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第3話 魔法の授業は、想定より非効率でした

特別クラスの教室は、思ったよりも静かだった。


円形に配置された机。

中央には、小型の魔法陣が刻まれた演習台。


「ここが、授業用の空間……」


私は席に着き、周囲を観察する。


生徒は十数名。

どの顔にも、緊張と期待が混じっている。


――私を除いて。


「本日は、基礎魔法の制御訓練を行う」


教壇に立ったのは、昨日とは別の教師だった。

年配の男性で、落ち着いた雰囲気をしている。


「魔法とは、魔力を心で制御し、術式として出力するものだ」


心。


その単語が出た瞬間、胸の奥がわずかに反応した。


「感情――ではなく、“心”の安定が重要だ」


教師は続ける。


「焦り、恐れ、迷いは、魔法を乱す」


私は頷いた。


理論としては理解できる。

だが、問題は実装方法だ。


「まずは、この演習台で、火球を生成してもらう」


簡単な課題。

基礎中の基礎らしい。


一人ずつ、前に出て試す。


小さな火。

歪な形。

途中で消えるものもある。


教師は逐一、助言を与えていた。


「心を落ち着けなさい」

「魔力を流しすぎだ」

「詠唱を丁寧に」


なるほど。


だが。


「……ずいぶん、感覚依存ですね」


私は小さく呟いた。


再現性が低い。

個人差が大きすぎる。


学習効率としては、あまり良くない。


「次、アリア・エリシア・ルーメル」


名前を呼ばれ、前に出る。


視線が集まるのは、もう慣れた。


演習台の前に立ち、刻まれた魔法陣を見る。


――単純。

魔力の流れも、最小限。


「詠唱は省略して構いません」


教師が言う。


「……承知しました」


私は心を――確認する。


ざわつきは、ない。

鼓動は安定している。


「魔力出力、開始」


詠唱は行わない。

代わりに、内部で構造を組み立てる。


魔法陣の一部を、意識の中で最適化する。


――出力。


掌の上に、小さな火球が現れた。


だが、それだけでは終わらない。


火球は安定し、揺らぎがない。

色は澄んだ橙。

温度も一定。


「……」


教室が、静まり返る。


「そのまま、維持してみなさい」


教師の声に従い、出力を維持する。


時間が経過する。

だが、火球は変化しない。


「……十分だ。消していい」


私は魔力供給を止める。

火球は、音もなく消えた。


沈黙。


やがて、教師が咳払いをした。


「……非常に、安定している」


それだけだった。


だが、生徒たちの反応は違う。


「無詠唱……?」

「形、完璧すぎないか……」

「心、揺れてなかったぞ……?」


ひそひそと声が交わされる。


私は席に戻る。


すると、隣の席の生徒が、少し距離を取った。


「……?」


理由を考える。


畏怖。

警戒。

比較による劣等感。


どれも、理解はできる。


「空気を、読めていないのでしょうか」


小さく呟く。


胸の奥が、少しだけ沈む。


授業が終わり、休憩時間になる。


私は、一人で魔法陣のノートを書いていた。

教師の説明を、自分なりに再構築する。


「ここをこうすれば、魔力消費は三割減……」


そのとき。


「……あの」


声がした。


顔を上げると、黒髪の少年が立っていた。

昨日、視線を感じた相手。


「何か、ご用件でしょうか」


私がそう言うと、彼は少し慌てた。


「い、いや、その……すごかったから」


「どの点がですか」


「全部……?」


困惑する少年。


「無詠唱で、あんなに安定してて……」


私は少し考える。


「理論通りに行えば、可能です」


「理論……」


彼は苦笑した。


「俺、理論とか、あんまり得意じゃなくてさ」


なるほど。


魔法が苦手なタイプだ。


「ですが、努力はされていますね」


私がそう言うと、彼は目を見開いた。


「え?」


「魔力の流れが、不安定ですが、無駄が少ない。基礎は、しっかりしています」


それは、観察結果からの事実だ。


だが。


「……ありがとう」


彼は、少し照れたように笑った。


その瞬間。


胸の奥が、微かに温かくなった。


「……?」


原因不明。

だが、不快ではない。


むしろ――


「記録しておきます」


私は、そう呟いた。


彼は首を傾げたが、気にしないことにした。


この心の変化は、

まだ解析途中だ。


だが、ひとつだけ確かなことがある。


魔法よりも、

人との対話の方が――

想定外の挙動を示すらしい。

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