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まるで煌めく花火のように  作者: 匿名になろう
第一章 桃花の願い
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第一章 第四話

九月三日の朝は、珍しくお兄ちゃんが皐月家へ迎えに来た。


私がお兄ちゃんの家に朝起こしに行くことはこれまでもちょくちょくあったけれど、逆はほとんどない。


正確には覚えていないけれど、おそらく小学生の頃が最後だろう。


「桃花、お前どうしたんだよ」


夏の余韻が残る通学路を並んで歩きながら、お兄ちゃんが話を始める。


「花火大会の夜からメッセージ送っても全然既読にならないしさ。凛子も様子がおかしいって心配してたぞ。まぁ途中ではぐれて先に帰っちまったのは俺が悪かったけど、そんなに怒らなくてもいいだろ」


「別に怒ってないって言ってるじゃない。あんなにたくさんの人がいたんだもの、はぐれるのは仕方ないわ。あと、メッセージを読んでなかったのは、疲れてただけ。ごめんね」


私たちが毎日通う高校、町の名前を冠した紫水学園高等部は、小高い丘の上に会った。


皐月家とその近所にあるお兄ちゃんの家からは徒歩十五分くらいであり、普段ならすぐに到着できる距離だけれど、今朝はとても長く感じた。


「そういえば昨日さ、うちのクラスに転校性が来た」


お兄ちゃんが気まずそうに話題を変える。


「転校生?」


「留学生なんだってさ。日本語ペラペラだから声だけ聞いてると外国人って分からないんだけど、顔はいわゆる日本人っぽい顔ではなかった」


「そうなんだ」


「でさ、俺そいつに夏祭りの日に会ったんだよな」


「えっ」


お兄ちゃんの言葉に驚いて、足が止まる。


「あの日、桃花とはぐれたじゃん。で、俺は仕事のことを忘れたくてスマホを家に置いてきてたから、連絡を取る手段がなかったわけ。それで八時になったら高台で花火を見るって話をしたことを覚えてたから、一人で階段を上ったんだよ。でも、そろそろ花火が始まるって時間になっても桃花が来なかったから、諦めて帰ろうとしたんだ。その時に会った」


「もしかして、金髪で背の高い女の人……」


「なんで知ってるんだよ」


「見たから。私も高台に行ったのよ」


今度はお兄ちゃんが驚く番だった。


「桃花、いたのか……」


「うん。お兄ちゃん、ずいぶん仲よさそうだったよね」


私がそう言うと、お兄ちゃんは納得したように大きく頷いた。


「ああ、そういうことか。それで不機嫌だったわけだな」


別に不機嫌ではない。私がそう言う前に、お兄ちゃんが話を続ける。


「オリビアとはあの日高台で初めて会って、少し話をしただけだ。別に仲いいってわけじゃない。さっきも言ったけどあの夜俺はスマホを持ってなかったから、連絡先も交換せずに別れた。学校で再会したのは偶然に過ぎない」


お兄ちゃんの言葉を聞いて、急速に怒りが湧いてきた。


人混みの中ではぐれてしまったことは本当に仕方ないと思っていたし、そもそもお兄ちゃんと私は恋人というわけではない。ただの幼馴染である。


つまり、別にお兄ちゃんが他の誰と仲よくしようが私には関係がない。


あの日以来、そう自分に言い聞かせてきたが、もう限界だ。


「どうして……どうしてそんなウソ付くの?」


「ウソじゃねぇよ」


「手をつないで、腕を組んで、ずいぶん仲よさそうにしてたじゃない。あれが初対面でやること?」


「ああ……」


お兄ちゃんがバツが悪そうに目線を逸らす。


「ほらやっぱりウソじゃない。別に私はお兄ちゃんが誰と何をしようが気にしてないけど、なんかウソをつかれるとイラっとするんだよね」


「落ち着けよ。ちゃんと説明するから」


お兄ちゃんはそう言って、早口で話を続けた。


「あの日、オリビアも高台で人探しをしてたらしいんだよ。その相手の顔をよく知らなかったぽくて、俺と間違えたって言ってた」


「なんでお兄ちゃんと間違えるのよ」


「服装。青いシャツと紺色のズボン、それから綿あめの袋までも一致したんだそうだ。そもそも外国人から見たら俺たちの顔なんてみんな同じで、見分けがつきづらいだろ」


「ふーん」


「俺の方も咄嗟のことでびっくりしちゃってさ。一瞬何が起きたかわからなくてぼーっとしてたら腕を組まれたりしたけど、すぐに人違いだと気づいて別れて、それっきり」


お兄ちゃんが一人で説明を続けている。その表情や仕草から、どうやら彼の話は真実なのだろうと思えた。


例えばウソをつくときに頭をかくというようなわかりやすい根拠はないけれど、お兄ちゃんとは生まれた時からの長い付き合いだ。


色々なことを、なんとなく察することができる。


「そっか、そうだったんだ……私てっきり……」


思わず声が漏れた。


提灯で照らされていたとはいえ、あの夜の高台は笹川神社の境内よりも暗かったし、人違いが起きることも不思議ではない気がする。


実際、私だって他人と間違って声をかけられたことを思い出した。


「凛子が心配してたぞ。それに朱莉さんだって」


「お姉ちゃんも?」


お兄ちゃんの口から出た意外な名前に、聞き返す。


「俺一人で花火を見ても仕方ないしさ。オリビアと別れた後、まだ花火の途中だったけれど、すぐに一人で帰ったんだよ。その時に偶然会った。桃花は一緒じゃないかって聞かれたから、はぐれたことを軽く説明したんだ」


「そうなんだ。悪いことしちゃったね」


お姉ちゃんには、お兄ちゃんと合流する予定だと伝えてある。


そのお兄ちゃんが一人で帰るところを目撃し、しかもそれが花火が終わる前だったのならば、お姉ちゃんが心配するのも当然だろう。


「そういえば朱莉さん、見たことない男の人と一緒にいたな」


「男の人? 彼氏かな?」


「どうだろう。結構年上っぽかったし、そんなに仲良い感じにも見えなかったから、神社の視察に来てた役所の人とかかもな」


「そうなんだ。まぁ笹川神社の夏祭りは、この辺じゃ有名だもんね」


「だな」


私の言葉に、お兄ちゃんが頷く。


「そういえば、小説はどう? 新作出すんでしょう?」


あまり詮索するのもよくない気がしたので、やや強引に話題を変えてみた。でも、その必要はなかった。


「その話はまた今度。じゃあ、またな」


お兄ちゃんが手を振って、離れていく。


話に夢中になっている間に校門をくぐり、紫水学園の正面玄関に着いていた。

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また、ブックマークや感想コメントもいただけると本当に嬉しく思います。


既に最後まで書き終わっているので、できるだけ速やかに全話投稿していきます。

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