。
・特別クラス
・才能測定の異常値
・無詠唱魔法
・感情……心が揺れない
「総合評価。“近づきにくい存在”」
私は自分で頷いた。
理論的には、問題ない。
集団から距離を取ることは、学習効率を上げる場合もある。
だが。
「……なぜでしょう」
胸の奥が、少しだけ重い。
この感覚は、昨日まで存在しなかった。
一人でいることは、常だったはずだ。
私は机に頬杖をつき、教室を見渡す。
数人の生徒が、楽しそうに話している。
魔法の失敗談。
教師の愚痴。
くだらない冗談。
「非生産的ですが……」
笑っている。
それを見ていると、胸の奥が、またざわついた。
「……この反応は」
未定義。
だが、無視するには、少し大きい。
そのとき。
「ここ、座っていい?」
声がした。
顔を上げると、黒髪の少年――レオンが立っていた。
トレイを手に、少し気まずそうな表情をしている。
「拒否する理由はありません」
そう答えると、彼はほっとしたように笑い、私の向かいに座った。
「やっぱり、ここ一人だったんだな」
「はい。最適配置です」
「……最適、か」
彼は苦笑する。
しばらく、沈黙。
だが、不思議と気まずくはなかった。
むしろ、周囲のざわめきが、遠くなる。
「なあ」
レオンが口を開く。
「みんな、アリアのこと……すごいって思ってると思う」
「推測としては、妥当です」
「でもさ」
彼は言葉を探すように、少し視線を泳がせた。
「すごすぎて、どう話しかけたらいいか分からないんだと思う」
「……なるほど」
それは、考慮していなかった。
「私は、会話の難易度を上げていましたか」
「うーん……難易度、というより……」
彼は首を傾げる。
「壁?」
壁。
遮断。
隔離。
境界。
「私は、意図的に構築した覚えはありませんが」
「だろうな」
彼は笑った。
「でも、俺は話しかけるけど」
「理由をお聞きしても?」
私が尋ねると、彼は少しだけ照れた。
「昨日、褒められたから」
「事実を述べただけです」
「それでも、嬉しかった」
即答だった。
その瞬間。
胸の奥が、きゅっと縮む。
「……?」
先ほどまでの重さとは、違う。
圧縮されるような、不思議な感覚。
「心拍数、微増」
私は小さく呟いた。
「またそれ」
レオンは笑う。
「アリアって、面白いな」
面白い。
評価としては、肯定的だろう。
だが。
「私は、面白さを提供する設計ではありません」
「でも、今は人間だろ?」
彼は、当たり前のように言った。
その言葉が、胸に落ちる。
人間。
「……はい」
返事が、少し遅れた。
「一人、嫌じゃないのか?」
唐突な質問。
私は、思考する。
嫌、という概念。
回避したい状態。
「昨日までは、問題ありませんでした」
「今日は?」
「……」
答えが、すぐに出ない。
これは、初めてだ。
「少しだけ」
そう答えると、胸の奥が、また反応した。
今度は、さっきよりもはっきりと。
「それならさ」
レオンは、少しだけ笑って言った。
「俺が、隣にいればいいだろ」
論理的ではない。
だが、拒否する理由もない。
「……合理的ではありませんが」
「でも、心にはいいんじゃないか?」
その言葉に、私は静かに目を瞬いた。
心。
昨日まで、解析対象だったもの。
今日、少しずつ、実感を伴い始めているもの。
「……検証する価値は、あります」
私がそう言うと、レオンは満足そうに頷いた。
「じゃあ、決まりな」
その瞬間。
胸の奥の重さが、少しだけ軽くなった。
「記録更新」
私は心の中で、そう呟く。
孤立状態、部分的に解除。
原因。
――レオン・クラウス。
この名前を、私ははっきりと記憶した。
まだ分からない。
だが、確かなことが一つある。
私は今、
一人でいるよりも――
誰かと一緒にいる方が、
少しだけ、楽だ。




