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運命のつがいは鬼畜な上司  作者: 白井夢子
第一章

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17.シールが導く答え


使用人の優しいお姉さんが、空になったオヤツのお皿を下げるために部屋を出て行った。


ナナミーは「今だ!」と、いつものように素早くテーブルの下に潜り込む。

手に持つ今日のシールを貼ろうと、テーブルの裏を見上げて―――固まった。


「シールが………!」


集めていたシールがひとつ残らず消えていた。


今日のオヤツはキュリ社の有機栽培キュウリだった。

キュウリに貼られていたキュリ社のロゴシールで、記念すべき10枚目だったのに。

キレイに並べて貼っていたはずのシールが、跡形もなく姿を消している。


何もないテーブルの裏を見上げていたら、涙が溢れてきた。頬を伝って床に落ちた涙が、小さな音をポタと立てる。


占い師のおばあさんの言葉がよみがえる。


「お前さんの悩みは、このシールが解決してくれる。集めて大切にするといい。お前さんの求める答えはここにあるからの」



ナナミーの運命のつがいが誰なのか―――ロゴシールがその答えに導いてくれるはずだった。

だけどナナミーの運命を示すはずのシールは、もうどこにもない。


大切に集めていたシールだった。

野菜からシールを剥がす時は慎重にそっと剥がしていたし、貼る前にしばらくシールの香りを楽しんでいた。テーブルの裏に貼る時も、歪まれないようにキレイに並べて貼っていた。


テーブルの下に潜り込むと、かすかに残る野菜の匂いが混ざり合って香り、とても幸せな気持ちになった。


――だけど今は全てを失ってしまった。


ナナミーはペタリとお尻を床につけて座り、自分の膝に顔をうずめ、溢れた涙をスカートに押し付けて、誰にも見つからないように静かに泣いた。






「ナナミー様?シールをお探しですか?」


声をかけられてナナミーがグスンと小さく鼻をすすると、いつの間にかテーブルの横に使用人のお姉さんが立っていた。テーブルの下から、お姉さんの足が見えている。


シールの事を知っているという事は、お姉さんがシールを見つけて剥がしてしまったのかもしれない。


『テーブルの裏にシールを貼っちゃダメだったのかも』


怒られる事を覚悟して、ナナミーはノロノロと力無くテーブルから這い出て、お姉さんの前で俯いた。




「ナナミー様。泣いているのですか?テーブルの裏のシールは、ちゃんと取っておいていますよ」

「え………?」


優しい声に顔を上げると、お姉さんが高級そうなノートをナナミーに差し出していた。


「シール帳を用意しました。これからは、どうぞこちらに貼ってくださいね。今までのシールは、こちらに移していますよ」

「え……?」


受け取ったノートは、貼ってはがせるシール帳だった。しっかりした作りのノートの表紙には、走るヒョウの模様が描かれている。

――ヒヨクの頬にあるアザと同じ模様だ。



「これはヒヨク様がつがい認定協会にアザの登録をした時に、協会から登録記念として贈られた物なんですよ。ヒヨク様の許可も得ておりますから、安心してお使いくださいね」


ナナミーは表紙に描かれた、走るヒョウ模様をじいっと眺めた。

表紙の模様は、やっぱりナナミーのお尻のアザの模様に似ている。


ナナミーの持つアザと、走るヒョウの向きは一緒だろうか。

『このノートを鏡に写して見える方向は……』と、ノートを裏に向けたり、持ち上げたりして考えていると、ノートからハラリと一枚のマグネットシートが落ちた。

マグネットシートにはノートの表紙と同じく、走るヒョウ模様が描かれている。



落ちたマグネットシートを拾って、今度はマグネットシートをじっと眺めていると、優しいお姉さんが説明してくれる。


「そちらも協会からの記念品です。どちらの模様も、ヒヨク様のアザと同じ大きさなんですよ。どうぞ大切にしてくださいね」


「同じ大きさ……?あ、はい。大事にしますね」


ノートとマグネットシートに描かれた走るヒョウ模様は、ヒヨクの左頬頬にあるアザと同じ大きさらしい。






オヤツの後は、「今日の残業」として待たされた書類に取りかかる。

ナナミーはカリカリと静かにペンを走らせながら考えた。


今日持たされた書類はいつもより少ないから、集中すれば、それほど時間はかからないだろう。

残業が終わったら、お風呂に入ろう。


『お風呂だ』と考えたら、急にドキドキしてきた。


ヒヨクのアザと同じ大きさのマグネットシートは、走るヒョウの形にキレイにカットされたものだ。

これをお風呂に入った時に、ナナミーのお尻のアザと見比べてみれば、模様が同じか否かは一目瞭然だろう。

後もう少しで、この書類さえ片付ければ、ナナミーの真の運命のつがいが判明する。


ナナミーは集中してペンを動かす。


そこにコンコンコンと部屋の扉がノックされた。


「お姉さんがお風呂の準備に来てくれたのかな?」と思い、「どうぞ〜」と声をかけると、入ってきたのはベアゴーだった。




「ナナミーちゃん、これ追加の書類。ヒヨク様が渡し忘れてたみたいだよ。確かに今日はずいぶん少ないなって、僕も思ってたんだ。早く気づいてくれて良かったよね。

じゃあ僕も仕事が残ってるから帰るね。バイバイ、ナナミーちゃん。また明日ね」


ベアゴーは書類の束をナナミーの目の前に置いて、ナナミーの「え〜〜」ともらす不満の声を聞く事もなく去ってしまった。


置かれた書類はかなり分厚い。

真面目に取り組んでも、終わる頃には夜も更けているだろう。






ドキドキしていた気持ちはもう冷めていた。


『運命のつがいが何だというのだ』

『どこに浮かれる必要がある?』

――今の自分が冷静に問いかけてくる。


確かに運命が誰だか分かったところで、相手は鬼畜な者どもばかりだ。誰の運命のつがいだとしても名乗り出るつもりはない。


『特に!この!分厚い書類を追加で渡してくるような鬼畜上司だったら!』と、書類の上に手を乗せて、書類をぐっとテーブルに押しつけてやる。


テーブルに押し付ける書類は、やっぱり厚みがあった。

早く取り掛からなくては、眠る時間も遅くなってしまうくらいだ。


ナナミーは書類から手をどかして、シワが付いてないかを確認してから、『お尻のアザとマグネットシートの形が同じだったとしても、絶対に同じ形だなんて認めたりしないんだから!』と固く自分に誓いを立ててやった。




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