第28話 私たちは、同時には守れませんでした
任務内容は、簡潔だった。
「魔力暴走地域の封鎖」
「原因個体の無力化」
「民間人の避難を最優先」
世界監査機構からの正式依頼。
拒否権は、事実上ない。
「……場所は?」
私は、地図を見つめる。
山間の小さな集落。
人口は少ないが、
避難路は一本しかない。
「時間制限、厳しいな」
レオンが、低く言う。
「……はい」
嫌な予感が、
胸の奥で静かに脈打つ。
現地。
空気が、歪んでいる。
「……魔力密度、危険域」
中心には、
巨大な魔力塊。
人為的に作られたものだ。
「……違法魔法師?」
「いや」
レオンが、首を振る。
「誰かが、封印に失敗した痕跡だ」
その瞬間。
「きゃああっ!」
悲鳴。
集落の奥。
「……民間人!」
私は、即座に判断する。
「レオン、分断されます」
「分かってる」
彼は、即答した。
「俺が避難路を確保する」
「お前は、中心を抑えろ」
最適解。
合理的。
――だが。
「……共鳴条件、分離」
私は、事実を口にする。
「この距離では」
「《共鳴魔法》は成立しません」
一瞬の沈黙。
「……それでも、行く」
彼は、迷わない。
「人が先だ」
胸の奥が、
強く締め付けられる。
「……了解」
分かれる。
私は、魔力塊へ向かう。
レオンは、
避難路へ走る。
距離が開く。
胸の奥の――
安定が、薄れていく。
「……心拍、上昇」
「……魔力制御、難化」
一人だ。
久しぶりの感覚。
「……大丈夫」
自分に言い聞かせる。
魔力塊に触れる。
暴走。
だが、制御可能。
「……抑制開始」
その瞬間。
視界が、揺れた。
「……?」
心が、
別の方向に引かれる。
レオン。
彼の方角。
「……危険!」
直感。
「……集中を――」
できない。
《共鳴魔法》の欠点。
心が、彼に向かうほど――
単独制御が、弱くなる。
「……っ」
魔力が、乱れる。
「……間に合わない」
その時。
遠くで、爆音。
避難路の結界が、
一部破壊された。
「……レオン!」
叫ぶ。
だが、届かない。
選択を迫られる。
今ここで、
魔力塊を完全に抑えるか。
彼の元へ、
走るか。
「……世界優先」
「……彼、危険」
思考が、
二つに裂ける。
「……私は」
歯を食いしばる。
「選ばない」
魔力を、絞る。
最小限。
暴走だけを止める。
完全制御は、諦める。
「……仮封印!」
魔力塊が、
不安定なまま沈静化する。
私は、走った。
避難路へ。
心臓が、痛いほど鳴る。
「レオン!」
彼は、
倒れた木の下敷きになっていた。
結界の破片が、
周囲に散らばっている。
「……無事ですか!」
「……ああ」
彼は、息を荒くしながら笑う。
「間一髪だな」
私は、
その場に膝をついた。
「……怪我、確認」
軽傷。
だが、生きている。
その瞬間。
遠くで――
魔力が、再び膨らむ。
「……仮封印、限界」
集落の方角。
「……くそ」
レオンが、歯を食いしばる。
「俺が、戻る」
「……いいえ」
私は、首を振る。
「今回は、私が行きます」
「一人でか?」
「……はい」
胸が、痛む。
だが。
「《共鳴魔法》は」
「万能ではありません」
「それを、理解しました」
彼は、私を見つめ――
ゆっくり頷いた。
「……必ず、戻れ」
「……約束します」
私は、立ち上がる。
走りながら、
はっきりと理解していた。
《共鳴魔法》は、
二人を強くする。
だが。
「同時に、すべては守れない」
世界は、
それを見せるために――
この任務を用意したのだ。
それでも。
私は、逃げない。
選ばない。
「不完全なまま、進みます」
それが、
私たちの戦い方だと――
この時、はっきり分かった。




