第23話 私たちの魔法は、名前を持っていません
異変は、演習の後半に起きた。
「次は、応用段階に入る」
教師の合図で、
フィールド構成が変化する。
複合属性。
視界制限。
不規則な魔力乱流。
「……これは」
私は、即座に理解した。
「単独想定では、ありません」
「だな」
レオンも、表情を引き締める。
「完全に、試しに来てる」
開始。
視界が、歪む。
敵性体の気配が、複数。
「……魔力供給、段階的に行います」
私は、彼の背後に立つ。
いつもより、近い。
「了解」
彼の返事と同時に、
私は魔力を流した。
――違和感。
「……?」
魔力が、
彼の魔法陣に触れた瞬間。
増幅ではない。
補助でもない。
「……融合?」
境界が、曖昧になる。
私の魔力と、
彼の構築した式が、
区別できない。
「……これは」
レオンも、異変に気づく。
「なあ、これ……」
言葉の途中で、
敵性体が現れた。
「来る!」
彼が反射的に展開する。
だが。
魔法陣が、
通常よりも広く、深い。
「……出力、未指定領域」
私は、慌てて制御を試みる。
だが、拒否されない。
むしろ――
自然に、流れる。
「……止めるべきでは、ありません」
直感が、そう告げている。
「レオン」
「分かってる」
彼は、短く答えた。
「このまま行く」
二人同時に、
集中する。
思考が、
噛み合う。
魔力が、
一つの流れになる。
次の瞬間。
空間が、静止した。
正確には――
静止したように、感じた。
敵性体の動きが、
極端に遅く見える。
「……時間干渉?」
「いや、違う」
レオンが、低く言う。
「俺たちの認識が、拡張されてる」
その通りだった。
世界が、
“理解可能な速度”に落ちている。
「……魔法名、未定義」
私は、冷静に分析する。
「個人魔法では、ありません」
「ペア前提」
「心と判断の、完全同期」
敵性体を、
一体ずつ処理する。
焦りは、ない。
恐怖も、ない。
ただ、
確信がある。
「……終わりました」
最後の敵性体が消えると、
世界の速度が、元に戻った。
沈黙。
次の瞬間。
「今の、見たか……?」
「二人、何した……?」
周囲が、ざわめく。
教師も、
言葉を失っている。
「……演習、終了」
ようやく、それだけ言った。
私の足が、
少しふらつく。
「……魔力消費、過多」
レオンが、すぐ支える。
「無理するな」
「……ですが」
「後だ」
彼は、低く言った。
控室。
二人きり。
「なあ」
彼が、口を開く。
「今の、なんだったと思う?」
私は、少し考えてから答える。
「……未完成の魔法です」
「未完成?」
「はい」
彼を見る。
「私一人では、発動しません」
「あなた一人でも、無理です」
「二人で、心と判断が一致した時だけ」
「それが、条件です」
レオンは、少し笑った。
「面倒な魔法だな」
「……はい」
「でも」
彼は、私の手を見る。
「嫌いじゃない」
胸の奥が、
静かに反応する。
「……私もです」
そのとき。
控室の外から、
気配。
「……盗聴、ありません」
だが、
誰かが聞いていた可能性は高い。
「……注目度、危険域」
私は、結論を出す。
「この魔法は」
「しばらく、秘匿すべきです」
「賛成」
彼も、即答する。
だが。
扉の向こう。
「――やはり、発現したか」
低い声。
カイだ。
「二人でしか使えない魔法」
「しかも、心を媒介にしたもの」
彼は、楽しそうに言う。
「これはもう――」
「偶然ではないな」
私は、扉の方を見る。
胸の奥が、
静かに警戒を強める。
私たちの魔法は、
まだ名前を持たない。
だが。
確実に、
誰かに狙われ始めていた。




