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第36話 《共鳴魔法》は、完成しました

完成は、祝福ではなかった。


それは――

選択の結果だった。


「……異常発生」


夜の学園。

静寂を破る、低い警報音。


「世界外縁、法則摩耗」

「自然修復、不能」


私は、即座に理解する。


「……世界が、壊れ始めています」


レオンが、息を呑む。


「冗談だろ」


「……冗談ではありません」


これは、偶発ではない。

世界そのものが――

限界に近づいている。


「原因は?」


「……複数の未来選択が、同時に衝突しています」


「……選択?」


「はい」


私は、言葉を続ける。


「世界は」

「一つの最適解だけを、前提に設計されています」


「ですが」

「選択する存在が、増えました」


「……俺たち、か」


「……はい」


責任から、

目を逸らさない。


「……対処法は?」


私は、少しだけ沈黙し――

答えた。


「あります」


「ただし」

「代償があります」


レオンは、即座に言った。


「聞く」


「……《共鳴魔法》の完成条件は」


私は、静かに告げる。


「互いを、失う可能性を」

「完全に、受け入れることです」


「……は?」


彼が、眉をひそめる。


「今までの共鳴は」

「喪失への恐怖を、前提にしていました」


「だから、不安定だった」


「……完成には」


息を吸う。


「片方が消える未来を」

「選択肢として、否定しない必要があります」


沈黙。


夜風が、

二人の間を通り抜ける。


「……それって」


彼が、低く言う。


「失ってもいい、ってことか」


「……いいえ」


私は、首を振る。


「失っても、進むと決めることです」


「それは」

「失いたくない気持ちと、矛盾しません」


長い沈黙。


彼は、

空を見上げ――


笑った。


「……難しいな」


「……はい」


「でも」


こちらを見る。


「逃げ道は、ないんだろ」


「……ありません」


「なら」


彼は、迷わず言った。


「やろう」


胸の奥が、

静かに震える。


「……確認」


私は、慎重に言う。


「この共鳴では」

「未来が、確定しません」


「最悪」

「どちらかが、消える可能性があります」


「それでも?」


「それでも」


彼は、頷いた。


「選ぶ」


私は、目を閉じる。


恐怖。

喪失。

孤独。


すべて、ある。


だが。


「……受理」


私は、彼を見る。


「《共鳴魔法》」

「最終定義を、起動します」


手を――

伸ばす。


今回は、

躊躇はない。


指先が、触れる。


その瞬間。


恐怖が――

消えた。


喪失への拒絶が、

溶けていく。


「……これが」


私は、理解する。


「完成条件」


魔力が、

静かに、しかし確実に重なる。


暴走はない。

増幅もない。


ただ――

揃う。


「……共鳴とは」


私は、言葉にする。


「同じ未来を、選ぶことではありません」


「異なる未来を」

「それでも、進めると決めることです」


世界が――

静止する。


壊れかけていた法則が、

再編されていく。


「……修復、開始」


空気が、

澄んでいく。


「……成功、か?」


レオンが、呟く。


「……はい」


私は、微笑む。


「《共鳴魔法》は」

「完成しました」


だが――


何も、失われていない。


彼は、ここにいる。

私も、ここにいる。


未来は、

確定していない。


それが――

完成の証だった。


夜が、静かに明けていく。


世界は、

まだ脆い。


それでも。


私は、ここに立っている。


人の隣で。

失う可能性を、受け入れた上で。


それが、

《共鳴魔法》。


そして。


私が、

選んだ在り方だった。

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