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運命のつがいは鬼畜な上司  作者: 白井夢子
第二章

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06. 真の運命のつがいは


ラニカは良い上司だった。


振り分けられた仕事さえこなせば、終業時間に「時間ね。ナナミー、お疲れさま。帰っていいわよ。ベアゴーくん、ナナミーを送ってあげてくれる?」とナナミーとベアゴーに声をかけてくれるような優しい上司だ。


ラニカとヒヨクは、お互いに口を開くたびに言い争いになっているが、「言いたい事を言い合える仲」だと皆には公認されている。


同僚達に「なんだかんだで仲いいよな」と言われている二人を見て、胸がチクリと痛む時はあるが、それでも残業のない生活は素晴らしいものだった。







「ナナミーちゃん、ヒヨクの運命のつがいに名乗り出たラニカさんって方、ヒヨクはあまり良く思っていないみたいね。相性がよくないのかも。

……あのね、ナナミーちゃん。私、ヒヨクの運命のつがいは、別にいるんじゃないかな?って思ってるの。もっと優しい子じゃないかしら」



お休みの日、屋敷に遊びに来たコフィと話している時に、遠慮がちにコフィに話を切り出された。


ちょうどジュゥゥと空になったグラスが音を立て、ナナミーはストローから口を離した。


コフィは、ナナミーが熱を出して寝込んだ原因を聞いているのだろう。

もしかするとそれでラニカに良い印象を持てず、息子のヒヨクの相手として不安を持ったのかもしれない。


だけどラニカは悪い人ではない。

ナナミーはラニカがどんな人かを説明して、安心してもらう事にした。ラニカを知れば、不安は消えるだろう。


「コフィお母さん、ラニカさんは優しい人ですよ。

目の前で貝を割られた時は怖かったけど、あれはラニカさんの、仕事で企画中の「パール付き貝の踊り食い」を披露してくれただけみたいなんです。私が寝込んだのをヒントに、「貝殻飛散の防御服」と「貝割用の防音耳当て」の開発に入った、仕事熱心な人なんですよ。

会社のみんなは、二人はお似合いだって話してます」


「お似合いだ」と伝えながら、今も胸はチクリと痛んだが、こればっかりはしょうがない。

自堕落を愛するナナミーよりも、ラニカの方がヒヨクの隣に相応しい人だ。完敗を認めている今のナナミーは、つがい検査を受けるつもりはない。


「でも……。仕事熱心な人に、良い人なんているかしら……。私はもっとゆっくりした子が、ヒヨクの運命のつがいなんじゃないかなって思うの。

もしその子が、つがいを名乗り出るのを迷ってるなら、私は応援するつもりよ!」


何かを訴えるようにナナミーを見るコフィに、ナナミーはもう少し詳しくラニカの事を話して、安心させてあげる事にした。


「ラニカさんは仕事熱心だけど、他の人に残業をさせない方針なんですよ」

「え?」


「信じられない」という顔をしたコフィに、さらに話を続ける。ラニカの人柄を表すとっておきの話だ。


「ラニカさん自身は遅くまで残業しているみたいだけど、部下に残業させないようにする事が、上司としての義務だっていつも言ってます。

ラニカさんが上司になってから、私は一度も残業書類を渡された事がないんです。一度も!ですよ」


ナナミーの話にコフィが目を見開く。

ナナミーは静かにコクリと頷いた。

ラニカの良い上司ぶりが伝わってくれただろうか。


「え……良い上司なのね。それは本当に良い人だわ。

―――ねえ、ナナミーちゃん、聞いてくれる?

私が昔仕事をしていた時の先輩なんてね、「俺が残ってる間は、お前も仕事しろよ」なんて鬼畜な事言ってきてたのよ。信じられないでしょう?「勝手に一人で残業すればいいじゃない」ってずっと思ってたわ。

私、今でも時々思い出すの。「あんな鬼畜な先輩なんて、仕事と結婚すればいいのよ」って思ってたなぁって」


「え〜コフィお母さん、可哀想。本当ですよね、残業なんて、勝手に一人ですればいいですよね。

ねえ、コフィお母さん、聞いてください。私もちょっと前まで同じ会社の鬼畜な人が、毎日こんっな分厚い残業書類を束で渡してきてたんですよ。本当に信じられないと思いませんか?

私、あんな鬼畜な人は仕事だけの人生を送ればいいんじゃないかな、って時々思うんです」


「え〜ナナミーちゃん、可哀想。本当よね。残業ばっかりさせようとする鬼畜なヤツって最低よね!」









「………」


開けた扉から聞こえてきた言葉に、レオードは固まった。


ヒヨクとの仕事が終わってコフィの待つ部屋に急いだら、愛するコフィと、娘のように思っているナナミーが、自分とヒヨクの悪口で盛り上がっていた。


「こんっな」と言いながら、ナナミーが親指と人差し指を精一杯に開いている。

コフィも「信じられない!こんなにも?!」と、同じくらい親指と人差し指を開いていた。



今日のコフィは、「ナナミーちゃんに、運命のつがいだって名乗り出てもらえるように説得するつもりよ」と意気込んでいたが、失敗に終わったようだ。


コフィは今、「ラニカさんってすごく良い人だったのね。鬼畜な先輩だった人とは大違いだわ!」と、ラニカを褒めながら、昔のレオードを貶めている。

愛するコフィのつぶらな瞳が、昔を思い出して怒っていた。


そんなに昔の俺の印象は酷かったのか。

俺が気づかなければ、一生運命のつがいを名乗り出るつもりはなかったのか。

運命のつがいとして結ばれた先に、これほどの幸せがあったとしても、過去は消せないのか。


考えるだけで胸が苦しくなり、レオードはグッと胸を抑えた。


―――話を逸らすしかない。

これ以上のヒヨクの話題は危険だ。


レオードからもナナミーに話をするつもりだったが、そんな意欲は消えていた。




今日会ったヒヨクは、これまでに見た事もないくらいに不機嫌だった。


その原因をレナードは知っている。


ナナミーは最近、毎日ご機嫌で会社から帰ってきて、ユキに会社での話をするようだ。

ユキ回りの情報では、ナナミーの席はラニカのすぐ側の席に移されたようだし、ヒヨクからの仕事もラニカを通して渡されるようで、仕事中のナナミーはヒヨクと接する事がないらしい。


ユキがナナミーに「今日のお仕事中のヒヨク様は、どんなご様子でしたか?」と探りを入れると、『どんなだっけ?』というように首を捻るらしい。

今のナナミーの席からヒヨクは見えないようだ。


逆に言えばヒヨクは会社で、姿さえ見えない所にいるナナミーに、仕事の指示という形で言葉を交わす機会もなくなったという事だろう。


残業書類の催促や回収という名目で、帰宅後に部屋にこもるナナミーの姿を見ることも出来ないらしい。




気の毒な現状をユキからスノウ経由で報告を受けているので、今日は息子に、「ヒヨク、運命のつがいに早く気づいて、大切にしてやれよ」と忠告してやったが、「あ?あんな女をどうやって大切にしろってんだよ?!」といきなり殴りかかってくるようなクレイジーな野郎に、救いの手など差し伸べてやる義理はない。


それより今大事なのは、レオードの運命のつがいのコフィと、運命のつがいに似た娘のようなナナミーの機嫌を取ることだ。



「スノウ、すぐに極上のオヤツを用意するんだ。二人分のシールも忘れるなよ。急いでくれ」とレオードは、スノウに指示を出す。


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