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02.ナナミーの友人達


お昼休みにお弁当を食べながら、カメ族のカリナがナナミーに声を潜めて話しかけた。


「ヒヨク様のつがい様がいつまでも名乗り出てこないって事は、もしかしたらお相手様は亡くなっているのかもしれないわね……」


カリナはナナミーの隣の部署の友達だ。

ナマケモノ族とカメ族の、のんびりをこよなく愛する者同士、とても気が合っている。


ポリ……ポリ……人参スティックを食べていたナナミーは、ゴクリと口の中の人参を飲み込んでから、神妙な面持ちで頷いた。


「そうだね。とても残念な事だけど、そういう事だろうね。でもまあ………もし元気でいたとしても、名乗り出るのが嫌なんじゃない?」


「え〜〜ヒヨク様よ?そんなはずないじゃない。ヒヨク様の頬にある、走るヒョウ型と同じアザを持つなんて、全女子の憧れよ?

あのヒヨク様のお相手だって分かったら、誰だってすぐに名乗り出るわよ。

いいな〜ナナミーちゃんの部署、ヒヨク様が上司だなんて。ヒヨク様の顔を見れば仕事の疲れだって吹き飛んじゃうだろうし、いくらでも仕事頑張れそう」


上司のヒヨクの姿を思い浮かべているのか、カリナがうっとりと夢見る目をしてため息をつく。


やれやれとナナミーもため息をつく。


「カリナちゃんは、ヒヨク様が直属の上司じゃないから、そんな呑気な事が言えるんだよ。ヒヨク様って、見た目通りの鬼畜上司だよ?残業多いし、小言が多いし、オレ様だし。

それに私の部署って強い種族の男の人しかいないし、みんな大きいし、動きが早いから怖いのよ。私はカリナちゃんみたいに、キリン族とかコアラ族の人達と働きたい……」


ナナミーの部署は、ヒョウ族のヒヨクをはじめ、カバ族やゴリラ族やクマ族など、強靭な種族の者達ばかりだ。

対してカリナの部署は、アルパカ族の上司やキリン族やコアラ族など、穏やかな種族の者が多い。

どう見てもナナミーは配置ミスされたとしか思えなかった。


マイペースなカリナが、顔を暗くしたナナミーに気づく事なく、のんびりと相槌を打つ。


「まあね〜。うちの部署のキリン族のキーラ君もコアラ族のコルー君もゆっくりしてて優しいわね。いつもお菓子を差し入れしてくれるし、残業しなくていいよって言ってくれるし」



ふふふと笑うカリナが羨ましい。

ナナミーの部署の差し入れの定番は干し肉だ。

動きは遅いが仕事はわりと出来るナナミーに、仕事を押し付ける者はいても仕事を引き受けてくれる者などいない。

カリナの部署が心底羨ましいと、常々ナナミーは思っていた。


「でもナナミーちゃんの部署にだって優しい子はいるじゃない。クマ族のベアゴー君って、いつもナナミーちゃんに親切でしょう?」


「あ〜確かにベアゴー君は優しいよね」


カリナの言葉で、部署で唯一ナナミーに優しいベアゴーを思い出す。


クマ族のベアゴーにぶつかられて、かつてナナミーは激しく尻餅をついた事がある。

その尻餅が原因でお尻のアザに気がつき、ショックで数日仕事を休んでしまった。


「つがいの証のアザに気がついたショックで、もう仕事に行けません」とは言えず、「大型種族にぶつかられたショックで、もう仕事に行けません」と出社拒否したら、ナナミーの部屋までやってきたベアゴーに平身低頭謝られた。


「ごめんね、ナナミーちゃん。ナナミーちゃんは小柄だから、あまり見えてなかったんだ。

ナナミーちゃんがいないと、翻訳の書類が溜まっていく一方なんだよ。

これからはいつでも、必要な時にナナミーちゃんを安全に運んであげるからさ、だから仕事に戻ってきてほしいんだ。本当にごめんね。

ナナミーちゃん、蜜がたくさん入ったリンゴ好きでしょう?さっき山で取ってきたんだ。お見舞いだよ」


そう言って、ベアゴーは美味しい蜜入りリンゴを差し入れてくれた。

本当はベアゴーを怒っても怖がってもいなかったが、美味しい蜜入りリンゴに免じて、仕事に戻る事にした。


ベアゴーが申し出てくれた、「必要な時に安全にナナミーを運んでくれる」という提案が魅力的だった事もある。


仕事は早いが歩くのが遅いナナミーは、体の大きな同僚達が、俊敏に動く様子を常々羨ましく思っていた。

「あの子達の背中に乗れたら、どれだけ高い景色が見れて、どれだけ早く動けるだろうか」と思った事は、一度や二度ではない。


試しに一度ベアゴーの背中に乗せてもらったら、そこからヤミツキになった。

何かとベアゴーを呼んで頼ってしまうが、ベアゴーも嬉しそうに背中に掴まるナナミーに嫌な顔を見せる事はない。


背中に乗せてもらう時以外に話す事はないが、確かにベアゴーは良い奴だった。





ベアゴーの話をしていたら、ベアゴーがナナミーを呼びにきた。


「ナナミーちゃん、ヒヨク様が戻って来いって。急な仕事が入ったみたいだよ」


――またか。

今日の昼休みも、鬼畜な上司は仕事を押し付けてきやがった。

だけど社畜のナナミーに拒否権はない。


『絶対に!永遠に!あんな野郎のつがいだって名乗り出てやるものか!あんな鬼畜野郎は、生涯孤独な人生を送ればいいのよ!」


今日もナナミーは心に固く誓いながら、ヨイショと立ち上がる。


「カリナちゃん、ヒヨク様が呼んでるみたいだから先に戻るね。また明日、一緒にお弁当食べようね。

ベアゴーくん、部屋まで乗せてもらっていいかな?」

と、いつものように申し出て、かがんでくれたペアゴーの肩に掴まった。






「ゴッゴー、ゴッゴー、ベアゴー号♪ 行っけ〜ゴッゴー、ベアゴー号♪」


「ナナミーちゃん、その変な歌やめてよ。ナナミーちゃんを乗せた後、仕事中もその歌がずっと頭の中回るんだよ……」


ナナミーを乗せたベアゴーが、ブツブツ言うのを聞こえないフリをして、ナナミーは歌い続ける。


「ゴッゴー、ゴゴゴン、ベアッ、ベアッ♪」



ブツブツ言いながらも、背中に乗るナナミーをベアゴーは振り落としたりはしない。


ベアゴーは、社畜ナナミーにさえ振り回される、同じく社畜の同僚だ。



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