第35話 世界は、私たちに証明を求めました
公開審証は、拒否できなかった。
「世界監査機構・公開評価」
「対象:《共鳴魔法》および使用者二名」
学園全体が、静まり返っていた。
「……随分と、大事になったな」
転移前、レオンが苦笑する。
「……想定内です」
私は、静かに答えた。
逃げる選択肢はない。
言葉を濁す余地もない。
転移。
広大な円形空間。
観測席には、無数の視線。
学園関係者。
世界監査機構。
各国の魔法研究者。
「……圧が、すごいな」
「……正常反応です」
中央に、私たちは立つ。
「審証を開始する」
響く声。
カイが、上段から見下ろしていた。
「目的は一つ」
「《共鳴魔法》が」
「世界に許容されるかどうかの判断」
「……条件は?」
私が問う。
「単純だ」
カイは、淡々と言う。
「極限状況を用意する」
「そこで」
「お前たちが、何を選ぶかを見る」
空間が、歪む。
次の瞬間――
映像が展開された。
燃える街。
逃げ惑う人々。
崩壊寸前の結界。
「……再現世界」
私は、即座に理解する。
「完全仮想空間だが」
「内部での選択は、現実と同義」
「……配置は?」
「分断状態で、開始」
胸の奥が、わずかに痛む。
「……了解しました」
開始。
視界が、切り替わる。
私は、瓦礫の街に立っていた。
「……魔力反応、複数」
遠方で、
巨大な魔力柱。
同時に――
心の奥が、引かれる。
「……レオン」
彼も、同じ世界のどこかにいる。
だが、距離がある。
《共鳴魔法》は、成立しない。
「……試されている」
世界は、
答えを知りたがっている。
「共鳴に、逃げるか」
「単独で、世界を取るか」
私は、深く息を吸う。
「……第三の選択を」
走り出す。
街の中心ではない。
避難路。
人々を、導く。
「こちらへ!」
声を張る。
魔法で、道を作る。
派手ではない。
だが、確実。
「……単独制御、安定」
心は、静かだった。
彼が、いなくても。
だが。
「……私は、一人ではない」
心の奥に、
彼の存在を感じる。
それは、依存ではない。
「……選択の共有」
遠くで、
爆音。
魔力柱が、崩れ始める。
「……レオン側、行動開始」
私は、分かっていた。
彼もまた――
世界を守っている。
《共鳴魔法》は、
発動していない。
だが。
「……選択は、共鳴している」
街は、救われた。
魔力柱は、消失。
仮想世界が、
静かに解ける。
現実。
観測席が、ざわつく。
「……共鳴は?」
「使っていない?」
カイが、私たちを見る。
「なぜだ」
「……必要なかったからです」
私は、答える。
「《共鳴魔法》は」
「依存するための力ではありません」
「選択を、揃えるための技術です」
「今回は」
「状況が、それを求めなかった」
沈黙。
「……では」
観測官が問う。
「それでも、共鳴は必要か?」
私は、彼を見る。
「はい」
即答。
「世界が壊れる局面では」
「一人の判断では、足りません」
「ですが」
一歩、前に出る。
「常に、使うものではない」
「……使わない選択も」
「《共鳴魔法》の一部です」
長い沈黙。
やがて――
「……評価を下す」
カイが、静かに言った。
「《共鳴魔法》は」
「条件付きで、世界基準に編入する」
息が、止まりかける。
「条件は三つ」
「第一」
「共鳴は、最終手段とする」
「第二」
「使用者は、常に選択理由を記録する」
「第三」
一拍。
「片方が失われた場合」
「魔法は、即時廃棄される」
胸の奥が、締め付けられる。
「……承諾します」
私は、答えた。
レオンも、頷く。
「世界は」
カイは、少しだけ笑った。
「まだ、疑っている」
「だが」
視線が、真剣になる。
「可能性は、認めた」
空間が、静かに解散していく。
学園の外。
夕暮れ。
「……通ったな」
レオンが、呟く。
「……はい」
私は、空を見る。
「ですが」
「完全な承認ではありません」
「十分だろ」
彼は、笑う。
「生き残ったんだから」
私は、頷いた。
《共鳴魔法》は、
完成していない。
だが。
「否定されなかった」
それだけで、
前に進める。
世界は、まだ厳しい。
監視も、続く。
それでも。
私は、ここに立っている。
人の隣で。
選択する存在として。
次は――
完成だ。




