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運命のつがいは鬼畜な上司  作者: 白井夢子
第二章

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17.強さの象徴


「あ。そうだ」


カバンに入れっぱなしにしていた、まだ渡せていないヒヨクとユキのハンカチを思い出して、ナナミーは二つの包み紙をカバンから取り出してテーブルの上に置いた。


青いリボンがかかった方の包み紙を見ながら、『どうしようかな』とナナミーは考える。



ヨウとカメリアにハンカチを渡した時、二人は目の前で包みを開けて喜んでくれたが、包まれていたハンカチはナナミーが考えていた物と逆だった。


男の人には青いリボン、女の人には赤いリボンで色分けしてくれていたが、ヨウに渡した包みにはカメの刺繍のハンカチが入っていて、カメリアに渡した包みにはヒョウの刺繍が入っていた。


注文をした時のナナミーの伝え方が悪かったのかもしれないし、あの時のハリエットは急いでいたので、間違えたのかもしれない。


ヨウとカメリアに「ハンカチ逆でしたね」と声をかけようとした時に、「可愛いカメの刺繍だな。カメリアみたいで気に入ったよ」とヨウに言われ、「素敵なヒョウの刺繍ね」とカメリアも嬉しそうに言ってくれたので、『喜んでくれたならいいや』と何も言わずにいた。


『ヒヨク様に渡すハンカチも、中を確認しておいた方がいいかな?』と思うが、せっかく綺麗に包んでくれたリボンを解くのももったいないように思えてしまう。


う〜んと悩んでいると、コンコンコンと扉がノックされた。



「ユキさんだ!」


ナナミーはサッと立ち上がる。

初めてのお客様に嬉しくなって、急いでカチャリと扉を開けると、立っていたのはヒヨクだった。



「ヒヨク様?――あ!ちょっと待ってくださいね」


予想していた訪問者とは違ったが、すぐに贈り物のハンカチを思い出して、テーブルから青いリボンの包みを手に取ってヒヨクに渡した。


「―――なんだこれは」


「友達のハリエットさんが可愛い刺繍のお店を開いたので、お土産です。あ、お世話になっている()()()()()プレゼントなんですよ」


不思議そうに包みを見るヒヨクに、慌ててナナミーは説明する。

ヒヨクだけに特別に贈り物をしたわけじゃなくて、みんなへ贈り物をしたという事を強調しておけば、地面に叩きつけたりはしないだろう。


ドキドキしながら見守っていると、「ふうん」と言いながら包みを開いたヒヨクがクッと笑った。


「なんだこの刺繍?―――まあいいんじゃねえか。悪いな」


ちょっとヒョウの刺繍が可愛すぎたのかもしれない。

だけど機嫌良く受け取ってくれたヒヨクに、『ふう。大丈夫だった』と嬉しくなる。


「何もない部屋ですけどどうぞ。あ、美味しいオヤツをすぐに用意しますね」


柔らかな葉っぱの座布団に座ってもらい、冷えたキュウリを乗せたお皿と水を入れたグラスを置いて、初めてのお客様をもてなした。

もてなしをする側に立つと、新しい家の主になった実感が湧いて心が浮き立った。


―――だというのに。



「キュウリ?お前コレ草じゃねえか。しかも水かよ。本当に何もねえな」


心をこめて「さあどうぞ」と出した、精一杯のおもてなしのオヤツをヒヨクに鼻で笑われて、ナナミーは「じゃあ食うなよ!」と言ってやりたい衝動に駆られる。


ついでに「お前はこの美味しそうなキュウリが草に見えるのか?節穴野郎め!」とも言ってやりたい。


言ってやりたいが言えるはずもなく、「マヨネーズがあればよかったんですけどね〜」とふふふと笑って、大人の対応を見せつけてやった。



こんな無礼な野郎はもう客ではない。


『お前に出す物はもう何もない』と心の中で罵ってやり、ナナミーはボリッと勢いよく自分の分のキュウリを齧ってやる。


ボリッ!ポリ……ポリ……とキュウリを食べていると、ヒヨクが壁に飾った枝を見つけて、「なんだアレ?」と聞いてきた。


何もない部屋に飾られた枝が気になったようだ。


「あの枝、ここに来る時にチレッグ様がくれたんです。強そうに見せるための棒を持てって。確かに持ってたらなんだか強くなれた気がしたので、お守りにして飾ってみた――」


説明途中で立ち上がったヒヨクは、壁に飾った枝を手に取ってボキッと真っ二つに折ってしまった。


「え………」


別にそれほど大事な物でもなかったが、アザ持ちの男が見せる鬼畜な所業に、ナナミーは言葉を失った。


二つに折られた枝が重ねられて、また真っ二つに折られ―――さらにまた重ねられて、折りに折られていた。


ナナミーの強さの象徴はバラバラになって、最後には窓の外に投げ捨てられ、風に乗ってどこかへ飛んでいってしまった。


折れて飛ばされた枝が、ナナミーの強く持ったはずの心のようだった。


きっとこれからもナナミーの強い心は、あの弱い枝のように、強さを主張する事なくボキボキに折られて、どこか遠い所へ飛ばされてしまうのだろう。



「あんな細い棒を持ったヤツが、強そうに見えるわけねえだろ?弱そうな棒を飾ってんじゃねえよ。

持つならもっと太い棒持てよ。森になってるサトウキビでも飾っとけ。あんな細い棒より強そうだろ?」


「………………………あ!そうですね。サトウキビの方が強そうですよね」



ナナミーは別に、強そうに見られたくてあの棒を飾っていたわけではない。

もともと捨てるタイミングが分からなくて持ってきた枝を飾っただけで、飾るための棒はもう要らなかった。


だけど『棒はもう要らない』とも言えずに黙っていたら、ヒヨクに鋭い目を向けられてしまい、ナナミーは急いでサトウキビの強さに同意する。


弱い者はいつだって強い者の意見に同調して生きるべきだ。ここはアザ持ちの男の意見に激しく同調するべきだろう。


『同意してしまったのだから、しょうがない』


最強種族のアザ持ちの男が主張するように、サトウキビを部屋に飾る運命を受け入れる事にした。







「お前、サトウキビ持っても弱そうだな」


向かった森の中のサトウキビ畑で、ヒヨクが珍しくはははと楽しそうに笑っていた。


笑うヒヨクに「別に強く見えるの目指してないし!」と言ってやりたい。

だけどやっぱり言えるはずもなく、程よい長さに切られたサトウキビを睨んでやった。


「あ。シールだ!」


睨んだサトウキビに、細長いシールが貼られているのを見つけた。

――初めて見る形の「カメリアの森」シリーズのシールだ。


新しいシールの発見に、『サトウキビって良いかも』と嬉しくなったナナミーは、サトウキビの切り口をペロンとなめてみる。


口に広がる甘みに、『甘くてシール付きの棒なら、部屋に飾ってもいいかも』と思えてきた。


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― 新着の感想 ―
甘ぁ~いサトウキビの棒を無意識に選んだのかヒヨクさんっ♪ ナナミーちゃんの好みを解ってるあたりさすがです!!
もー本当ナナミーちゃん可愛すぎる 毎日の癒しがあるから仕事がんばれる。ヒヨク様に気づいてほしいけど、話がが終わってしまうのが怖いのでこのままでいてほしい
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