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運命のつがいは鬼畜な上司  作者: 白井夢子
第二章

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26.危険な真相②


真実を話してくれたラニカの顔が憂いを含んでいた。

どこか不安の色を滲ませている。


名前を出してしまったラニカの親友の事が、今になって気になってきたのかもしれない。

もしナナミーがラニカから聞いた話を広めてしまったら、大きな騒ぎになるのは目に見えているし、親友に悪い影響が出てしまうのではないかと心配しているだろう。


弱小種族は不安な気持ちに敏感なので、ラニカが顔を曇らせている原因が、何も聞かなくても分かってしまう。



ラニカの務めるパルル社は、シャチ族のアザ持ちの一族が経営する大きな会社だ。


アザ持ちの社長が秘密のファンクラブの存在を知ったら、たとえ自分のファンクラブではなかったとしても、他人事とは思えず不快に思うかもしれない。


悪くすると、巻き込まれただけのラニカもただで済まないかもしれないし、これからの出世に影響してしまう可能性だって無いとは言い切れない。



「あの、ラニカさん。私絶対に誰にも言いませんから。秘密のファンクラブの事も、レアグッズのジャケットの事も、誰にも話さないので安心してください。

私を信じて話してくれて、ありがとうございます」


ナナミーがラニカを安心させたくて声をかけると、ラニカの顔が明るくなった。

「ありがとう、ナナミー」と嬉しそうに笑うラニカは、いつもより幼く見える。


笑顔のラニカをナナミーはじっと見つめた。




ラニカが運命のつがいとして仮認定された時は、とても驚いたし、とても悲しい気持ちになった。

だけどラニカはナナミーの社畜運命を変えてくれた人だ。


ラニカのおかげで残業がなくなり、毎日川遊びを楽しむ時間が出来たし、極上のストールに包まれてぼんやりする時間もできた。

とても充実した毎日を送れるようになったのだ。

 

ラニカのアザの出現理由は、そのまま原因不明にする事も出来たのに、ラニカはナナミーを信じて真実を話してくれた。

『走るヒョウ模様のアザを持った人は、実はたくさんいるのかな?』と感じていた不安も、原因を知る事で消え去った。






「ナナミー。実は私、あなたの本当の気持ちを知ってたの。

知っていたけど―――ほら、私達の関係じゃ、知らないフリをするしかなかったじゃない?

でもこれからは、ナナミーは自分の気持ちに正直になったらいいと思うの」


ラニカを見つめながら考え込んでいたナナミーに、ラニカが静かに口を開いた。


ナナミーの本当の気持ち。

―――それはきっとヒヨクへの想いだ。


『ラニカさん、知ってたんだ………』


運命のつがいに仮認定されていたラニカの立場では、ヒヨクを想うナナミーの気持ちに気づいていたとしても、確かに何も言えなかっただろう。

「でもこれからは、自分の気持ちに正直になっていい」とラニカが教えてくれた。


ラニカがナナミーを信用して、ラニカのアザの秘密を打ち明けてくれたように、ナナミーもラニカにアザを持っている秘密を打ち明けるべきだろうか。


「じ―」

「ナナミー、あなた本当はずっと、私の会社に転職したいって思っていたのでしょう?

私がヒヨクさんの運命のつがいだったら、うちに転職しても、私を通して元上司のヒヨクさんと縁が繋がってしまうかもしれないと思ったら、言い出せるわけがないわよね。

ナナミーの不安な気持ちを知っていたから、私は知らないフリをするしかなかったの。

でももう大丈夫よ。ヒヨクさんと私は、全くの無関係者同士になったから」







「実は私、ヒヨク様のつがいの証のアザを持っているんです」と言おうとしたナナミーは、慈愛の微笑みを浮かべるラニカの言葉に心臓を押さえた。


ラニカの優しさに胸を打たれたからではない。


衝動的にカミングアウトしそうになった自分に、『危ない所だった……!!』と、バクバクバクバクと心臓が激しく波打っていたからだ。


ラニカはナナミーの、隠しているヒヨクへの想いを知っていたわけではないらしい。



バクバクする心臓を押さえるナナミーに、ラニカがフフッと笑う。


「図星ね。ナナミー、私が一緒に付いていてあげるから、今からヒヨクさんに辞表を提出しに―」

「お前ら、まだ話してんのか?ラニカ、お前そろそろ帰れ。外は暗くなってきてんぞ」



ラニカがナナミーに転職を勧める言葉途中で、バン!と扉を開けてヒヨクが部屋に入ってきた。


「……もう!私が暗い中、外を歩くのが心配だからって、恋人面しないでよ。私達はもう運命のつがい同士じゃないのよ?」


「最初から運命のつがい同士なんかじゃねえよ!」


いつものように言い合いを始めた二人を眺めているうちに、バクバクしていた心臓は治まり、ナナミーはいつものように二人の間でぼんやりと立っていた。








夜寝る前にナナミーは、ベッドの下のお菓子の缶を取り出して、そうっと缶のフタを開けて、中に入れたハンカチを眺めた。


ヒョウの刺繍をしばらく眺めて、またフタを閉じてベッドの下に隠しておく。


それからベッドに横になり、天井の木目を眺めながら、ナナミーは今日の事を思い出していた。



今日は思わずラニカに、つがいの証のアザを持っている事を打ち明けてしまいそうになった。

大失態をおかす寸前だった時の事を思い出し、恥ずかしくなって「うわぁぁぁ〜」と布団の中に潜りこむ。


頭から布団をかぶって丸くなっていると、ウトウトと眠たくなってきた。

ふわふわとしていく意識の中で、『この感じはヒヨク様と一緒にいる時みたい……』とヒヨクの事を考える。


いつもはベアゴーが送ってくれる帰り道は、今日はヒヨクの屋敷からヒヨクが送ってくれた。ヒヨクの肩越しに見える星空が、見たこともないくらいにキレイだった。

明日の朝もヒヨクは、ここにナナミーを迎えに来てくれるだろう。


ナナミーはヒヨクを想いながら、穏やかで心地よい眠りの中に落ちていく。







夜中、会社から持ち帰った仕事をようやく終える事が出来たヒヨクは、ふうと息をついた。


今日はナナミーの退社後に、すぐにヒヨクも会社を出ていたので、全く仕事が進んでいなかったのだ。


ナナミーを背負ったベアゴーは、ラニカの歩調に合わせて歩くのは分かっていたし、道を変えてもヒヨクの方が先に屋敷に着くことが出来た。


野生の勘が、絶対にラニカの話を聞かねばならないと告げていた。


電報を打ってヨウの屋敷から帰らせていたユキに、ナナミーとラニカを盗聴用応接室に案内させ、二人の話は最初から聞いていた。


アザ持ちの屋敷には必ず備えてある盗聴用応接室は、運命のつがいが外部の者と接する時に使われる部屋だが、『まさか部下のために使う事になるとはな』と、ヒヨクは自嘲する。




『寮の男をナナミーに紹介するつもりじゃねえだろうな?』と勘繰っていたが、聞こえてきた話は同じくらい苛立たせる話だった。


「ファンクラブなんて気色悪いもん作りやがって……!何がレアグッズだ!」


思い出すたびに激しい殺意が湧く。

今すぐそのファンクラブを潰しに行って、会員もろとも容赦なく制裁を加えてやりたい。


だけど今ヒヨクが動きを見せたら、タイミング的にナナミーが話したと疑われてしまう。


それはダメだ。

弱いナナミーは疑われただけでもショックを受けて、また熱を出してしまうかもしれない。




『……表沙汰にならねえように手を回して潰してやるか。俺のファンクラブさえ潰せば、他のヤツのクラブは見逃してやってもいい』と、慎重に動く事にした。


他のアザ持ちの男のファンクラブもありそうだが、他の奴等にその存在を教えてやるほどの親切心はヒヨクは持ち合わせていない。


傲慢なアザ持ちの男は、他人の不安要素に気づく事はあっても、気にかける事はない。


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