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女魔王は角フェチ勇者の偏愛に抗えない  作者: ヨドミ


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4話 女魔王は忠臣に再会する

 魔王城の地下牢から連れ去られ、数カ月が経過した。


 ローレンスはシャルティの服を見繕い、髪をくしけずり、食事の世話にと、メイド顔負けの仕事ぶりを発揮している。

 結果、シャルティの白い肌は、血色のよい桃色になり、青光りする銀髪は、まるで月明かりを封じ込めたかのように輝きを増した。

 なかでもローレンスは角を磨き上げるのに心血を注いだ。

 それはもう、シャルティが引くほどに。


「ああ、思ったとおりだ。きちんとした食事を摂ると、滑らかさが段違いだね。内側からの輝きはまるで真珠のようだ。ますます艶めいているよ。それにそれに、根元に嵌めた角輪が本体の美しさをさらに引き立てている。俺の見立ては間違っていなかった。素晴らしい逸品だ」


 初日は角に頬ずりをされ怯えていたシャルティだったが、数日もすれば慣れてしまった。

 彼の言う通り、巻き角は内側から柔らかな光を放ち、地下牢にいた頃よりも身体中に魔力が巡っていた。


(宝の持ち腐れだけれど……。魔力を蓄えておいて損することはないわ。それに、私が勇者(ローレンス)の気を引き付けておけば、皆の安全は保たれる)


 大人しくしていた甲斐あって、ローレンスは魔王の角に夢中だ。

 彼女自身はいわばオマケである。

 その証拠に、ローレンスはシャルティを妻だと言っておきながら、頭部の尖り以外には触れてこない。

 ローレンスが飽きれば、その時は確実に殺され、壁の頭蓋骨と同じ運命を辿ることになるだろう。


 万が一、彼がその命を全うするまで、白い魔力の(かたまり)を愛し続けたとしたら。


(人間の寿命なんて、たかが数十年でしょう? あっという間だわ)


 それまで人形遊びに付き合ってやるのも悪くはない。生かされ続けるにしろ、殺されるにしろ、考えるだけ無駄だ。


 シャルティは開き直ることにした。



 シャルティの朝はローレンスによる角の手入れからはじまる。

 彼は上機嫌で角にヤスリをかけ、絹地のスカーフで拭き清める。

 魔力を含む角に長時間触れていれば、並の人間なら魔力酔いを起こす……はずなのだが、ローレンスはピンピンとしていた。


 それどころか、


「君の角に触ると、身体の調子が良くなるんだ」


 日に日に機嫌がよくなっていた。

 ローレンスの肌はツヤツヤで、淡い金色の髪は柔らかさを増し、青い瞳は澄んだ青空を連想させた。


 魔力に耐性があるのか、それとも鈍感なだけなのか。


 ローレンスからは下心が伝わってこない。恥ずかしがるのも馬鹿らしいほど、ひたむきにシャルティの一部を愛でている。

 まるで美術品を愛するように、もしくは姫の世話をする従者といったところか。


「これでよしっと……」


 磨くために外していた角輪を根元に嵌めると、ローレンスは満足げに腰に手を当てた。窓から差し込む朝陽を受け、巻き角はキラキラと輝いている。


「今日もキレイだよ、シャルティ。俺は森で夕飯の食材を調達してくるから、何かあったらこの笛を吹くんだよ」


 ローレンスの気配があるせいか、ログハウスの周辺に魔物たちは寄り付かない。


 彼を呼ぶ必要性を感じなかった。


「まあ俺だと思って持っていてよ」


 拒否するシャルティにローレンスは笛を押し付け、「寂しくなったら吹いてくれてもいいから」と軽口を叩き、部屋を出て行った。

 魔族であるシャルティを子ども扱いする図太さには呆れるしかない。

 手のひらに乗せられた小さな笛を指先でいじった。

 ローレンスの自作なのか、武骨な笛は愛嬌があって、シャルティは思わず頬を緩めた。

  

(勇者ローレンス、知れば知るほど変な男)


 かつて人族は魔族の子どもを狩り、高値で取引をしていた。

 損得勘定で魔族を殺すのは理解できる。

 ではローレンスはどうかというと、純粋に己の欲望のままに魔族を殺している。


 理解も納得もできない。


 分かることといえば、ローレンスが角を愛しているということだけだ。

 頑丈な魔族の角を、彼は神経質なほど丁寧に扱う。

 触れられるたび、彼の気遣いが骨越しに伝わってくるのだ。優しく研がれ拭き清められる。

 悪い気はしない。


「……私、ローレンスに気に入られて嬉しいのかしら」


 シャルティは愕然とした。これでは餌付けされた獣のようではないか。


「勇者が皆を襲わないために、彼の注意を引いているだけ。決して心を許したりしていないわ」


 己に言い聞かせるように呟いた。

 その時。

 背後に馴染みの気配がした。振り返ると扉のすぐそば、黒い影が床から盛り上がり、羊の頭を持つ青年となった。

 彼は黒いコートの裾を翻させ、(ひざまず)く。


「ラヘル……。久しいわね」


『私めが眷属筆頭になりました暁には、必ず陛下に陽の光をお見せいたします』


 シャルティを王と崇め、その矜持(きょうじ)を忘れないよう奮い立たせてくれたただひとりの臣下。

 以前と変わらぬ顔をみせた側近に、シャルティは心底安堵する。


 問題は目と鼻の先には勇者がいることだ。


 羊頭――ラヘルは魔王軍でも一、二を争う実力者だが、勇者と対峙して無傷ですむはずがない。


 そわそわと身じろぎするシャルティに、ラヘルは横長の瞳をスッと細める。


「陛下。なぜ生きておいでなのですか?」

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