表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女魔王は角フェチ勇者の偏愛に抗えない  作者: ヨドミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/9

8話 勇者の独白、そして

 十歳で両親と死に別れたローレンスは、五歳年下のマリアンヌを守るため、路地裏で喧嘩を覚え、生き延びた。

 偶然王都で食堂を営む大将に拾われていなければ、使いっ走りの小悪党になっていただろう。

 大将は子供好きで、材料が余ったと言い訳を作っては兄妹に食事を与えた。

 家族がいて飢えることがない。

 おまけに未来ある仕事に就くことができた。

 自分は幸運だと信じていた。そう、マリアンヌが魔族に(さら)われるまでは――。


 王都中を駆け回り、数日後。

 道端で倒れているマリアンヌを発見し、ローレンスは神に感謝した。

 衰弱していたが、マリアンヌに目立った外傷はない。

 ふたたび妹と助け合う日々が過ぎていく。

 その十年後、マリアンヌは十五歳にして、不治の病を患ってしまう。



「魔族領の瘴気に毒されたのね」


 俯くシャルティにローレンスは柔らかい笑みのまま、「その可能性は否定できない」と同意した。

「もともとマリアンヌは幼いころから病弱だ。幼い頃、屋根のない地べたで夜を明かしていたし。……原因はわからないよ」


 病気の身でありながらマリアンヌは明るく振舞い、料理人になった兄の試作品を味見しては、ベッドの上で厳しくも的確な助言をした。

 病を患う前と何ら変わらないと思いきや、夜になると咳や熱がマリアンヌを襲った。

 料理人の給金だけでは薬代が賄えない。

 刻一刻とマリアンヌの病状が悪化していた、そんなある日。


「魔族の角がどんな病にも効くって、知り合いの商人が食堂で噂をしているのを耳にしてね。……藁にも縋る思いだったよ」


 魔族の角であれば種類は問わない。商人はそう請け負ったが、それならば(ちまた)に薬は溢れかえっているはずだ。


『数十年前なら流通してたんだが、最近は奴らと戦争してねえからな。ギルドを通して購入するにしても、兄ちゃんみたいな庶民には手が届かねえぜ』

『……どこに行けば魔族に会えるのか、教えてもらえませんか?』


 商人は連れと顔を見合わせ、『兄ちゃん、本気かよ!』と腹を抱えて笑った。料理人風情が冒険者の真似事でもするのかよ、と嘲笑は止まない。

 ローレンスはエプロンのポケットから金貨を二枚取り出す。商人たちは真面目な顔になった。


『教えてくれますよね?』


 にっこり微笑むローレンスに、二人は呆れた様子で魔族領との国境にある森の名を告げた。


 路地裏には後ろめたい輩が多く吹き溜まっている。ローレンスは彼らから喧嘩の仕方を学んだ。

 なかでも冒険者崩れの中年男は、荒くれ者どもの動きを見て真似るローレンスに面白半分で剣技を教えた。おかげで、ローレンスは冒険者として通用するほどの実力を手に入れた。


 その腕を活かして魔族を狩り、角を砕き、森の湧き水でろ過する。

 瓶の底に一滴、二滴と、虹色に輝く液体が溜まっていく。一体の魔族から絞り出せる量は僅かばかりだった。

 ローレンスは無心で魔族を殺した。角を回収し、魔力が溶けだした液体を作る。


 森でひとり魔族を狩り続けること半年。

 マリアンヌが王都で魔族に襲われた。



 因果応報だよね、とローレンスは眉尻をさげる。


 森から駆け付けると、王都は火の海だった。

 妹を預けた治療院は半壊状態。マリアンヌの病室があった場所は瓦礫(がれき)の山だ。一縷(いちる)の望みをかけ、瓦礫をかき分ける。

 ローレンスの願いも虚しく、瓦礫の下敷きになったマリアンヌは眠るように息を引き取っていた。

 亡骸はまだ温かい。けれど、いくら揺すっても、マリアンヌは目を覚まさなかった。

 気づけばローレンスは王都で暴れ続ける魔族を一体残らず、切り捨てていた。鎮圧に乗り出した王国騎士顔負けの活躍に、国王から勲章を授けられるも、虚しさが増した。


 王都襲撃を機に、ローレンスは戦に参加し、魔族を切り伏せた。

 死体を積み上げても、マリアンヌは帰ってこない。途中から自分が何をしているのか、わからなくなった。


 恨みはやがて歪んだ感情を孕むようになる。


「刎ねた首が宙に弧を描いて飛んだんだ。真っ白な角が青空に映えてね。薬の材料や、マリアンヌの仇だったものが、美しいと思えるなんて……。あ、俺、気が狂ったんだなって、逆に目が覚めたんだよ」


 ローレンスはシャルティの角に手をかざし微笑む。


 大発見をしてからも、ローレンスは変わらず魔族を(ほふ)り続けた。

 誰のためでもなく、角を愛でたいという欲望に任せ、ローレンスは魔族の首を集めに集めた。首の数に比例して、ローレンスへの賞賛は増していく。

 魔族との諍いが激化してきた矢先、国王直々に魔王討伐の命が下された。


【勇者】ローレンスの誕生である。


 多種多様な魔族を狩りつくしたローレンスは、魔王の角に強く惹かれた。どの魔族もそれぞれ魅惑的な角を有しているが、彼らの王たる魔族の長は、果たしてどんな一品の持ち主なのか。

 魔王を倒した暁には、その首を褒美にねだろう。

 ローレンスは浮足立って、王都から魔王城へと旅立った。



「君に会った瞬間、僕が集めてきた角なんか、大したものじゃないって思い知ったんだ」


 魔王城の地下へ続く階段を下りながら魔王の角を夢想する。

 そうしてたどり着いた地下牢には、自分と同じ年頃の女が鎖に繋がれていた。

 アメジストのように輝く瞳に、魔力で青光りする銀髪の女。

 人族と異なるのは大きな巻き角だけである。

 今まで集めたどんな角よりも気高く美しい。


これ(シャルティ)が欲しい)


 ローレンスは居ても立っても居られず、魔王の角に手を伸ばした。

 硬質であるのに、暖かい手触り。ローレンスの罪をすべて包み込んでくれるのではないかと錯覚しそうな包容力を感じる。


 一方で当の魔王はローレンスを威嚇していた。


 そのギャップにローレンスは覚悟を決める。

 シャルティの戒めを解くと、彼女を森の住処へと連れて行くことにしたのだった。


 内側からほのかに発光する魔王の角はいつまで見ていても飽きない。これまで魔族を捕らえれば、すぐさま皮を剥ぎ骨にしていたのだが、そうしてしまえばシャルティの角が持つ生来の美しさが損なわれてしまう。


 ローレンスは魔王(シャルティ)を生かすことにした。


 警戒する彼女に食事を与え、綺麗に身支度させる。そうして磨き上げると、女魔王は貴族の姫君と遜色ない威厳を漂わせた。

 それでいて口いっぱいにローレンスの手料理を頬張る姿はあどけなく、見ていて飽きることがなかった。

 魔王の角を愛し、ローレンスはシャルティに結婚を申し込んだ。

 シャルティが自分に懐いていくにつれ、角よりも彼女の表情に目が行くようになった。彼女に妹を重ね、親近感を抱いたのかと自問自答するも、しっくりこない。


 強烈な執着心を自覚したのは、シャルティが裏切り者をかばった瞬間だった。愚直に同胞を守ろうとする彼女が愚かで、それでいて愛おしくなってしまった。

 その反面、自分以外に興味を抱く彼女が許せなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ