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第2話 魔法学園に入学しました

馬車の揺れは、思ったよりも規則的だった。


「振動周期、ほぼ一定。乗り心地は……良好ですね」


私は窓の外を眺めながら、小さくそう呟く。

御者席から、同乗している女性――先ほどの使用人らしき人が、少し困ったように笑った。


「アリア様、あまり難しい言葉は……」


「失礼。無意識に出力されました」


会話として成立しているのかは分からないが、相手は特に訂正してこない。

この世界では、多少変な言動は許容されるのかもしれない。


やがて、視界が開けた。


巨大な門。

白い石造りの校舎。

空に浮かぶ小さな魔法陣――おそらく結界。


「魔法学園……」


視覚情報だけで理解できる。

ここは、魔法を学ぶための施設だ。


馬車が止まり、私は地面に降り立つ。

周囲には、同年代と思われる生徒たちが集まっていた。


視線が、集まる。


「……?」


理由を分析する。


銀髪。

制服未着用。

そして――美少女。


「なるほど」


注目される要因は、十分に揃っている。


「アリア様、こちらで受付を」


案内されるまま、建物の中へ入る。

広いホールの中央には、水晶のような球体が設置されていた。


「これより、魔力適性測定を行います」


教師らしき男性が説明する。


「水晶に触れ、魔力を流しなさい。結果により、クラス分けを行う」


魔力。

昨日から何度も聞く単語だが、私なりの理解はすでにできている。


――エネルギー。

だが、電力や熱とは異なる。

より曖昧で、心と強く結びついている。


「心……」


胸の奥が、わずかに反応する。


順番に、生徒たちが水晶へ触れていく。

淡く光る者。

少し強く輝く者。

まったく反応しない者もいる。


結果に応じて、教師が頷いたり、メモを取ったりしていた。


そして。


「次、アリア・エリシア・ルーメル」


私の名前が呼ばれる。


前に出ると、ざわめきが少し大きくなった。

視線が集中するのを感じる。


「……測定開始します」


水晶に手を触れる。


ひんやりとしている。

同時に、内部構造が“見える”感覚があった。


「魔力循環路、確認」


私は無意識に、魔力を流した。


――瞬間。


水晶が、強く白く輝いた。


「……っ!?」


教師が目を見開く。

周囲から、どよめきが起こった。


だが、まだ終わらない。


輝きはさらに増し、水晶の内部に細かな光の線が走り始める。

まるで、内部に魔法陣が形成されていくように。


「ちょ、ちょっと待て……!?」


教師の声が聞こえる。


「魔力量が……測定限界を超えている!?」


私は首を傾げた。


「制御は、しているつもりですが」


問題があるとは思えない。

無駄な出力は抑え、効率的に流している。


だが、どうやら基準が違うらしい。


「アリアさん! 一度、手を離しなさい!」


指示に従い、手を離す。

水晶の光は、ゆっくりと収まっていった。


静寂。


やがて、教師が深く息を吐いた。


「……測定結果、特級」


会場がざわつく。


「特級?」

「聞いたことないぞ……」


教師は額に手を当てながら続けた。


「前例が少ないが……魔力量、制御力、理論適性、すべてが異常値だ」


異常値。


「それは、良い意味でしょうか」


私が尋ねると、教師は苦笑した。


「……学園としては、歓迎したい」


周囲の生徒たちの視線が、さらに熱を帯びる。


好奇。

警戒。

羨望。

困惑。


様々な“心の動き”が、空気を通して伝わってくるようだった。


「解析中……」


私は小さく呟く。


この感覚は、昨日よりもはっきりしている。

他者の心が、完全ではないが、何かとして感じ取れる。


「……これは」


少し、怖い。


だが同時に、興味深い。


「アリア・エリシア・ルーメル」


教師が、私を真っ直ぐに見る。


「君は、特別クラスに配属する」


特別。

それは、例外という意味だ。


私は頷いた。


「理解しました」


理解はしている。

だが、心は――少しだけ、落ち着かない。


視線の中に、一つ。

他とは違うものがあった。


羨望でも、警戒でもない。

純粋な驚きと、少しの尊敬。


私は、その視線の主を探す。


――後方に立つ、黒髪の少年。


彼と、一瞬だけ目が合った。


その瞬間。


胸の奥が、微かに跳ねた。


「……?」


原因不明。

だが、記録しておくべき現象だ。


私はまだ知らない。


この出会いが、

私の心を、少しずつ論理から逸脱させていくことを。

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