表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/68

16.占い師が告げる言葉


今日ナナミーは早起きをして、カリナと例の占い師のお店にやってきている。


ナナミーはこの占いのお店にヒヨクを案内した事はあるが、中に入るのは初めてだった。

少し―――いやかなり緊張しながら、カリナと共に、占い師とテーブルを挟んで向かい合っていた。


二人の目の前に座る占い師は、おそらくカラス族のおばあさんだ。黒い衣装をまとっていて、いかにも占い師らしい格好をした人だった。

おばあさんから放たれるオーラは、「この人が告げるなら信じるしかない」という凄みさえ感じさせられる。




「おばあさん、私の運命の人が誰なのかを教えてください」


カリナが真剣な顔で占い師に問い、占い師のおばあさんはじっとカリナを見つめた後に、ニヤリと笑って口を開いた。


「お前さんには、運命の人はおらんよ」

「えっ―――!」

「えっ―――!」


ズバリと切り捨てるように告げる占い師の言葉は残酷だ。

カリナの顔色がサッと変わる。

ナナミーも顔色をサッと変えた。


『なんて恐ろしい占いだろう……』と、カリナの隣に座るナナミーは、怖くてドキドキが止まらない。


怖い。もうすでに帰りたい。



シンと静まり返ったテントに、占い師の言葉が響く。


「しかし安心するがいい。お前さんには運命の人はおらんが、お前さんの気質を愛する者は多い。お前さんが「この人だ」と感じる者を選べば、必ず幸せになるだろう」

「おばあさん……!」

「おばあさん……!」


カリナと一緒にナナミーもホッと安堵する。


良かった。人の心を持った占い師だった。

それに確かに占い師の言葉は当たっているように思えた。


カメ族のカリナはおっとりしていて、優しく相手の言葉を受け入れるので、人当たりがとてもいい。確かに誰を選んでも幸せになれそうだ。


威圧的な態度を取る強い種族の者には、自分の殻に閉じこもるように心を閉ざしてしまうが、それはナナミーだって同じだ。

ナナミーだって、強い種族の者達――あの無礼な同僚とか、あの傲慢なアザ持ちの男どもとかに心を開くつもりはない。


「信じられんくらい弱いよな」とか「本当におせえな」とか言ってくる、あんなヤツらには『絶対に!永遠に!心を開いたりしない』と誓っている。








「それでお前さんじゃが――」


おばあさんの言葉に、ナナミーはハッと意識を目の前に戻した。おばあさんが占い結果をナナミーに告げようとしている。


カリナの事を考えていたつもりだったのに、いつの間にかナナミーは同僚達の事を考えていた。


カリナの占いが終わったら、「私の占いは結構です」と丁重にお断りしようと思っていたのに、いつの間にか占われていたようだ。




占い結果が怖い。


ナナミーがアザ持ちだという事を、カリナに知られる事が怖い。

カリナは信用できる友達だが、誰にも話すつもりがない秘密を、誰かに知られる事が怖かった。


それに運命のつがいが誰なのか、真実が明るみになる事も怖い。


もしナナミーの持つアザが、「走るチーター」の模様だったら?

もし「走るピューマ」の模様だったら?


――もし「走るヒョウ」の模様じゃなかったら?


『知りたくない!』

やっぱり真実を聞く勇気が出ない。


おばあさんに手を上げて、急いで「いえ。私は結構ですよ」と占い結果を聞く事を断ろうとしたが、手を上げる前に言葉を告げられた。


「お前さん、良い物を持っているな」

「えっ?」



おばあさんが、ナナミーのカバンに貼ったシールを指差していた。


おばあさんが指差す先にあるのは、ガッスー社の朝採りアスパラガスに貼られていたブランドロゴシールだ。

薄暗いテントの中でも、シールはキラキラと高級な輝きを放っている。


今日は約束の時間が早かったから、会社に行く日よりも早起きをした。屋敷を出るギリギリまで寝ていたナナミーは、朝ごはんを食べる時間もなかった。

優しいお姉さんが、「歩きながらでも食べられる朝ごはん」として、持たせてくれたアスパラガスに貼られていたシールだった。


野菜に貼られたロゴシールには、高級な野菜の香りが残っている。ナナミーはいつも、食べ終えた後もどこかにシールを貼って、高級な余韻をいつも楽しんでいた。


ナナミーもお気に入りのシールだが、快く譲ってあげる事にする。このシールの価値が分かる者になら、譲っても惜しくはない。


「このシール、素敵ですよね。どうぞ、差し上げます」


ナナミーはキラキラと光るシールをカバンからはがして、おばあさんに手渡した。


手渡されたシールを嬉しそうにじっくりと眺めているおばあさんは、ナナミーを占っていた訳ではないらしい。

カラス族はキラキラした物を好むので、光るシールが気になっていたのだろう。



「光り方が素晴らしいな……。良いシールじゃ。こんな良い物をくれたお前さんに教えてやろう。

お前さんの悩みは、このシールが解決してくれる。集めて大切にするといい。お前さんの求める答えはここにあるからの」


「え……!それはこのシールが私のラッキーアイテムって事ですか?!それはどういう―」

「おっと。ここからは有料じゃ」


どうやら無料占いはここまでらしい。

さすが人気のある占い師。人の心を掴む事に長けている。


占いの先の言葉は知りたい。

だけど有料という言葉はパワーワードだ。

スッと冷静になる。


ナナミーは、『そうだ。そういえば今日私は、占いをお断りするつもりだった』と思い出す。


占い師のおばあさんの言葉は、運命のつがいを占ってくれての言葉だという事は明らかだった。

ラッキーアイテムを教えてもらえただけでも十分だ。


「ありがとうございます。でも今日は、これ以上の占いは止めておきます」とペコリと頭を下げて、丁重にお断りする事にした。


ニヤリと笑ったおばあさんが、「またいつでもおいで」と声をかけてくれ、ナナミーはカリナと共にお店を後にした。






今日のオヤツは、キャロー社の有機栽培ニンジンだった。


占いが終わるとそのまま解散したので、市場まで往復しただけの予定だったが、それでもかなりの運動量だ。

とてもお腹が空いていた。

帰ってすぐ用意してくれた高級なオヤツに、ナナミーはポリ……ポリ……と夢中になって平らげてから、ニンジンから剥がしたシールを手に取ってじっと眺めた。


「お前さんの悩みは、このシールが解決してくれる。集めて大切にするといい。お前さんの求める答えはここにあるからの」――という占い師の言葉を思い出す。




今手のひらにあるロゴシールは、ナナミーの求める答えへと導いてくれる、ラッキーアイテムだ。

大切に集めなくてはいけない。



ナナミーは、お風呂場の様子をそっと窺う。

お風呂場では優しいお姉さんが、ナナミーのためにお風呂の準備をしてくれている。


「まだ夕方前ですが、今日はもうお風呂に入って休まれますか?」と聞いてくれ、ナナミーが頷いたからだ。


大丈夫。お姉さんはまだお風呂場にいる。


ナナミーは椅子から立ち上がると、素早くテーブルの下に潜り込んだ。

そしてテーブルの裏にペタリとシールを貼る。


今まであちこちに貼っていたシールは、いつの間にか優しいお姉さんに掃除の時に剥がされていた。


ここなら誰にも見つからずに、シールを集める事が出来るだろう。これからここに、大切なシールを集めていくつもりだ。


ナナミーはまた素早くテーブルから出ると、なんでもない顔をして再び椅子に座った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ