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運命のつがいは鬼畜な上司  作者: 白井夢子
第二章

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14.アザ持ちの男の優しさ


チレッグに、セカンドバッグのように小脇に抱えられたナナミーのお腹がぐうと鳴る。



「なんだ?お前腹減ってんのか?早く言えよ。あそこの屋台で串焼きでも食うか?あそこの肉美味いんだぜ」


ナナミーの空腹に気がついたチレッグがご飯をご馳走してくれようとしている。アザ持ちの男が意外な優しさを見せていた。


ナナミーはチレッグの腕に手を置いて、ぐっと体を起こして前を向くと、少し離れた場所に串焼き屋の屋台を見つけた。

屋台では、モクモクと白い煙を出しながら、長い串に刺さったお肉の塊が焼かれている。




またナナミーのお腹がぐうと鳴る。

それは決してお肉の串焼きを見たから食欲を刺激されたわけではない。


早朝に屋敷を出たナナミーは、朝食が早かった。


いつもならばユキが用意してくれたオヤツをカバンに入れているところだが、今日はオヤツを断っていた。


この前もらったハンカチのお礼に、お昼は市場で何か美味しい物を買って、ハリエットに差し入れしながら一緒に食べようと思っていたからだ。


もうお昼はとっくに回っているのに、今ナナミーのカバンの中には何も入っていない。


お腹はとても空いているが、ナナミーはお肉は食べれないし、断るしかない。


「私はお肉を食べれないんです」と断ろうとして―――『また「俺の親切心を受け取らねえつもりか?」と怖い声で言われるかも!』と、ハッとする。


『もっと上手く断らなくては……!』と断りの言葉に一瞬迷った隙に、チレッグはすでに歩き出してしまった。慌ててナナミーは声をかける。


「チレッグ様!私は串焼き屋さんの隣の、飴屋さんの飴が食べたいです!」


たまたま目に入った、串焼き屋の隣の飴屋を急いで指定する。


買ってもらいながらも串焼きを食べれなかったら、「テメェ、食えねえなら食えねえで、もっと早く言えよ!」と怒られるに決まっている。

怒られるだけで済めばいいが、「文句言わずに肉食えよ!」と言われてしまったらお終いだ。


『お肉は無理!!』という魂の叫びをチレッグに届けた。



「飴?――お前さすがナマケモノ族だな、母さんと同じもん食いたがるじゃねえか。一緒にここを歩くと、母さんも串焼きより飴が食いたいって、必死に訴えてくんだよ。ナマケモノ族は飴が好物なんだな」


ふうんとどこか感心したようにナナミーを見るチレッグだが、『多分それは違うんじゃないか』とナナミーは感じていた。


ナナミーは別に飴が特別好きなわけではない。

ナナミーの知り合いのナマケモノ族のみんなだってそうだ。


おそらく、だが。

チレッグはナマケモノ族の母親に、「あの店の串焼き美味いんだぜ。一緒に食おうぜ」と、さっきのように母親の返事も聞かずに歩き出しているに違いない。


ナマケモノ族の母親は必死に「飴!飴を食べたいの!」と、そこまで好物でもない飴にしてくれと訴えているのだろう。


意外にも親孝行な面を見せる息子に申し訳ないからか、話を聞かない傲慢野郎の息子が怖いからなのかは分からないが、必死に訴えるチレッグの母親の姿が目に見えるようだった。


だけど何はともあれ、チレッグはナナミーにも親切心を見せてくれている。

今は飴でもいいから食べたいくらいにお腹が空いているので、素直に好意に甘える事にする。




飴屋さんの屋台の前に立ったチレッグが、ナナミーを地面に下ろして説明してくれた。


「ここの飴屋は、好きな形の飴を目の前で作ってくれるんだぜ。お前はみんなにナメられるヤツだから、ナマケモノの形の飴にしとけよ」と、チレッグが最強種族の傲慢さを乗せて親切心を見せてきた。


『これだから最強種族ってヤツは』と思うが、それでも『選ぶならやっぱりナマケモノかも』と考えて、「おじさん。ナマケモノの飴をお願いします」と注文をした。


「二つな」と意外にもチレッグは、串焼きではなく飴を追加で注文して、協調性を見せている。


ナナミーとチレッグの注文に、「おっ!ナマケモノは飴に最適だからね!」と、微妙な言葉で飴屋のおじさんが鉄板に飴の絵を描き始めた。




黄金色のとろける飴が鉄板の上に模様を描いている。

スーッと鉄板の上を走る飴が、膝を抱えてしゃがみ込むナマケモノの形を作り出していた。


――全ての種族にナメられそうなくらいの弱小ぶりを見せた姿だ。


「はいよ、出来上がりだよ」と言って渡してくれた飴に、「ありがとう。チレッグ様もご馳走になります」とお礼を伝えて、飴を一つ受け取った。


黄金色の、膝を抱えたナマケモノの飴が、日の光にキラキラと輝いていた。


『食べるのがもったいないな』と眺めていると、またお腹がぐうと鳴り、『やっぱり食べよう』と飴をペロンとなめてみる。


「美味しい……」


コクのある甘さに空腹が紛れそうだった。

続けて、ペロンペロンと夢中になってなめてみる。



「この飴食うのも久しぶりだな」


チレッグの言葉に彼を見ると、チレッグも飴を眺めていた。飴に色々な思い出があるのかもしれない。


『昔から飴を食べていたんだ』と思うと、「堂々とした体格のアザ持ちの男と、棒付き飴」というチグハグ感に、ナナミーは、ホッコリする。


今まで、『こんな傲慢な野郎どもは、血のしたたるお肉しか食べないのだろう』と思っていたが、キラキラと光る飴を眺めるチレッグは、なかなか可愛らしい。





「俺も食うか」と話したチレッグが口を大きく開けると――――可愛く描かれたナマケモノの頭が、一瞬で食いちぎられた。


「!!!!!」


ペロンペロンと飴をなめながら、なんとなくチレッグを見ていたナナミーは、出した舌を飴に付けたまま凍りついた。


『ナマケモノの頭が……!!』


チレッグの口の中で、バリンバリンと大きな音を立てて、ナマケモノの頭が噛み砕かれていた。


飴だと分かっていても、心が痛い。


『肩が……!』

バリッと今度は右肩をやられている。

バリンバリンと食べられて、次に狙われるのは左の肩だ。


体の半分がバリンバリンとあっという間に食べられて、次はしゃがみ込んだ右足が狙われていた。



『怖っわ!!』


壮絶なナマケモノの最期に目を離す事が出来なかった。

『あの飴のナマケモノは、ただしゃがんでいただけなのに……!』と他人事とは思えなかった。


飴を食べるチレッグから目を離せない。





「ナマケモノ族は人が飴を食ってるとこ見るの好きだよな」


出した舌を飴に付けたまま固まるナナミーに、チレッグが呆れた顔で言うが、それは彼の母親も飴を食べるチレッグに固まったのだろうか。


ナマケモノ族の母親も、この凄惨な光景から目が離せなかったのだろうか。



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