第18話 私の魔法は、心に従っていました
異常は、演算結果ではなく――
結果そのものに現れた。
「……出力、過剰」
私は、展開した魔法陣を見つめていた。
本来なら、訓練用の小規模魔法。
想定威力、低。
周囲への影響、最小。
だが、目の前で形成されている魔力は、
明らかに規模が違う。
「……これは」
制御は、できている。
暴走ではない。
だが――
出力が、意図より高い。
「原因……心的状態?」
私は、演算を止めた。
数値を追うのを、やめた。
代わりに、
自分の内部に意識を向ける。
胸の奥。
静かだが、張りつめている。
「……不安」
「……恐怖」
「……喪失への想定」
すべて、ここ数日で増大した要素。
「……相関、確認」
私は、再度魔法を発動した。
今度は、意識的に――
レオンの不在を想定する。
一瞬。
魔力が、跳ねた。
「……一致」
背中に、冷たいものが走る。
私の魔法は、
詠唱でも、
理論でもなく。
「……心に、従っている」
これは、
極めて危険な事実だ。
魔法は、本来――
安定した再現性を持つべきもの。
だが、私の魔法は違う。
感情ではない。
心だ。
制御できない揺らぎ。
数値化できない変数。
「……暴走リスク、上昇」
私は、深く息を吸う。
もし、この状態で――
強い恐怖や喪失を感じたら。
想定出力は、
学園結界の許容量を超える。
「……危険」
初めて、
自分自身をそう評価した。
放課後。
私は、人気のない演習場にいた。
一人で、
確認する必要があった。
「……仮説検証」
心を、落ち着かせる。
呼吸を整える。
魔法陣、安定。
次に、
わざと不安を思い出す。
昨日の演習。
別行動。
彼が視界から消えた瞬間。
「……」
魔力が、膨らむ。
「……停止」
即座に遮断。
汗が、額を伝う。
「……確定」
私の魔法は、
心の増幅器だ。
しかも、
本人の自覚よりも、
正直に。
「……これは」
誰かを傷つける可能性がある。
レオンを、
周囲を、
学園を。
「……私には、制御が必要」
だが、
どうやって?
心を、
完全に抑える?
――無理だ。
それは、
今の私を否定することになる。
「……選択肢、再構築」
そのとき。
「……アリア?」
背後から、声。
振り向くと、
レオンが立っていた。
「こんなところで、何してる」
「……危険な実験です」
正直に答えた。
彼は、眉をひそめる。
「危険?」
私は、
すべてを説明した。
魔法と心の相関。
出力の異常。
制御不能の可能性。
言い終えた後、
私は、はっきり言った。
「……私は、危険です」
レオンは、少し黙った。
それから。
「違うな」
静かな声。
「危険なのは、心じゃない」
「……?」
「隠すことだ」
その言葉が、
胸に落ちた。
「怖いなら、言え」
「不安なら、頼れ」
「一人で制御しようとするな」
私は、言葉を失った。
「アリア」
彼は、真っ直ぐ見る。
「お前の心が強いなら」
「俺は、そばで支える」
「それじゃ、足りないか?」
「……」
足りる。
むしろ、
過剰だ。
「……暫定結論」
私は、小さく呟く。
「私の魔法は、心に従います」
「なら」
彼は、笑った。
「心が折れないように、俺がいる」
胸の奥が、
ゆっくりと落ち着いていく。
魔力も、
それに呼応するように静まった。
「……安定、確認」
私は、理解した。
制御すべきは、
心を消すことではない。
「……共有すること」
心も。
魔法も。
不安も。
一人で持たなければ――
暴走しない。
この日。
私は、
新しい制御法を得た。
それは、
最も非合理で――
最も確実な方法だった。




