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運命のつがいは鬼畜な上司  作者: 白井夢子
第二章

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15.レオードの屋敷への訪問者


「いい色のハンカチだな、気に入ったよ。この刺繍もいいな。コフィも喜ぶと思う。後で必ず渡しておくよ。ナナミーちゃん、ありがとう」


コフィとお揃いのハンカチに礼を言うと、ナナミーが嬉しそうに笑った。




本当ならばコフィもここに呼んでやりたいところだが、今ナナミーの隣にはチーター族の若い男がいる。

息子ほどの歳の者だが、愛するコフィに会わせる訳にはいかないと、レオードだけで突然に訪ねてきたナナミー達に会っていた。


応接室でジュースと共に出したイチゴを、無心で食べるナナミーは、とてもお腹が空いているようだった。

食べさしの棒付きの飴を握っていたが、いくら少食のナナミーでも、飴ではお腹は満たされなかったのだろう。


その横でチレッグが、コーヒーを飲みながらソファーで寛いでいるが、イチゴを食べるナナミーには全く興味を示していない。


『ナナミーちゃんは昼食を食べてねえのか?――それより何があったら、この組み合わせでうちに訪ねて来ることになるんだ?』と疑問しかない。






「―――それで、どうして二人が一緒にいるんだ?」と二人に尋ねて、顔を上げて口を開こうとしたナナミーより早く、チーター族のチレッグが「ああ、それはっすね、」と事情を説明してくれた。


チレッグが話すなら、としばらくチレッグを見ていたナナミーは、またイチゴを夢中になって食べ始めた。

モグ……モグ……と、とてもゆっくりではあるが、両手にイチゴを持って食べているところを見ると、本人の中ではガツガツ食べているところなんだろう。


その隣で寛ぐチレッグから、ナナミーに占い師の所に案内させた事や、贈り物を選ばせた事、お礼にナナミーを運んでいる事や、お腹が空いてそうなナナミーに棒付き飴を買ったという説明を受け、レオードは納得する。


『どうやら似たアザに惹かれ合ったようじゃないみてえだな』とホッと安堵した。




レオードは、ナナミーがヒヨクの運命のつがいだと確信を持っている。


レオード自身が、ナナミーの持つアザを見たわけではないが、ユキの言動が「自分は見た」と物語っていた。


ナナミーがいない時の何かの会話で、「ナナミー様のアザなんて見ていませんよ」と話すユキの目が泳いでいた。

ヒヨクと同じアザを、ナナミーの体のどこかで見つけたのだろう。


ユキの目撃がなくとも、ヒヨクとナナミーの様子を見れば、二人が運命のつがいである事は明らかだ。


それにレオード自身も、ナナミーは娘のように可愛いと思う事が、その証拠にもなるだろう。

ヨウだってナナミーの事は、ヒヨクよりも本当の孫のように可愛がっていた。




だけどレオードは今、チレッグの右頬にある「走るチーター模様」のアザに懸念を抱いている。


ヒヨクのアザとチレッグのアザは、全く同じアザの形ではないが、これだけアザの形が似ていると、中途半端な相性を見せるかもしれない。


仕事が出来る男レオードの、ヒヨクとチレッグのアザの比較センサーがピピピピと作動する。



『87%くらい同じだな』と、アザの合致する比率を出して、チレッグとナナミーの87%の相性の良さを算出した。


チレッグにはチレッグの、100%以上の相性を保つ運命のつがいがいるはずだが、ナナミーをつがいだと勘違いされても困る。


今はつがい認定協会が、つがいの証を発行した後に正式なつがいとして認められるが、アザの検証がない時代は誤解の悲劇があったと聞く。


『用心するに越したことはねえな』と、二人の様子を警戒する事にした。






「そういやお前、不動産屋の女とも知り合いなのか?あの刺繍屋の女とも知り合いだったよな。お前ナマケモノ族のくせに顔が広いんだな」


チレッグが思い出したように、ナナミーに声をかけていた。


『イチゴをかじったばかりの時に声をかけても、なかなか話せないだろうに』と、チレッグの声をかけるタイミングにも、中途半端な相性を見せている。


モグ……モグ……ゴクンと、おそらく急いでイチゴを飲み込んだナナミーが、「不動産屋さんのお姉さんは友達じゃないですよ。朝、いい物件がないかお店に寄って話を聞いただけです。会社の近くに、希望してた浴槽付きの物件はなかったんですけどね」と説明している。


ナナミーの話を聞きながら、『上手くいったようだな』とレオードが手を回した事で、引越しをとどまったナナミーに安堵した。



「なんだ?お前ヒヨクさんの屋敷から出るのか?――まあ、その方がいいだろうな。ヒヨクさんも運命のつがいが名乗り出たって話だし。………なんか思ってた感じと違う女だったがな。

まあそれより。俺の家は不動産業もしてっから、浴槽付き物件、あの辺りに持ってるぞ。今日の礼ついでに紹介してやろ―」

「ナナミーちゃん、ヒヨクの屋敷を出るなら、いい物件あるぞ」


流れが怪しくなって、レオードが口を挟む。

チレッグに「部屋の紹介」などされたら、レオードの苦労は水の泡だし、また中途半端にナナミーと繋がりを持たせる事になる。


「俺の屋敷の森に、浴槽付きの小さい家があるんだ。誰も住んでないから、そこを使えばいい。明日引越ししてこないか?」


『今日中に庭に小さい家を作らねば』と、レオードはナナミーに声をかけた。



「え、お庭に?」

「ああ。ヒヨクの庭と似た感じの庭だ。ナナミーちゃんが俺の庭の家に住んでくれたら、使ってない家も役に立つしな。コフィもナナミーちゃんと遊べて喜ぶだろう」


レオードの言葉に、ナナミーがぱあっと顔を明るくする。

『決まりだな』と安心したのも束の間、チレッグがナナミーに声をかけていた。



「お前今度はレオード様の屋敷に世話になるのか?俺の屋敷はここのすぐ奥だから、会社に行く時ついでに運んでやるよ。ヒヨクさんの会社は通り道だからな。今日の礼のついでだがら気にす―」

「あ!悪い、ナナミーちゃん。庭の家、この前の雨で雨漏りがすごかったんだった。やっぱり使ってない家は傷むのが早いな。

――そうだ。俺の親父のヨウの屋敷の森に、使ってねえ浴槽付きの小さい家があるんだ。そっちはどうだ?

ナナミーちゃんの友達のベアゴーくんの家は、親父の屋敷のすぐ奥だし、同じ会社なんだから、毎朝送ってもらえばいいじゃねえか?」


素早く新しい提案をする。

毎朝チレッグなどに抱えてもらっていたら、それこそヒヨクよりも仲が深まってしまうかもしれない。

中途半端ではあるが、そこそこ相性が合ってしまうだけに、懸念は払拭させておくべきだろう。


重ねてヨウの屋敷を推していく。


「親父も、「誰かこの家住んでくれねえかな」ってこの前も話してたし、ナナミーちゃんが住んでくれたら安心するだろう。森のフルーツも野菜も取り放題だし、川で毎日泳ぎ放題だな。たまに俺もコフィと顔を出すから、一緒にバーベキューしようか」


「うわあああ〜………」


ナナミーが顔を輝かせた。今度こそ決まりだろう。

レオードはにこやかに二人に告げた。


「俺も親父に用があるから、これから行くつもりだったんだ。一緒に行こうか」




チーター族のチレッグの家は、人から受けた恩は必ずキッチリ返したがる義理を重んじる一族だ。

ここで「ナナミーをヨウの屋敷に送る」という一度約束した礼を返す機会まで奪ってしまったら、きっと後でまたナナミーに礼を返しに行くだろう。


それなら予定通りヨウの屋敷に運ばせて、礼を返し切らせた方がマシだと、レオードは判断する。


『親父には電報打って、今すぐ庭に家を作らせるか』と仕事の早い男は考えた。




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