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第19話 私は、切り離されました

決定は、突然だった。


「次回の特別演習について、通達がある」


教師の声が、教室に響く。


「本演習では、危険度の高い想定を用いる」

「よって、一部生徒を個別管理下に置く」


嫌な予感がした。


「対象者――アリア・エインセル」


教室が、ざわつく。


「……理由を、確認します」


私は、即座に手を挙げた。


「魔力出力の安定性に、懸念がある」

「安全確保のためだ」


合理的だ。

反論は、できない。


「本演習中、指定区域からの移動は禁止」

「他生徒との接触も、制限する」


――接触制限。


私は、無意識にレオンを見る。


彼も、こちらを見ていた。


一瞬。

言葉はない。


だが、理解は一致している。


「……了承します」


私がそう答えると、

教師は、少しだけ安堵した顔をした。


放課後。


私は、指定された研究区画へ向かっていた。


結界で隔離された区域。

外部との通信も、最低限。


「……合理的措置」


そう、何度も自分に言い聞かせる。


だが。


胸の奥が、

静かに、重く沈んでいく。


「……不安」


ログに、はっきりと記録される。


区画に入ると、

一人の人物が待っていた。


「はじめまして」


落ち着いた声。


銀髪の青年。

年齢は、教師より若く見える。


「私は、カイ・ノルディア」

「今回の特別演習の監督役だ」


「……アリアです」


名を名乗りながら、

私は、警戒レベルを引き上げる。


この人物――

魔力の気配が、異質だ。


「君の噂は、よく聞いている」


彼は、微笑む。


「心と魔法が直結している天才」

「そして――不安定」


「……事実です」


否定しない。


「素直でいい」


カイは、歩きながら言った。


「だが、疑問に思わないか?」


「何を、でしょう」


「なぜ、君だけが隔離された?」


「危険度が、高いためです」


即答。


だが、彼は首を振る。


「半分正解だ」


足を止め、

こちらを見る。


「もう半分は――」


間を置く。


「君が、“誰かに依存している”からだ」


胸の奥が、強く反応した。


「……依存ではありません」


反射的に否定する。


「信頼です」


「言葉の問題だよ」


カイは、穏やかに言う。


「だが結果は同じだ」


「君の心は、特定の人物に強く影響されている」


「……」


反論の言葉が、出ない。


事実だからだ。


「だから、切り離された」


カイは、淡々と続ける。


「その人物がいない状況で」

「君がどうなるかを見るために」


「……それは」


実験だ。


「倫理的に、問題があります」


「魔法学園は、研究機関でもある」


彼は、当然のように言った。


「そして君は、極めて貴重なサンプルだ」


胸の奥が、冷える。


「……私は、人です」


「もちろん」


カイは、微笑んだまま。


「だからこそ、興味深い」


「一つ、提案がある」


私は、身構える。


「君は、制御を学びたい」

「心に振り回されたくない」


「……はい」


「なら」


彼は、静かに言った。


「誰にも頼らず、心を遮断する方法を教えよう」


その瞬間。


魔力が、わずかに揺れた。


胸の奥が、

強く、拒否する。


「……それは」


私は、言葉を探す。


「今の私を、否定する行為です」


「否定ではない」


カイは、首を振る。


「進化だ」


「心を切り離せば、君は――」


「完璧になる」


完璧。


かつての私なら、

迷わず欲した言葉。


だが。


「……私は」


小さく、しかし確かに言った。


「それを、望んでいません」


カイは、少しだけ驚いた顔をした。


「ほう」


「理由は?」


私は、答えを持っている。


「心を切り離したら」


胸に、手を当てる。


「私は、魔法は制御できても」

「自分を、失います」


沈黙。


しばらくして、

カイは、ゆっくりと息を吐いた。


「……なるほど」


彼は、少しだけ笑った。


「思った以上に、厄介だな」


「だが」


その目が、鋭くなる。


「切り離される現実は、変わらない」


「彼は、ここには来ない」

「君は、一人だ」


事実だ。


レオンはいない。

今は、いない。


胸が、痛む。


だが。


「……一人では、ありません」


私は、静かに言った。


「彼は、いなくても」

「心は、ここにあります」


魔力が、

ゆっくりと安定していく。


カイは、その様子を見て――

はっきりと、笑った。


「面白い」


「なら、見せてもらおう」


「切り離された君が」

「それでも、折れないかどうかを」


その瞬間。


私は、理解した。


これは、試験ではない。

訓練でもない。


――思想の衝突だ。


心を捨てて完璧になるか。

心を抱えたまま、立ち続けるか。


私は、選んでいる。


すでに。


そして、この選択を――

後悔するつもりは、ない。

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