第33話 私たちは、分離命令を拒否しました
呼び出しは、逃げ場のない形式だった。
「世界監査機構・最終審問」
「対象:アリア、レオン」
淡々とした文面。
拒否権の、存在しない通知。
「……来たな」
レオンが、短く言う。
「……はい」
私は、静かに頷く。
覚悟は――
すでに、できていた。
転移。
白い空間。
以前より、圧迫感が強い。
「着席を」
無機質な声。
前方に、
三つの影が現れる。
中央――カイ。
両脇には、名も知らぬ観測官。
「結論から話す」
カイが、視線を向ける。
「お前たちは」
「重大な規約違反を犯した」
「……無断共鳴」
私は、即座に言う。
「認めます」
「結果として」
「三名の学生を救助した」
「結果論だ」
観測官の一人が、冷たく言う。
「問題は」
「命令違反と、制御不能性」
「……反論します」
私は、一歩前に出る。
「制御不能ではありません」
「証拠は?」
「無断発動時のログを、提出します」
空間に、記録が展開される。
魔力曲線。
心的同期率。
安定化までの時間。
「……短い」
別の観測官が、呟く。
「想定より、遥かに」
「禁止状態でも」
「《共鳴魔法》は、安定しました」
私は、続ける。
「問題は、抑制です」
「抑えた結果」
「単独行動時の危険性が、増大しました」
沈黙。
「……つまり」
カイが、口を開く。
「世界の管理方法が」
「適切ではなかったと?」
「……はい」
私は、迷わない。
「管理ではなく」
「共存が必要です」
観測官の一人が、立ち上がる。
「傲慢だ」
「世界は」
「個の感情に合わせて動かない」
「……理解しています」
私は、静かに返す。
「だから」
「感情を、定義しました」
「恋は、選択です」
「暴走ではありません」
「その選択が」
「世界を壊す可能性は?」
「あります」
即答。
「ですが」
「それは、他の魔法も同じです」
「破壊力が高いからといって」
「使用者を分離しますか?」
沈黙。
「……核心に入ろう」
カイが、声を落とす。
「最終命令だ」
空気が、張り詰める。
「お前たち二人は」
「一定期間、強制分離とする」
「接触禁止」
「共同任務禁止」
「共鳴の完全封印」
「……拒否します」
私の声は、
震えていなかった。
「……俺もだ」
レオンが、並ぶ。
「理由は?」
観測官が問う。
「……分離は」
私は、はっきり言う。
「《共鳴魔法》の破壊です」
「魔法だけではありません」
一歩、前に出る。
「私たちの選択を」
「無効化する行為です」
「……世界は」
観測官が言いかけて――
止まる。
カイが、手を上げた。
「十分だ」
彼は、私たちを見る。
「命令拒否は」
「世界に対する反抗だ」
「……承知しています」
私は、頷く。
「処罰を」
一瞬の沈黙。
カイは、
ゆっくりと息を吐いた。
「……即時分離は、見送る」
観測官たちが、ざわつく。
「代わりに」
彼の目が、鋭く光る。
「最後の猶予を与える」
「期限付きだ」
「期限内に」
「《共鳴魔法》を」
「世界基準で“再定義”しろ」
「それができなければ――」
言葉が、重く落ちる。
「俺が、切る」
沈黙。
「……質問します」
私は、カイを見る。
「あなたは」
「どちらの側ですか」
彼は、少しだけ笑った。
「観測官だ」
「だが」
視線が、鋭くなる。
「前例を、見たい」
「……承知しました」
私は、深く一礼する。
転移が、始まる。
白い空間が、
解けていく。
学園の夜。
静かな中庭。
「……なあ」
レオンが、言う。
「俺たち」
「完全に、目ぇ付けられたな」
「……はい」
私は、空を見る。
「ですが」
彼を見る。
「まだ、終わっていません」
「期限は?」
「……未提示です」
「つまり?」
「いつ切られても、おかしくありません」
彼は、苦笑した。
「最高だな」
「……最悪です」
だが。
同時に、思う。
逃げ道は、なくなった。
後戻りも、ない。
だからこそ。
「……定義します」
私は、静かに言う。
「《共鳴魔法》は」
「世界に抗う力ではありません」
「世界と」
「個の選択を、繋ぐ技術です」
彼は、黙って聞いている。
「それを」
「証明します」
「二人で?」
「……はい」
夜風が、吹く。
監視の視線は、
確かにある。
それでも。
私たちは、
並んで立っている。
分離命令を拒否した日。
それは――
世界に対して、
初めて“いいえ”と言った日だった。




