第24話 選ばせるために、引き離すのですね
噂は、制御できなかった。
「二人で、世界が遅くなったらしい」
「魔法じゃなくて、現象だったって」
「危険すぎない?」
尾ひれがつき、
誇張され、
恐怖に変わる。
「……環境悪化、確認」
私は、廊下で足を止めた。
視線。
距離。
声のトーン。
すべてが、
慎重すぎる。
「アリア」
レオンが、少し前に出る。
それだけで、
空気が変わる。
「……ありがとう」
「礼を言うことじゃない」
だが、その直後だった。
「アリア・エインセル」
教師に呼び止められる。
「至急、会議室へ」
「……レオンも、同席しますか?」
一瞬の間。
「いいや」
「今回は、君だけだ」
胸の奥が、
小さく反応する。
「……了承します」
会議室。
中にいたのは、
三人の教師と――カイ。
「座って」
形式的な指示。
私は、椅子に座る。
「結論から言おう」
教師の一人が言った。
「君たちのペアは、危険だ」
「……理由を」
「制御不能の新系統魔法」
「再現性なし」
「観測困難」
「学園としては、管理できない」
「……だから」
私は、続きを促す。
「一時的に、ペア行動を解除する」
胸の奥が、
はっきりと痛んだ。
「……代替案は」
「ある」
カイが、口を開く。
「君だけを、上位研究区画に移す」
「単独での制御を、完成させる」
「……レオンは?」
「関与しない」
即答だった。
私は、
静かに息を吸う。
「それは、選択ですか?」
「そうだ」
カイは、穏やかに言う。
「力を取るか」
「関係を取るか」
「どちらも、君の自由だ」
自由。
その言葉に、
少しだけ、笑いそうになった。
「……確認します」
私は、視線を上げる。
「これは、安全のためですか?」
「当然だ」
教師が言う。
「学園全体の」
「……私の安全では、ありませんね」
沈黙。
否定は、なかった。
「……理解しました」
私は、立ち上がる。
「回答は、保留します」
「期限は?」
「明日の朝だ」
短い。
廊下に出ると、
レオンが待っていた。
「……どうだった」
「……選択を、迫られました」
私は、正直に言った。
彼の表情が、曇る。
「内容は?」
「……あなたと離れるか」
「力を、完成させるか」
一瞬、
彼の拳が握られる。
だが、すぐに緩んだ。
「お前は、どうしたい」
その問いは、
誘導でも命令でもなかった。
ただの、問い。
「……私は」
胸に、手を当てる。
「一人で強くなる道を」
「もう、知っています」
「でも」
彼を見る。
「それは、戻りたい場所ではありません」
レオンは、
ゆっくり息を吐いた。
「なら、答えは一つだな」
「……はい」
だが。
「ただし」
私は、続ける。
「感情だけで、拒否はしません」
「……何を?」
「条件を、出します」
彼は、少し笑った。
「交渉か」
「はい」
その夜。
私は、一人で考えた。
力を捨てるわけではない。
関係を守るだけでもない。
「……第三の選択」
心を切らず。
一人にも戻らず。
「二人で危険だというなら」
窓の外を見る。
「二人で、管理可能だと証明します」
魔法に、
名前を与える必要がある。
定義。
条件。
限界。
「……未定義だから、恐れられる」
なら。
「定義すればいい」
この時。
私は、はっきりと理解していた。
これは、
恋愛でも、
学園生活でもない。
――思想の戦いだ。
そして、
私はもう。
選ばされる側ではなかった。




