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04.つがい持ちの習性


いつもはカメ族のカリナと二人でお弁当を食べる昼休憩だが、今日は珍しく他にも人が集まっている。


カリナの部署のメンズ達だ。


今度の休みに、カリナの部署の者達みんなでピクニックに行こうと計画しているらしい。

ナナミーはみんなと部署が違うが、「ナナミーちゃんも一緒に行こうよ」と誘われていた。



ナナミーは人付き合いが苦手ではないが、人付き合いを面倒くさいと思っている。

仕事で話す分にはいいが、プライベートタイムの休日は出来れば家にこもって自堕落していたい。

ナマケモノ族らしくお誘いNGの女子なのだ。

ピクニックのお誘いはお断り一択に決まっている。


「お誘いありがとう。でも部署が違うし、知らない人ばっかりになっちゃうから止めておくよ。みんなで楽しんできてね」と、社会人らしく失礼のないように断っておく。



「え〜うちの部署の奴らはみんな、ナナミーちゃんの事知ってるよ?上司のアルッチ様も、「ナナミーちゃんも誘っておいて」って言ってるし」


カリナの部署の上司、アルパカ族のアルッチは、とても穏やかな紳士のおじ様だ。

カリナと廊下をのんびり歩いている時に出会った事があるが、「君がカリナ君の友達のナナミー君か。ほら、飴をあげよう」と、棒付きキャンディをくれた優しい人だ。

あの時は鬼畜な上司と比べて、とても穏やかで感じの良い上司を持つカリナが、心底羨ましいと思ったものだ。


穏やかな紳士の、カリナの上司アルッチ様は好ましい。

だけど休みの日にお出かけなどしたくない。

以前棒つきキャンディをくれたアルッチ様に敬意を示して、好感度よくお断りしなくては。


「わ〜アルッチ様はとてもお優しいですね。でも私、歩くのがすごく遅くって。ピクニックのルルル公園は私には遠すぎるし、着くまでに一日が終わってしまうかも……。私は行けないけど、お土産話を聞かせてね」


「大丈夫よ、ナナミーちゃん。私だって歩くの遅いもの。私はアルッチ様が背負ってくれるって言ってくれたから、ナナミーちゃんも誰かに背負ってもらったら?」


空気を読んでくれないカリナが、のんびりとした口調でナナミーのお断りをバッサリと却下しようとしてくる。



「え、でも悪いし―」

「僕が背負うよ。ナナミーちゃん軽そうだし、余裕だよ」

「僕が抱えてあげるよ。僕、普段から鍛えてるし」


急いで断ろうとしたら、コアラ族のコルーとカンガルー族のカンタに名乗り出てしまわれた。

二人から向けられる好意に、ナナミーは困ってしまう。


つがいのいる者の習性として、友人以上の好意を向けられると、なんだか不快感のようなものを感じてしまう。

胸の奥がモヤモヤムカムカしてしまうのだ。


ナナミーが唯一仲良くしてるメンズ、クマ族のベアゴーは、友情以外の一切の好意が向けられないから何も思わないが、コルーとカンタからは好ましくないビームが感じられた。


―――無理だ。

この二人に背負われるなんてちょっと無理。


ハッキリお断りしようとナナミーが口を開いた時、また別のメンズに新しく申し出られた。


「ナナミーちゃん、僕が背負ってあげようか?僕なら、ベアゴーさんより高い景色を見せてあげられるよ。僕の背中に乗れば、高い木になってるフルーツだって取り放題だし、どうかな?」


声をかけてきたのは、背の高さを誇る男――キリン族のキーラだった。

「力では強い種族に勝てないが、背の高さなら誰よりも勝る」と、キーラのドヤ顔が物語っていた。


きっとナナミーを背中に乗せて、「わ〜こんな高い景色、初めて!」と言わせたいのだろう。

キーラからは好ましくないビームは全く感じられない。純粋に背の高さを誇っていると思われた。



それなら、とナナミーは思う。


力持ちのベアゴー号は安定の快適さを持つし、とても速いし、見える景色も高くて楽しい。

だけどそれより高い景色を見せてくれるなら、キーラ号も体験してみたい。


「あ、じゃあお願いしようかな」と答えようとしたところで、また別の声がかかった。





「ナナミーちゃん!急な仕事が入ったから、ヒヨク様がすぐ戻れって。なんか週明け期限の急ぎの仕事らしいよ。終わるまでは、ナナミーちゃんの休みはなしだって」


鬼畜上司ヒヨクのパシリに成り下がったベアゴーが、地獄のメッセージを伝えてくる。


お昼休憩中だろうが、残業中だろうが、休日だろうが、鬼畜な上司は鬼畜な命令を下してくるようだ。


「急いで、ナナミーちゃん。ヒヨク様、なんかピリピリしてるし、相当急ぎの仕事だよ」と、ナナミーを急かして「早く背中に乗れ」と言うかのように背中を向けて身をかがめた。



ナナミーはノロノロと立ち上がり、ベアゴーの背中に乗せてもらう。


「みんなごめんね、ピクニックは行けそうにないの。誘ってくれてありがとう……」



キリン族のキーラ号に乗れなかったのは残念だが、ピクニック場で集まった時に、また好意を向けられる事があったら、また胸の奥がモヤモヤムカムカして居心地が悪くなってしまう。


――それに何よりお出かけはめんどくさい。


残念だけどちょっとホッとしながら、お誘いのお礼を伝えて、ナナミーはベアゴー号で部屋に戻っていく。






「ゴッゴー、ゴッゴー、ベアゴー号♪ 行っけ〜ゴッゴーー、ベアゴー号♪」


「ナナミーちゃん、その歌止めてよ。午後からまた歌が頭を回っちゃうじゃん」


今日もベアゴーはナナミーの歌にクレームをつけてくる。

ベアゴーは体の大きな強い種族だが、彼はしょせん鬼畜上司ヒヨクのパシリで、ナナミーと同じ社畜階級の者だ。

恐れる事なくナナミーは歌い続ける。


「ゴッゴー、ゴゴゴン、ベアッ、ベアッ♪」



鬼畜上司ヒヨクがピリピリする時は、相当に仕事量が多くてヤバい時だ。

きっとナナミーに次の休みはない。


こんな時は歌うしかない。

歌って少しでも気分を上げるのだ。

「も〜」とベアゴーはブツブツ言ってるが、ベアゴーはそれでナナミーを振り落としたりしないくらいに良い奴だ。


「ゴーゴゴ、ゴゴゴン、ベアッ、ベアッ、ベーアーゴー号♪」


社畜ベアゴー号で、今日も社畜ナナミーは鬼畜上司ヒヨクの元へ運ばれていく。


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