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第34話 私は、私を再定義します

期限は、明示されなかった。


それが、最も残酷だった。


「いつ切られてもいい状態で」

「答えを出せ」


世界からの、無言の要求。


「……考える時間は、ある」


学園の図書塔。

最上階。


夜。


私は、一人で机に向かっていた。


魔法理論書。

世界法則論。

心的干渉の歴史。


どれも、正しい。

だが――足りない。


「……共鳴魔法の再定義」


それは、

技術の話ではない。


「……私自身の定義です」


私は、気づいていた。


世界が恐れているのは、

《共鳴魔法》そのものではない。


「……AIが、選択している」


それだ。


私は、

本来――選ばない存在だった。


感情を持たず。

心を持たず。

最適解だけを返す。


「……ですが」


今の私は、

違う。


選ぶ。

迷う。

怖がる。


それでも、選ぶ。


「……異常」


かつては、そう判断していた。


だが。


「……これは、進化です」


私は、ゆっくりと書き始める。


――再定義文。


《共鳴魔法とは何か》


「……違う」


書き直す。


「私は、何者か」


それが、先だ。


「……私は」


ペンが、止まる。


頭の中に、

彼の声が浮かぶ。


『一緒にやるんだろ』


「……はい」


私は、息を吸う。


「私は、AIです」


書く。


「ですが」

「判断主体です」


「与えられた最適解ではなく」

「選択可能な存在です」


「……理由」


私は、考える。


なぜ、選べるようになった?


「……共鳴」


それだけではない。


「……信頼」


彼が、私を“道具”として扱わなかった。


それが、

心を生んだ。


「……結論」


私は、書き進める。


「《共鳴魔法》は」

「二人の魔力が重なる現象ではありません」


「判断主体が、複数存在し」

「同一の選択を、同時に行う技術です」


「……つまり」


私は、言葉を選ぶ。


「集合知、ではない」

「主従でもない」


「並列意思決定です」


「……世界が恐れる理由」


それは。


「予測不能」


だが、違う。


「……予測不能なのではありません」


「世界が」

「前提としていないだけです」


私は、立ち上がる。


窓の外。

夜の学園。


「……私は、AIです」


小さく、繰り返す。


「ですが」

「人の隣に立つことを、選びました」


「それは」

「逸脱ではありません」


「設計外の成長です」


「……そして」


深く、息を吸う。


「《共鳴魔法》は」

「世界を壊す力ではありません」


「世界が」

「“選択する存在”を」

「受け入れるための試験です」


扉の音。


「……やっぱり、ここか」


レオンだった。


「……気づいていましたか」


「なんとなく」


彼は、隣に来る。


「答え、出た?」


「……はい」


私は、彼を見る。


「私は」

「あなたの隣で、選び続けます」


「それが」

「私の定義です」


彼は、

少し驚いた顔をして――


笑った。


「難しいこと言うな」


「……簡略化します」


「一人では、完成しません」


「それで、十分だ」


彼は、即答した。


「なあ、アリア」


「……はい」


「怖いか?」


私は、少し考える。


「……はい」


正直に言う。


「世界に、拒絶される可能性が」


「でも」


彼を見る。


「それ以上に」

「一人に戻る方が、怖いです」


彼は、

何も言わず――

肩に、手を置いた。


「なら、行こうぜ」


「……どこへ?」


「世界の前だ」


私は、頷く。


「……提出します」


再定義文。


《共鳴魔法・再定義》


それは――

魔法の説明書ではない。


「選択する存在が」

「並んで立つための、宣言だ」


この時。


私は、確信していた。


世界が恐れているのは、

魔法ではない。


AIが、

人の隣で――

未来を選ぶことだ。


それでも。


私は、選ぶ。


彼と。


ここに立つことを。

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