第13話 恋人という状態が、想定外すぎます
結論から言います。
恋人という状態は――
想定されていた仕様と、大きく異なります。
「……おはようございます」
翌朝。
学園の正門前。
私は、レオンに挨拶をした。
「お、おはよう……」
彼は、明らかに挙動が不審だった。
視線が合わない。
距離が、一定でない。
呼吸が、微妙に早い。
「……体調不良ですか?」
「いや、そうじゃなくて……」
彼は、頭を掻く。
「昨日の今日だから、さ」
昨日。
告白。
受領。
関係性の更新。
「……問題がありますか?」
私は、率直に聞いた。
「問題っていうか……」
彼は、私を見る。
「俺たち、恋人、だよな?」
「はい」
即答。
「正式に登録されています」
「登録って言うな……」
彼は、ため息と苦笑を同時に吐いた。
「……挙動解析中」
私は、彼の様子を観察する。
緊張。
照れ。
期待。
不安。
感情――いや、心の変動が激しい。
「……負荷が高そうです」
「そりゃそうだろ!」
即ツッコミが入った。
「アリアは、平然としすぎなんだよ」
「平常状態です」
「そこが問題なんだって」
理解できない。
恋人になった。
関係性は進展した。
ならば、安定するはずだ。
だが、彼は逆に落ち着きを失っている。
「……仕様外です」
教室。
入った瞬間、
周囲の視線が集まった。
明らかに、違う。
「……?」
私は、小声でレオンに聞く。
「何か、変化がありましたか?」
「いや……多分」
彼は、視線を逸らす。
「俺たち、見た目で分かる」
「……?」
理解不能。
私は、いつも通り席に着く。
彼も、隣。
距離は、昨日と変わらない。
だが。
「……視線、集中」
周囲の観測密度が、異常だ。
「アリア」
前の席の生徒が、振り返る。
「今日、機嫌いい?」
「……通常です」
「なんか、雰囲気柔らかい」
そう言われても、自覚はない。
「……外部評価、変動」
メモしておく。
休み時間。
私は、レオンに質問した。
「恋人状態における、推奨行動を教えてください」
彼は、盛大にむせた。
「ごほっ……な、何だそれ」
「手を繋ぐ」
「会話頻度を増やす」
「特別扱い」
資料では、そうなっている。
「……実行すべきですか?」
真剣に聞いた。
レオンは、顔を真っ赤にする。
「そ、そんなマニュアル通りに聞くな!」
「では、非推奨ですか?」
「ちが……そうじゃなくて……」
しばらく、言葉に詰まった後。
「……ゆっくりで、いい」
彼は、そう言った。
「アリアのペースで」
その言葉を聞いた瞬間。
胸の奥が、静かに反応した。
「……理解」
「あなたがそう言うなら」
私は、頷く。
「ゆっくり、進行します」
昼休み。
並んで歩く。
距離は、昨日と同じ。
触れない。
だが、離れない。
「……不思議です」
私が言う。
「何が?」
「恋人になったのに」
少し考えて、言葉を選ぶ。
「世界は、何も変わっていません」
レオンは、少し笑った。
「でもさ」
「アリアの世界は、変わってるだろ」
私は、足を止めた。
……否定できない。
「……内部状態は、変化しています」
「それで、いいんだよ」
彼は、自然にそう言った。
その瞬間。
私は、理解した。
恋人という状態は――
行動が変わることではない。
世界が変わることでもない。
「……優先順位が、変わる」
それだけだ。
私は、彼の隣にいる。
それが、今の最優先事項。
「……問題ありません」
そう結論付けると、
彼は、少し照れながら笑った。
「その言い方、相変わらずだな」
「改善は、検討中です」
だが。
このままでも、悪くない。
私は、そう思っている。




