鰐
朝、目を覚まし立ち上がろうとした僕は木から落ちかけた。
腰に付けていた命綱のお陰で、命綱が結ばれていた枝の下にぶら下がっている。
僕の悲鳴で落ちた事を知った友人たちが、またかよって顔をしながら引っ張り上げてくれた。
僕たちは幼稚園児の頃からの幼馴染、高校2年生の今、夏休みの思い出を作ろうと森林公園の一番デッカイ欅の古木の上にツリーハウスを作り、生活している。
当然だけど森林公園を管理している市に許可を貰ってだよ。
と言っても、少子化の影響で僕たちが生まれる前の30年ほど前から森林公園を利用する人が殆んどいなくなった所為で、市も放置していたから直ぐ許可してくれた。
古木の上にツリーハウスを建て生活を始めて3日目に、市の側を流れる川の上流の山間部に地球温暖化の影響による大雨が降り川が増水。
その所為で森林公園の中を流れる支流でバックウォーター現象が発生して、川が氾濫した。
それで森林公園の中は推定2メートルくらいの水で覆われている。
まぁ僕たちはツリーハウスに、約2週間分の食料やミネラルウォーターを運び上げていたから、孤立してるけどそれほど困ってない。
むしろトイレが楽になったと喜んでいる。
水に覆われなければ、チョット離れたところにある森林公園のトイレまで行かなくちゃならなかったからね。
だから木から落ちたからって死ぬような事は無かったんだけど、死ぬ。
木の下が水だけだったら良かったんだけど、森林公園が水で覆われたら、彼奴等も支流の川岸から公園内に進出して来た。
地球温暖化で元々の生息地から北上して来た鰐たちが。
今も水の中から落ちなかった僕を忌々しいって顔をした鰐が、睨んでいる。




