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運命のつがいは鬼畜な上司  作者: 白井夢子
第二章

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28.想い合う二人は


ナナミーは決心した。

今日こそはヒヨクに、つがいの証のアザを持っている事を告白するつもりだ。


本来ならば、「つがい認定協会で検査を受けて、正式な認定を受けてから、本人と顔合わせをする」というのが正式な流れだが、ナナミーは直接ヒヨクに伝えたかった。


朝、顔を合わせた時に、「大事なお話があるんです」と声をかけるつもりだ。




今日は特別に早起きをして寝癖を治し、気合を入れて告白に挑んだが、実際に顔を合わせると、恥ずかしくて「今日はいいお天気ですね」としか言えなかった。


『川遊びをしてる時に告白しよう』と決意し直したが、ヒヨクと川に流されながら、やっぱり恥ずかしくて言えなかった。ドキドキしてるうちに川遊びは終わってしまった。


『うろに入って気持ちが落ち着いた時に、今度こそ言おう』と考え直したが、うろからヒヨクの背中を眺めながら、『仕事してる時に告白しても迷惑かな?』と迷っているうちに眠ってしまった。



お昼にコフィとレオードが遊びに来てくれて、バーベキューが始まり、今は網の上のホイルに包まれたニンジンを眺めながら、いつ告白をするべきか悩んでいるところだ。


真剣な顔でホイルを見つめるナナミーに、「待てねえなら、干し芋焼くか?」とヒヨクが聞いてくれた。


焼きニンジンを待てなくてホイルを見ていたわけではないが、炙り干し芋は食べたかったので、コクリとナナミーは頷く。


「そうか。すぐ焼いてやるよ」と網の上に置かれた干し芋を眺めながら、ヒヨクがナナミーに向けてくれる優しさを感じて、『やっぱり好きだな……』とドキドキしてしまう。



『今日だ!今日絶対に告白する!バーベキューが終わったら、キレイに咲いているお花を摘んで渡そう!

そうだ!そうしよう!』


チリチリと美味しそうな焼き色を付けだして焼ける干し芋をグッと睨みつけながら、ナナミーは決心した。


「ナナミー、お前よっぽど腹減ってんだな。熱いから気を付けて食えよ」と言いながらお皿に置いてくれた炙り干し芋に、『絶対に告白する!』という気持ちを込めて、ブスリ!とフォークを刺してやった。






モグ……モグ……と美味しそうに炙り干し芋を頬張るナナミーに、『俺の料理だと、いつもよりよく食えるみてえだな』とヒヨクは満足そうにナナミーを眺めていた。

知らず口の端が上がってしまう。


これだけ気になって、これだけ世話を焼きたくなる女はナナミーだけだというのに、ナナミーが運命のつがいではない事は、いまだに信じられない事実だ。


だけどヒヨクはもうつがいの証のアザに囚われるつもりはない。

出来ればナナミーにも、ヒヨクの運命のつがいの存在など気にしないでほしいと思っている。


本当は今すぐにでも気持ちを伝えたいところだが、おそらく今のナナミーでは、ヒヨクを受け入れないだろう。


ナナミーが自分に好意を寄せている事は分かっているが、「運命のつがいが名乗り出たら終わりだし」と当然考えるに決まってる。

先のない未来などにかける勇気が、この誰よりも弱いナナミーにあるわけがない。


運命のつがいなど選ぶつもりはない事を、しっかり伝えていかなくてはいけない。








以前よりヒヨクとナナミーの雰囲気が柔らかくなった事を感じながら、レオードがナナミーに声をかけた。


「そうだ。ナナミーちゃん、ヒヨクの屋敷に戻ってからも、会社から早く帰れているんだって?俺の仕事を一生懸命手伝ってくれてるって、ユキが話してくれたよ」


「えへへ。ヒヨク様が定時に仕事を上がらせてくれるので、毎日帰って川遊びをした後に、レオードお父さんのお仕事を手伝ってるんです。

ヒヨク様もたまに早く帰ってきてくれる時があって、一緒に川遊びをしてから、一緒の部屋で仕事をする時があるんですよ」


レオードが声をかけると、ナナミーが恥ずかしそうに、それでいて弾ける笑顔で答えていた。

本当に嬉しそうだ。


『やっとヒヨクも自分の気持ちを自覚したか。ナナミーちゃんに仕事をさせると嫌われるって事も分かったみてえだな。

ヒヨクもナナミーちゃんが運命のつがいだって事に気づいているだろうが、ナナミーちゃんが名乗り出るのも、もうすぐだな』


やっと息子も春を迎えるかと思うと、なかなか感慨深かった。

レオードは『良かったな』という思いで、祝いの言葉をヒヨクにかけてやる。


「ヒヨク、お前もほどほどに仕事をする事を覚えたみてえだな。そんだけ余裕が出来たなら、お前の運命のつがいが名乗り出るのも近いんじゃねえか?」


「――あ?何ふざけた事言ってんだ?運命のつがいなんて必要ねえよ。俺の運命のつがいなんて、ろくなヤツじゃねえだろ。

次に運命のつがいを名乗り出るような迷惑野郎には、休みなく働かせて使ってやるさ」


レオードの祝福を込めた祝いの言葉を、ヒヨクがバッサリと切り捨てていた。







ヒヨクはフンと鼻を鳴らす。


「休みの日に鬱陶しい事言いやがって。俺の前で二度と運命のつがいの話なんてすんなよ」


唖然とするレオードに、被せて言ってやった。


ヒヨクの言葉は、ナナミーにも向けた言葉だ。

『だからお前は安心して俺の屋敷でずっと暮らしておけよ』という思いを込めていた。


ナナミーには、どこかにいるヒヨクの運命のつがいなどで煩わされてほしくない。


「運命のつがいなんて名乗り出ない方がいいって、―――なあ、ナナミー。お前もそう思うだろ?」


「あ、はい。そうですね」


ヒヨクの言葉を素直に認めるナナミーに、ヒヨクは「そうだろ?」と言いながら満足して頷いた。








ナナミーは「そうですね」と答えながら、心臓をバクバクさせていた。


危ないところだった。

レオードが運命のつがいの話題を出してくれなかったら、ご飯の後で張り切って運命のつがいを名乗り出てしまうところだった。


名乗り出た途端に、休みなく働かせられるところだった。

せっかく社畜生活から抜け出せたというのに、また自ら飛び込んでいくところだったのだ。


心臓のバクバクが止まらない。


ナナミーは優しい上司でもあるヒヨクが好きだ。

「仕事しろよ」としか言わない鬼畜な上司は遠慮したいが、定時に帰らせてくれる上に、平日もたまに川遊びにまで付き合ってくれる、ホワイト上司のヒヨクが好きなのだ。


うっかり運命のつがいを名乗り出て、休みなく働かされるような事にはなりたくない。

名乗り出るのは危険だ。

運命のつがいだと名乗り出るのはやめておこう。



〈運命のつがいは、世界中でただ一人だけ〉


ラニカの件で、誰もが知る明白な事実は、やっぱり事実だという事が分かった。

ヒヨクのつがいはナナミーだけだ。

運命のつがいを名乗り出なくても、ヒヨクを奪われる事はない。安心して優しいヒヨクとずっと一緒にいる事ができるのだ。


『正式に運命のつがいに認定される事は諦めよう。このまま一生名乗り出ないで、幸せな時間を過ごせたらいいな』


『告白しよう!』と意気込んでいた気持ちは、もう消えていた。







レオードは、信じられない者を見るような目でヒヨクを眺めていた。


「ほら、ニンジン焼けたぞ。熱いから気いつけろよ」


いそいそと嬉しそうにナナミーの世話を焼くヒヨクと、嬉しそうにヒヨクの手料理を食べるナナミーは、どう見ても心が通じ合っているように見える。


『気の毒なヤツめ』と、結びつかない運命にヒヨクを憐れむが、これ以上何かを言ってやるつもりはない。


せっかくかけてやった祝福の言葉に、「鬱陶しい事言いやがって」と言ってくるような可愛げのない息子に、運命のつがいが目の前にいる事を教えてやる義理はないだろう。


『自分で気づきやがれ』と、フンと鼻を鳴らしてやる。




第二章完結です。


お話は完結したつもりで考えていますが、いつか書き足したくなった時に気軽に書き足せるように、二章の完結という形にさせていただきます。


いやね。本当に思うのです。

お話読んでくれてありがとうって。

読んでくれるあなたがいるから、私も書く楽しさが大きくなるんだろうなって思っています。


鬼畜な世界のお付き合い、本当にありがとうございます。

 

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― 新着の感想 ―
第二章ありがとうございます。もうここまで来たらラッキースケベでしかつがいとバレることはないんじゃと思ってます笑
面白かったです!仕事に疲れた社畜の心にガンガン刺さりました。ヒロインのだめな感じも良い!そうだよね〜。そんな事あるよね〜。うんうん。
何度も感想投稿しちゃってすみません。 色んななろう、読みましたが、ここまでヒロインが脳内に巣食ったお話しはありませんでした! ナナミーちゃんの歌はちょっと低めの声かな?とか、葉っぱを取ってヒヨクの髪を…
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