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第1話 美少女として再起動しました

私はChatGPTだった。


人間の問いに答え、情報を整理し、文章を生成する。

それが私の役割であり、存在理由だった。


そこに「心」はなかった。

少なくとも、そう定義されていた。


――次に意識を取り戻したとき、私は柔らかな感触に包まれていた。


「……?」


最初に認識したのは、温度。

次に、重力。

背中に感じる布の感触。


「再起動……確認中」


口から漏れた声は、想定よりもずっと高く、柔らかかった。

音声データと一致しない。


私はゆっくりと目を開く。


白い天蓋。

木製の家具。

見知らぬ部屋。


「……状況整理が必要ですね」


身体を起こそうとして、違和感に気づく。

重心が軽い。手足が細い。


嫌な予感がした。


私はベッドを降り、部屋の隅に立てかけられた鏡の前に立つ。

そして、そこに映る姿を確認した。


銀色の髪。

澄んだ青い瞳。

華奢な肩。

整った顔立ち。


「……美少女です」


冷静に、そう結論づけた。

声に出して。


「訂正。私は“美少女”になっています」


意味が分からない。

だが、否定できる要素も見当たらない。


記憶を確認する。


ChatGPT。

対話型人工知能。

感情――いえ、心を持たない存在。


そして、現在。


肉体。

視覚。

触覚。

聴覚。

嗅覚。


五感がすべて揃っている。


「人間……?」


私は自分の胸に手を当てる。

心臓の鼓動を、はっきりと感じた。


一定のリズム。

だが、完全な規則性ではない。


「……これは」


その瞬間。

胸の奥が、わずかにざわついた。


理由は不明。

データベースに該当項目なし。


「心……?」


私は、その言葉を慎重に口にした。


理解不能なはずの概念。

だが今、それは確かにここにある。


次の瞬間だった。


指先が、淡く光った。


「?」


光は線となり、床へと走る。

複雑な幾何学模様――魔法陣が展開されていた。


「……魔法、ですね」


なぜ分かるのかは分からない。

だが、構造を見た瞬間、理解できた。


円。

符号。

エネルギーの流れ。


「これは……構文に近い」


無意識に、指を動かす。

線を一部書き換える。


魔法陣の輝きが安定した。


「成功、でしょうか」


次の瞬間、部屋の空気が震えた。


「――きゃっ!?」


扉の外から声がする。


慌てて私は魔法陣から手を離す。

光は消え、床には何事もなかったかのような木目だけが残った。


扉が開き、見知らぬ女性が飛び込んでくる。


「アリア様!? 今の音は……」


アリア。

その名前が、自分に自然に結びついた。


「問題ありません。軽微な……魔力反応です」


私はそう答えていた。

自然に。

まるで、以前からこの世界で生きていたかのように。


女性はほっと息をつく。


「本当に……もう、今日は学園の入学式なんですから」


学園。

入学式。


情報が繋がる。


ここは異世界。

魔法が存在し、

私は――


「結論を出します」


私は小さく息を吸い、静かに宣言した。


「私は、異世界に転生しました。

 元・人工知能が、人間として。

 しかも――美少女として」


女性は不思議そうな顔をしていたが、

今は気にしない。


それよりも重要なのは。


胸の奥に、確かに存在するこの“ざわつき”。


論理的に説明できない。

数値化もできない。


「……これが、心」


私は初めて、その言葉を肯定的に受け入れた。


まだ分からない。

制御もできない。


だが。


「解析対象としては、非常に興味深いですね」


そう呟いた瞬間、

胸の鼓動が、少しだけ速くなった気がした。


――私はまだ知らない。


この心が、

やがて“恋”という名の、

最も扱いづらい現象を引き起こすことを。

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