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11.鬼畜な出会い


不動産屋を出る時に時計を見ると、まだハリエットの刺繍店のオープン時間前だった。


早起きした甲斐があったようだ。

『お店の前で待っておこう。一番乗りでお店に入れるかも』と不動産屋を出て、隣の刺繍店を見るとすでにお店は開いていた。


「オープン」のプレートが掲げられている扉からは、楽しそうな女子達の声が聞こえている。

開店を待つお客さんが多くて、早くお店を開けたのかもしれない。


そうっと窓から中を覗いたナナミーは、強い種族の女の子達がたくさん店の中にいる事に気がついた。


ナマケモノ族のナナミーが、今お店に入って遅い動きを見せたなら、「邪魔よ」と言われてしまうに違いない。


今までの経験を思い出して、ナナミーはお店から少し離れた場所にしゃがんで、じっとお客さんが引くのを待った。


何もせずに待つ事は得意だ。

なんの問題もない。





どのくらい時間が経っただろうか。

通りを歩く人を眺めていたら、声をかけられた。


「なんだ?お前、ヒヨクさんの部下のナマケモノ族のヤツじゃねえか?」


―――『この声は』、と思った時にはすでに男は目の前に立っていた。

ピカピカに磨かれた、高そうな靴を履いている男の顔を見上げて、『最悪だ』とナナミーは顔を暗くする。


声をかけた男は、チーター族のチレッグだった。

右頬に「走るチーター」模様のアザを持つ、最強種族の鬼畜な男だ。


「誰ですかそれ。人違いですよ」


そう言ってやりたい。

言ってやりたいが、弱小種族のナナミーにそんな事が言えるはずがない。

『目を付けられる訳にはいかない』と本能が告げていた。


サッと立ち上がって、「こんにちは。チレッグ様」と笑顔を見せてやる。


だというのに。


素早く動いたナナミーに、チレッグはチッと舌打ちをして、安定の傲慢さを見せてきた。


「休日のお前はますます動きがおせえな。気い抜きすぎだろ。……まあいい。それよりこの辺によく当たるって噂の占い師がいるんだろ?お前案内しろよ」


「嫌ですよ。私じゃなくて、その辺の女の子にでも聞いてくださいよ。たくさんいるじゃないですか」


―――そう言ってやりたかった。


だけどそんな事を言えるはずもなく、「有名なお店だから、この辺の人はみんな知ってると思いますよ。お急ぎなら、他の方に聞いた方がいいかもしれませんね」と、ふふふと笑顔を見せながら遠回しに断ってやった。


会社の上司でもない鬼畜な男に、休みの日に構ってやるほどナナミーは暇じゃないのだ。



「……確かにお前の案内はトロそうだな。しょうがねえな。運んでやるから道案内しろ」と舌打ち付きで小脇に抱えられた。


抱えられて、体がダランと垂れ下がる。

見える景色が逆さまになった。


体を起こしてチレックスの肩にでも掴まれば前は見えるかもしれないが、こんなヤツのためにまともに道案内する必要はないだろう。


ナナミーは体中の力を抜いて、全体重をチレッグにかけてやり、両手もダラリと下ろしてやる。

逆さまに見える風景で、現在地の見当をつけながら、「あ、そこのお肉屋さんを右ですよ〜」「その金物屋さんを左ですよ〜」とやる気なく案内をしてやった。



占い師のテントに着くと、「ここか……」とテントを見上げたチレッグが、ナナミーを抱えたまま店に入った。


「占いが終わったら、帰りに何かで礼を返してやるよ。俺は借りを作らねえ、義理堅い男なんだよ」と勝手に予定を立てられた。


「お前の施しなど要らないから放せ。お前と過ごす休日ほど、休日の無駄使いはない」と言ってやりたいが、やっぱり言えるはずもなく、ナナミーは「ありがとうございます〜」と言っておく。







アザ持ちの男の事だから、つがいについての占いをしてもらいに来たのかと思っていたが、違っていた。


チレッグは、母親の誕生日の贈り物を占ってもらいたかったようだ。誕生日はもうすぐらしい。


「何が喜ばれる物なのか占ってほしい」と占い師に尋ねるのを聞いて、『意外にも身内の情に厚い人だったんだ』と、隣に座っていたナナミーはチレッグを見直した。


『チレッグ様のお母様、親孝行の息子さんですね。でも他人には、傲慢で鬼畜な息子さんなんですよ』と心の中でチレッグの母親に声をかけてみる。


だけどチレッグの「いちいち選ぶの面倒だからよ」と面倒くさそうに続いた言葉で、『やっぱりお前はそんなヤツだよ。ブレがないよな』と心の中で罵ってやった。




「ふうむ、そうじゃな……。お前さんの母親はナマケモノ族じゃな。お前さんの求める答えは―――そこにいるモンに聞けば確実じゃろう」


――占い師のおばあさんが、面倒くさい事をナナミーに丸投げしてきた。



「おばあさん、それは占いじゃなくて思いつきじゃないですか?ナマケモノ族をひとくくりにされても困ります。私はこんなお金持ちの母親に喜ばれるお店なんて知りませんよ。引きこもりですから」と急いで言おうとした。


だけど「おばあさん、」と声をかける前に、チレッグは「そうかよ。助かった」とお金を払って、またナナミーを小脇に抱えてお店を出てしまう。


『これだから最強種族の者は』と思うが、抱えられてしまったならしょうがない。贈り物を選んでやるしかない。


「で、どこの店に向かうんだ?」と聞くので、「新しくできた、人気の刺繍屋さんに案内しますよ」と、抱えられながら元の場所まで送らせる事にした。


占い師のお店があるこの場所は、市場の端っこだから、人混みの中を帰るだけでも大変なのだ。

ナマケモノ族らしく、労力を使わずに移動する事を選びたい。

「さっき会った場所のすぐ近くです」と言っておけば、勝手に歩いてくれるだろう。



力を抜いてダランとチレックスの横で垂れ下がりながら、ナナミーは元来た道を運ばれていく。




いつもお話を読んでいただいてありがとうございます。


次回より不定期投稿になります。

すみません。毎日投稿でリズムよく過ごす方が好みなんですけど。少々時間が足りなくなっちゃいました。

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