表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命のつがいは鬼畜な上司  作者: 白井夢子
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/68

23.嫌われないために


「ナナミーちゃん。今日から休みの日は、ヒヨクと一緒に俺の仕事を手伝ってくれるなんて、すごく助かるよ。ありがとう」


レオードは精一杯優しく聞こえる声でナナミーに言葉をかけたが、ナナミーは「仕事の手伝い」という言葉に顔を強張らせてしまった。






『ヒヨクの野郎め……!こんな時に俺の名前を使いやがって。使うなら親父の名前を使えよ!俺が仕事の鬼だって誤解されるだろうが!』


レオードの腹の中は、息子ヒヨクへの苛立ちで血がフツフツと沸き上がる思いでいた。

ついでに言うと、ヨウへの苛立ちも合わせて沸き上がっている。


ヨウは、休日に集まったみんなの前で「休日のナナミーちゃんに仕事をさせようなんて、レオードもヒヨクも、お前ら狂ってんじゃねえか?ナナミーちゃんが可哀想だろ?」と息子と孫を落として、カメリアとコフィとナナミーの点数を稼ごうとするセコイ野郎だ。


事前にレオードを呼び出して、「チーター族の男なんかの家に関わらせないよう、ナナミーちゃんにはしっかり仕事を任せるんだぞ」と言っていただけに苛立ちが募る。


だけどそんな怒りの感情は、娘のように可愛いナナミーの前で見せるわけにはいかない。


レオードはにこやかな笑顔を浮かべてみせた。




「ぜひナナミーちゃんに任せたい仕事があるんだ。

――あ!いや、書類仕事とかじゃないよ。そんな無粋な仕事は()()ヒヨクがするべきだ。

ナナミーちゃんには、うちで仕入れを検討中の商品のモニターをしてほしいんだ。うちの会社はハイブランドの日用品も扱っているからね、検討中の商品の使い心地を、消費者目線で見てほしいんだよ。これだよ」


「ナナミーちゃんに任せたい仕事がある」という言葉でサッと顔色を暗くしたナナミーに、レオードが素早く用意していた物を取り出した。


『嫌われたくない!』


その思いがレオードの手を急がせる。


『これならばナナミーちゃんからの好感度が下がる事はないはず』と確信を持って、苦労して入手した物をナナミーに差し出した。


レオードの読み通り、ナナミーは差し出した物を見て、ぱあああああっと顔を輝かせている。




「レオードお父さん!私、このストール知ってます!「天女の羽衣」ですよね?チレッグ様のお母様への贈り物に選んだ物と同じです!

これをモニターするお仕事………!!!」


「わぁ〜……」と感嘆の声を上げながら、そっと天女の羽衣を優しく撫でたナナミーの頬が緩んでいる。

なで……なで……と優しく撫でる手が止まらないようだ。


『良かった、正解だった。苦労した甲斐があった』とレオードは安堵した。



「さすがナナミーちゃんだ。希少価値の高いこの布の事も知ってるんだね。

最近俺もこの布に注目していてね。このストールのモニターは、コフィにも頼もうと思ってるんだ。――はい。これはコフィの分だよ。

このストールは、「心から寛げるラグジュアリーな時間」というテーマで考えてる商品だからね。出来るだけ寛いだ時間を送って、感想を聞かせてほしいんだ。

そうだな。高級商品になるから、十分なモニター期間を取ろうと思ってるんだ。数ヶ月は頼みたいな。――あ、もちろんモニター品はプレゼントするよ」



コフィにもナナミーとお揃いの布を渡すと、肌触りを確かめたコフィが「わぁ〜……」と感嘆の声を上げて、頬を緩ませていた。


「ナナミーちゃんとお揃い……!」

「コフィお母さんとお揃い……!」


お揃いにした事も良かったようだ。

ヒソヒソ声で「レオードお父さん、素敵ですよね」と話すナナミーに、「そうでしょう?レオードって素敵でしょう?」とヒソヒソとコフィが言葉を返していた。


レオードの頬も緩む。


『後でユキにも褒美をやらんとな』と機嫌良く、ナナミー情報を回してくれていた使用人のユキへも特別ボーナスを用意してやる事にした。



「じゃあ書類仕事をするヒヨクの邪魔にならねえように、俺たちは向こうの部屋に移動して、ジュースでも飲みながら俺たちの仕事をしようか」


レオードは機嫌良く、愛するコフィと、コフィによく似た娘のようなナナミーを別室へと促した。


不機嫌そうな顔をしたヒヨクと一緒の部屋にいても、気分が悪くなるだけだ。

「テメェはいつまで鬱陶しい顔してんだよ!」と、コフィ達の前でヒヨクを殴ってしまう前に、別室に移って三人だけの癒される休日を過ごすべきだろう。

二人に乱暴者だと誤解されるわけにはいかない。


部屋を出て扉を閉める前に、「その仕事終わるまでこっちくんじゃねえぞ。バーベキューに参加したかったら、キリキリ働いて昼までに仕上げろよ」と、睨んでくるヒヨクに言葉をかけてやった。










ふわ…………っとした肌触りのストールに包まれると、とても満ち足りた気持ちになる。


ウトウトとまどろみながら、三人で穏やかな時間を過ごしていると、扉が開いてヒヨクが部屋に入ってきた。

少し顔が疲れているように見える。



「お仕事終わりましたか?」

「おおかたな。………そのストールが気に入ったのか?」


ドサッとソファーに腰かけたヒヨクも、この極上の肌触りのストールが気になるようだ。

ストールを触りたそうにナナミーを見つめてくる。


それならば仕方がない。


「特別にこっちの端っこ使っていいですよ。なでる時は、そーっとなでてくださいね。引っ張っちゃダメですよ」


ナナミーは『しょうがないな』と、体全体を包んでいたストールを外して、端っこの方を渡してあげた。


素敵な物はいつだって他人の物になってしまう。

『もしヒヨク様が横取りしようとしたら、レオードお父さんは怒ってくれるかな?』と、レオードの顔をそっと伺う。


「おいヒヨク。そのストールは、ナナミーちゃんに任せた仕事なんだから、慎重に扱えよ。横取りしようなんて考えてんじゃねえぞ」


ナナミーの心配事に気がついて、レオードがヒヨクを注意してくれた。

『レオードお父さん、ありがとうございます……!』と心の中で感謝を伝えると、レオードは笑顔で頷いてくれた。







『親父の野郎……!』


レオードがヒヨクに濡れ衣を被せて点数を稼ごうとしていた。コフィとナナミーに、頼れる男をアピールしたいのだろう。


『本当にこの男はセコイ野郎だ』と、ヒヨクはチッと舌打ちをする。


得意げな顔を見せるレオードはムカつくが、それでも「どうぞ」と、神妙な顔をしてストールの端を差し出してくるナナミーを見たら、苛立ちは霧散した。


『どんだけ惜しみながら渡してくんだよ』とおかしくなる。


ラニカの出現で計画が止まっていたが、ヒヨクは近日中に屋敷を周遊する川と、部下のためのうろ作りを再開させるつもりだ。

ナナミーを眺めていたのは、ストールが気に入ったみたいだから、うろの内装はストールの生地にしようかと考えていただけだった。


「悪いな」と言ってなでてやったストールは、なかなか悪くない肌触りの生地だ。

ヒヨクに取られるとでも思っているのか、反対側の端をシッカリ握りしめているナナミーを見て、『やっぱり内装はこの生地に決めるか。すぐに発注しないとな』と考えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
最近の朝の癒しです。 本当可愛いお話ばっかりで好きです。 ヒヨクが気づく日は来るんでしょうか…
あれ? あれあれ?ヒヨク様屋敷にうろと川作ってるの? ナナミーちゃんに帰ってきてもらえるように無意識にしちゃってるのかな 自分に鈍感すぎやしませんか笑 可愛いとこあるね~
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ