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運命のつがいは鬼畜な上司  作者: 白井夢子
第二章

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22.強者達の集まり


「え?違ったんすか?」

「ラニカさん、ヒヨクさんの運命のつがいじゃなかったんすね」


「そうなのよ。仮認定の取り消し願いの書類を提出して、今は受理待ちなのよ。

ふふ。なんかおかしいわね。走るヒョウのアザは、日焼けの影響によるアザだったみたい」


「ふざけんな。シミだろ」



取引先のアザ持ちの男達とヒヨクが、商談コーナーのソファーに集っていた。

先に干し肉を運んでくれたラニカが、違和感なくそこに交じって歓談している。


遅れてお茶を運んできたナナミーは、アザ持ちの男達がラニカの話に気が向いている今を狙って、素早くお茶をみんなの前に置いてみせた。

今日こそは「お前は茶ぁ出すのがおせえんだよ」と言わせないつもりだ。


お茶をこぼさないようにだけ気をつけて、さっと手早くお茶を出してやったつもりだ。


―――だというのに。


今日もアザ持ちの野郎どもは、傲慢な態度でナナミーの悪口を言ってくる。


「お前は本当にトロいよな。なんで茶ぁ一つ出すのに、そんな時間がかかんだよ」


「お前、客に茶を出す時くらい素早く動けよ。茶が冷めるだろ?」


今日もピューマ族のヒューとチーター族のチレッグに馬鹿にされて、ナナミーは『こんな奴等には、一生運命のつがいが名乗り出ませんように』と呪いの言葉を心の中でかけてやる。


『笑ってるお前もそうだ!』と、面白いものを見たかのように口の端を上げたヒヨクにも、『お前の運命のつがいも、一生名乗り出る事はないだろうよ』と呪いをかけてやる。



闇に沈んだナナミーに気づいたのか、ラニカが力強い言葉でナナミーを庇ってくれた。


「ちょっと!止めてよ、この子を悪く言わないで。ナナミーは誰よりも早く仕事が出来る子なのよ」


「まあ、それは認めるな。コイツは確かにやる時はやる女だ。

おい、お前。――おい!無視してんなよ!ナナミー、テメェを呼んでんだよ!」



庇ってくれた上に「誰よりも早い」と褒めてくれたラニカに感激していたら、意外な事にチレッグもラニカの言葉に軽く頷いていた。

チレッグがナナミーを「やる時はやる女だ」と評している。


『幻聴か?』と固まったナナミーに、チレッグがナナミーの名を呼んでいた。

『私の名前を知ってたのか?』と驚きながらも、傲慢野郎の傲慢な言葉に、チレッグの苛立ちなど気づかなかったフリをして、「あ、はい」ととぼけた返事を返してやる。


『今ならどんな態度を取っても、ラニカさんが庇ってくれるはず』と、弱小種族の勘が告げていた。



「チッ!お前は本当に返事も遅いよな。――まあいい。それよりこの前は世話になったな。母さんがお前のセンスを褒めてたぞ。

お前の話したら、母さんがお前に会いたがってな。今度の休みにお前を別荘に招待しろってうるせえんだよ。

ナナミー、週末の仕事帰りにここに迎えに来てやるから、ここで待っとけよ。こっちで用意するから、荷物は要らんぞ。手ぶらで来いよ」


チレッグが舌打ちをしながらも、ナナミーを別荘に招待してくれた。

以前チレッグの母親に選んだ贈り物は気に入ってもらえたようだ。


『それは良かった』と思う。

だけどアザ持ちの男―――というより、誰の家にもナナミーは行きたくはない。

休みの日は、川遊びとバーベキューとうろでお昼寝をする事を、とても楽しみにしているのだ。


断りたい。


とても断りたい申し出だが、弱小種族のナナミーに、アザ持ちの男の申し出を断るという選択肢はない。

―――それは危険な行為だ。


「別荘ですか?」と聞き返す事で返事を避けて、会話の中で断る糸口を探っていく事にする。


「ああ。ここからそんなに離れていないサンセット海岸沿いに、うちの別荘があるんだよ。うちの家族はそこで週末を過ごしてんだ。

別荘からは海に沈む夕日が見えるし、部屋は波の音が聞こえるし、なかなかいい所だぞ?

ヨウ様の屋敷に向かう時に、「川遊びが楽しみだ」ってお前レオード様に話してただろ?水遊びが好きなら、海でサーフィンも出来るぞ」


「サーフィンは出来ないので、海遊びには行けないです」


『ここだ!』と誘いを断る理由を見つけて、すかさずナナミーは申し出た。


夕日が沈む海も、波の音が聞こえる部屋も魅力的だが、サーフィンは無理だ。波にさらわれる未来しか見えない。


「サーフィン出来ねえのか?俺得意だから教えてやるよ」


『カドを立てずに断れた!』と思ったら、チレッグが親切心を見せてくれた。

このアザ持ちの男は、意外にいい人なのだ。


だけどどれだけ上手く教えてもらっても、サーフィンが出来るようになるとは思えない。

きっとあの塩辛い水をたくさん飲んでしまうだろう。


『しょっぱい水は無理!上手く断らなくては……!!』


ナナミーは必死に頭を回転させる。



「あら?チレッグさん、週末はサンセット海岸に行っているの?奇遇ね。私も週末は研究のために、あそこで潮干狩りしているのよ。

――そうね。いいかも。ナナミー、チレッグさんのご招待を受けなさいよ。今度のお休みは、向こうで一緒に潮干狩りもしましょうよ。

ナナミーは貝アレルギーだから、防護服を用意するわね。全身を覆う服だから、少し息苦しいかもしれないけど安全よ?」


必死に断りの文句を考えているナナミーに、ラニカが非情な誘いをかけてきた。

ナナミーはトラウマになった貝など探したくもないし、息苦しい全身防護服も着たくはない。


サンセット海岸行きは、断固拒否したい。


断固拒否したいが――――「じゃあ決まりだな」とチレッグに勝手に決定されてしまった。


ナナミーはいつものように『仕方がない。諦めよう』と悲惨な週末を覚悟する。


しょせんナナミーは弱小種族のナマケモノ族でしかない。アザ持ちの男の誘いを断るなんて選択肢は最初からなかったのだ。







「ダメだ。休日はコイツに、親父の会社の仕事を手伝わせる予定なんだよ。()()()

―――そうだろ?ナナミー、ハッキリ言ってやれよ」


悲惨な週末を迎えるナナミーに、ヒヨクが救いの手を差し伸べてくれた。

休日の仕事も断固拒否だが、「仕事」か、「サーフィンと潮干狩り」を比べたら、断然仕事をしている方がマシだ。


『ここは迷っている場合じゃない』と、瞬時に選ぶべき道を決めた。


「そうなんです。ヒヨク様のお父様にも、とてもお世話になっていますからね。せめてもの恩返しに、休みの日はお仕事のお手伝いをさせてもらおうと思ってるんです」


危険を避けるためとはいえ、休日の仕事を申し出るなんて、ナマケモノ族として恥ずべき嘘までついてしまった。


ヒヨクの言葉も、この場だけの嘘だと信じるしかない。





「―――もう、本当にナナミーったら義理堅い子なんだから。だから放っておけないのよね」


「そうか。ナナミー、お前なかなか義理堅いヤツだな。動きはおせえが、お前の事は認めてやるよ。

俺の両親にはお前の事情を説明しとくから、お前はしっかり義理を返してこいよ。

ああ、そうだ。忘れてた。ほらよ、この前の礼のついでにコレやるよ。お前コレ好きだろ?」


二人は誤解しながらも納得してくれた。



ふうと心の中で安堵のため息をついたナナミーに、チレッグはカバンから棒付き飴を出して手渡してくれる。


「あ。強そうになってる……」


今回の棒付き飴は、長い棒を持って堂々と立っているナマケモノの飴だった。

飴を日にかざすと、日の光に強そうなナマケモノがキラキラと輝いている。


「わぁ……!チレッグ様、ありがとうございます」


以前の飴より強そうにしてくれたナマケモノに嬉しくなって、フフ〜ン♪と思わず歌いかけて―――


「ナナミー!お前、今度の休みに休憩時間がほしかったら、キリキリ働けよ!」


飴に見惚れるナナミーに、鬼畜な上司が不機嫌な声で鬼畜な言葉をかけてきた。






歌いたくなるような気持ちは、すでに消えていた。


休日の仕事は、救いの手ではなかった。

ヒヨクは本気でナナミーを働かせたかったらしい。


『休みの日もキリキリ働けって言ってくるような鬼畜な上司は、一生独り身で、一生仕事だけの人生を送ればいい!』


飴を睨みながら、ナナミーは鬼畜な上司に呪いをかけてやる。

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