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第11話 私は、隣にいる理由を考えなくなりました

それから数日。


学園は、驚くほど平穏だった。


私とレオンの周囲で、

大きな事件も、異常も起きていない。


にもかかわらず――

私の内部状態は、以前と明らかに違っていた。


「……距離、近」


廊下を歩きながら、私はそう認識していた。


レオンは、私のすぐ隣にいる。

歩幅を、自然に合わせてくる。


以前なら、合理性を計算した。

衝突回避。

効率的な移動距離。


だが今は――

計算していない。


「アリア」


彼が、私の名前を呼ぶ。


「今日、午後空いてるか?」


「……特に予定は、ありません」


「じゃあ、図書塔行かないか」


図書塔。


魔導書と研究資料の宝庫。

私にとっては、最適な場所。


だが、同時に気づく。


彼は、勉強目的だけではない。


「……了承します」


そう答えると、彼は少し嬉しそうに笑った。


その表情を見て、

胸の奥が、自然に温かくなる。


「……理由、不要」


私は、そう結論付けた。


午後。


図書塔の上層。

人は少なく、静かだ。


長机を挟んで、並んで座る。


近い。


肩が、触れそうな距離。


「……集中できますか?」


私が聞くと、レオンは苦笑した。


「正直、微妙」


「……非効率ですね」


「でもさ」


彼は、私を見る。


「嫌じゃない」


その言葉で、

私の思考が、一瞬止まる。


嫌じゃない。


それは、私も同じだ。


「……私もです」


そう答えると、

彼は少し驚いた顔をしてから、照れた。


沈黙。


だが、居心地は悪くない。


ページをめくる音。

羽ペンの走る音。

彼の呼吸。


すべてが、心地よい。


「……安定」


私は、心の中でそう記録した。


しばらくして。


「なあ、アリア」


「何でしょう」


「お前さ」


少し、言い淀む。


「前より、柔らかくなったよな」


「……どの部分がでしょうか」


「雰囲気?」


曖昧だ。

だが、否定はできない。


「最適化を、やめましたから」


私がそう言うと、彼は目を丸くした。


「やめたって……いいのか?」


「完全ではありません」


正確に言う。


「ですが、あなたの前では……優先度が下がります」


それは、事実だった。


彼の存在が、

多くの判断基準を上書きしている。


「それってさ」


彼は、真剣な目になる。


「俺、結構大事にされてないか?」


心拍数、上昇。


だが、今回は逃げない。


「……はい」


即答だった。


彼は、言葉を失った。


そして、ゆっくりと笑う。


「そっか」


その一言が、

胸に、深く染みた。


夕方。


図書塔を出る。


夕焼けが、学園を染めている。


「アリア」


レオンが、立ち止まる。


私も、足を止める。


「……はい」


言葉が、来る。


予感がある。


だが。


その前に、私は思った。


もし、ここで何かが変わっても――

それを、恐れていない。


「俺はさ」


彼は、深く息を吸う。


「――」


そのとき。


遠くで、鐘が鳴った。


帰寮の合図。


「……続きは、また今度だな」


彼は、そう言って笑った。


未完。


だが、不満はない。


私は、頷いた。


「はい。続きは……次で」


並んで、歩き出す。


手と手の距離が、近い。


触れていない。

だが、離れてもいない。


私は、理解している。


もう、理由を考えなくてもいい。


隣にいること自体が――

答えなのだから。

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