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運命のつがいは鬼畜な上司  作者: 白井夢子
第一章

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22/70

22.ヒヨクの父レオード


レオードがヒヨクとの仕事を終えて部屋に戻ると、部屋のソファーには熱心にシール帳を眺めている女の子が座っていた。

妻のコフィと向かい合って座る彼女は、コフィがずっと会いたがっていた子だろう。




レオードはコフィの座るソファーの横に立ち、『この子が噂のナナミーさんか』と、マジマジとナナミーを見つめた。


真剣な眼差しでコフィのシール帳を眺めているナナミーは、レオードが部屋に入ってきたことも、コフィの隣に立った事も、いまだに気づかないでいる。

ただ一心にシール帳を眺めていた。


同じようなシールが並ぶだけのシール帳を、ページを一枚めくるたびにハッと衝撃を受ける様子を見せ、ゆっくりと隅々にまで目を走らせている。


レオードには、ナナミーが何に驚き何に魅入っているのかは分からなかったが、コフィはナナミーの取るリアクションに輝く笑顔を見せている。

コフィには彼女がどこに反応しているのかが分かるようだ。


コフィを見て―――もう一度ナナミーを見る。


ナナミーについての報告を受けるたびに、「コフィに似ているな」と思っていたが、実際目の前で見ると、背格好や顔立ちは違うが雰囲気が似ていた。


弱小種族の中でも特に弱そうな者が、レオードの家系のつがいになる傾向がある。

このいかにも弱そうなタレ目の女の子が、息子のヒヨクの運命のつがいに間違いないだろう。






ずいぶん前に「ヒヨクが屋敷にナマケモノ族の女の子を連れて帰ってきた」と報告を受けた時から、その子がヒヨクの運命のつがいだろうとレオードは気がついていた。

アザ持ちの男―――しかも若い頃のレオードとそっくりのヒヨクが、つがい以外の女に親切心など見せるはずがない。


だけどヒヨクは、ナナミーが自分の運命のつがいだとは疑ってもいないようだ。


行方不明になっていた女を、探し出して屋敷に連れて帰るなんて、自分でもおかしいと違和感を感じないのだろうか。


「全くヒヨクは――」とレオードはため息をつく。


「全くアイツは、なんであんなにも昔の俺に似ているんだろう」と、昔のレオード自身を見ているようで、何とも言えない気分になっていた。


若い頃のレオードも、仕事に気を取られて、目の前にいた運命のつがいのコフィの存在に気が付けなかった。


若い頃の自分はなぜ「つがいの証が俺だと分かれば、誰でもすぐに名乗り出てくるだろう」と、あんなにも根拠なく自信を持てたのかと、自分の傲慢さに呆れるばかりだ。


父親のヨウの「レナード、お前はもっと周りをよく見ろ」という口癖のような忠告を、なぜ「同じ事を何度も言ってくるなんて、親父ももうろくしたな」と鼻で笑っていれたのか。


レオードの家系は、ヒョウ族の血を色濃く引き継ぐアザ持ちの家系だ。

―――そして代々運命のつがいに対して、同じ過ちの歴史を繰り返していた。


『俺は親父のように狭量ではない。息子に運命のつがいが現れた時は、()()素直にその運命を教えてやろう』と思っていたが、日に日に可愛げがなくなる息子を見ていると、「お前も苦労しろ。お前だけが楽して答えを手に入れるなんて許されると思うなよ』と、思ってしまう。


――これも一族の血なんだろう。

代々傲慢な性格も受け継ぐうちの家系は、親にも傲慢な態度を見せやがるから、本人が運命のつがいを見つけ出すのが遅いのだ。






ナナミーがパタンとシール帳を閉じた。

やっと最後のページまで見終えたらしい。


ふぅ〜……と満足そうに息をついた後、顔を上げてレオードに気がついて固まった。


固まったまま何か考え込む様子を見せた後に、ゆるりと立ち上がって、「こんにちは」と言いながらゆるりと頭を下げて挨拶をされた。


『ナマケモノ族らしくマイペースで落ち着いた子だな』と思ったら、妻のコフィが「そんなに慌てなくていいのよ」と微笑ましい者を見る目で声をかけている。


「落ち着いた動きではなかったのか」とレオードは気づいて、「そんなに早く動かなくていい」と声をかけたら、ナナミーが嬉しそうに口元を綻ばせた。


やっぱりこの子は妻に似ている。

「早い」という言葉が嬉しいのだろう。

ヒヨクの運命のつがいに間違いないな、と改めて確信を持った。


だけど「ナナミーさんはヒヨクの運命のつがいなのかな?」と尋ねたら、素早く「違います」と返された。


ナマケモノ族らしくない素早さと押しの強さで、「絶対に違います」「ただの部下です」と重ねて主張してくる。



――そんなにも嫌か。そんなにも運命のつがいだと認めたくないのか。


彼女も若い頃の妻のように、『運命のつがいだなんて、一生名乗り出てやらない!』と決心しているのか。

やっぱり俺の一族の血がそうさせているのか。






レオードが思わず黙り込んだところに、部屋に入ってきたヒヨクが鼻で笑う。


「親父、何言ってんだ。こんなヤツが俺の運命のつがいだなんて、んな訳ねえだろう?」と話す息子の顔が、『ボケたのか?』と語っていて、レオードはイラッとさせられた。


そんなレオードの苛立ちなど気にする事なく、ヒヨクは運命のつがいであるはずのナナミーに言葉をかけている。


「それよりナナミー、お前昨日渡した書類は終わってんだろうな?終わってんなら、さっさと渡しに来いよ。本当にお前はトロくせえな」







―――おそらく、だが。


そうは見えないが、おそらくあのナマケモノ族の女の子は怒っている。


黙っているのは返事が遅いからではなく、返事を返したくないからだろう。

タレ目なのは変わらないが、さっきより少し目尻が上がったタレ目になっている。あれは優しそうな目でヒヨクを見つめているのではなく、きっとヒヨクを睨んでいる。


――その姿は、つぶらな瞳の妻が静かに怒る時とよく似ていた。


今ヒヨクは、あの子の心の中で激しく罵倒されているに違いない。



ヒヨクに視線を戻すと、さっきまでレオードと一緒に仕事をしていた時よりも、明らかに機嫌が良さそうだった。

仕事では会えても、休みの日は引きこもって部屋から出ようとしない運命のつがいに会えて、実は嬉しいのだろう。


ヒヨクは彼女の内なる怒りにも、自分の機嫌の良さにも気がついていないようだ。


『バカな息子め』と、レオードは若い頃の自分自身に似たヒヨクを憐れみの目で見てやった。



「ナナミーさんがお前のつがいだぞ」と話したところで、ヒヨクの事だ。素直に信じない事は分かりきっている。

そんな言葉をかけたところで、返ってくる態度は想像できる。フンと鼻で軽く笑って、バカにした目でこっちを見てくるに違いない。


――それは想像しただけで腹が立つ。


それに今のところレオードは、ヒヨクに何も話すつもりはない。


「親父もボケてきてんなら、引退を考えた方がいいんじゃねえか?」などと言ってくる、可愛げのカケラもない息子に、運命のつがいのヒントなど教えてやる義理はない。


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― 新着の感想 ―
ナナミーの理解者がやっと現れてうれしい。ヒヨクは全然好きになれないけど、お父さんみたく丸くなるならちょっとだけ良いかな、どうかな
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