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まるで煌めく花火のように  作者: 匿名になろう
第四章 朱莉の追憶
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第四章 第十話

私、笹川朱莉は笹川神社の一人娘だ。


紫水町の中心にある笹川神社の一人娘として生まれ、神社とともに生きてきた。


いろんな人に迷惑をかけてしまうこともあるけれど、できるだけ地域の人たちの役に立ちたいという想いはずっと変わらない。


エリックには申し訳ないと思うものの、花火の時間以外は夏祭りの運営スタッフとしての仕事を優先したかった。


「お姉ちゃん、こんばんは」


桃花の声に振り返ると、オリビアと桃花が二人並んで立っていた。今年のオリビアは浴衣を着て、すっかり紫水町の一員という雰囲気を醸し出している。


「こんばんは。珍しい組み合わせね」


驚いて、二人の顔を交互に見る。


この二人の間の確執は既に解消されているのだとは思うけれど、だからといって、いつの間に一緒に夏祭りに行くような仲になっていたのだろう。


「お兄ちゃんは今日も仕事。編集さんにわがままを言って良い仕事をもらったから、期待を裏切るわけにはいかないんだって」


「そうなんだ。嬉しい悲鳴って感じかしら。私も拓斗くんの小説が好きだから、頑張ってもらわないとね」


答えながら、オリビアの方へと視線を送る。


「大志は河原で花火の準備をしているので、私も今日は一人の予定だったんです。暇なので教会に行ったら、『笹川神社の夏祭りに行っています。M・エリック』というメモ書きを見つけました。その時いいことを思いついて、桃花ちゃんを誘ってここに来ました」


「いいこと? エリックに用があるってこと?」


「違いますよ」


私が尋ねると、オリビアがすぐに否定した。


「お姉ちゃん、掃除は私たちが代わるから」


「朱莉さんはエリック先生と夏祭りを楽しんでください」


二人が顔を合わせて、嬉しそうに言う。私があっけにとられていると、オリビアが私の手からホウキを奪い取った。


「ほら、早く早く」


桃花に背中を押されるまま、その場を後にする。


「まったく。男も女も、仕事熱心な人を好きになると大変ね」


二人が仲よさそうに話す声が背後から聞こえてきた。




屋台が並ぶ境内を歩いていると、今度は凛子と夏樹がいた。


二人はアルバイトスタッフとして会場内の見回りなどを担当してくれている。


私だけがお客さんとして夏祭りを堪能するのが申し訳なかったので、


「今年は少し涼しいから、客足が増えそうね。何か困ってることはない?」


と、声をかけてみた。


「ないない。っていうかお姉ちゃんから聞いてるよ。朱莉お姉ちゃんは私たちのことなんて気にしないでエリックさんと遊びなよ」


「そう。じゃあせっかくだからお言葉に甘えさせてもらおうかしら。夏樹くんもありがとう」


私がそう言うと、夏樹が少し顔を赤くして頷いた。


「っていうか朱莉お姉ちゃん、浴衣を着ないとだめだよ。巫女さんの服も可愛いけど、それだと仕事着って感じだもん。私、着せてあげるね」


凛子が私の足から頭へと視線を動かしながら言う。


「悪いけどしばらく一人にしてもいい?」


そう凛子に頼まれると、夏樹は今度は堂々と、


「うん、ここは任せて」


と、言った。




何年も前に買って以来ほとんど着る機会がなかった紫色の浴衣に着替えて部屋を出ると、エリックが待っていた。


「こんばんは」


エリックが私に話しかけるのを見て、凛子がペコリと頭を下げ、屋台の方へと走り去った。


「浴衣、似合ってるね。びっくりしちゃった」


「ありがとう。神社に住んでるのに、意外と着る機会がなかったのよね」


答えながら、凛子が整えてくれた髪を触る。なんだか少し恥ずかしかった。




二人並んで、屋台の並ぶ境内を歩いていると、すれ違う人たちに次々と声をかけられた。


「やっぱり朱莉ちゃんは人気者なんだね。僕の教会なんて、ほとんど誰も来ないのに」


「ただ長く続けているだけよ。紫水町は顔見知りばかりだから」


「それだけじゃないよ。朱莉ちゃんが高台の伝説を守り、みんなを勇気づけてきたからだ」


「もとはと言えば、あなたが生み出してくれた話よ」


話しながら、自然と階段のふもとへと足が向かう。この前一緒に上ったばかりだけれど、夏祭りの日の高台は特別だ。


「ねぇエリック。あなたは本当に二十年間ずっと、私のことが好きだったの?」


少し怖いけれど、聞いてみる。するとエリックは、


「ちょっと恰好つけすぎちゃったかも」


と、言った。でも、すぐに、


「いや、本当だな。いろいろあって、まともに恋愛する余裕ができたのはここ最近の話だから」


と、自分の言葉を否定した。親の離婚からの帰国、戦争、そして母の死など、ずっと神社に守られて生きてきた私には想像もできないような人生を送ってきたのだろう。


「この前は話に夢中になっていて忘れていたけれど、あの小さな木はまだあるのかな」


下から数えて百二十一段目が近づいたタイミングで、エリックが尋ねてきた。


「二十年も経ってるのよ。すっかり森と一体化してしまってて、どれなのかわからなくなってるわ」


「いや、あれかもしれないよ。あ、でもこっちの可能性もあるか……」


エリックが森の中を指さしながら言う。


「ね、わからないでしょう。笹川神社のことで私がわからないって言ったら、それはもう誰にも分からないってことなのよ」


私がそう言うと、エリックは笑って頷いた。




高台に着くと、既に大勢の人が花火を楽しみに待っていた。家族連れや友達同士のグループもいるけれど、やはり最も多いのはカップルだ。


エリックと手をつないで打ち上げ開始を待っていると、河原の方角から花火の始まりを告げる音が鳴った。


さっきまで真っ暗だった夜空が漆黒のキャンパスへと変わった瞬間だった。


人々歓声を上げるのと同時に、大きな音が立て続けに心の奥まで響いてくる。


喜びや切なさ、満足感と緊張感、花火とともに複雑な感情が次々と湧き出ては消えていった。


一分ほど二人で夜空を見上げていると、エリックが、


「朱莉ちゃん」


と、私の名前を呼んだ。


繋いだ手を通して、彼の心臓の高鳴りが伝わってくる。


ゆっくりと彼の顔を見上げると、ポケットの中から小さな箱を取り出した。


「僕と、結婚してくれませんか」


「はい。よろしくお願いします」


私が答えると同時に、小さな拍手が起こった。


音のする方を見ると、夏樹の妹に抱きかかえられた翔太が小さな手をパチパチと叩いている。


今年四歳になったばかりの少年のあどけない拍手は徐々に周囲の人へと伝播し、たちまち高台が祝福で溢れた。


今年の花火も、一瞬の煌めきとともに夜空に消えていく。でも、今日この日の、この場所で見聞きしたことや感じた気持ちは、思い出として永遠に私たちの心に残るだろう。




花火が終わると、いよいよ夏祭りもお開きだ。


大盛り焼きそばは既に売り切れになり、余った金魚は希望者への無料配布が始まっている。ステージは既に撤収作業が始まっていて、夏樹が大きな板を運んでいる様子が見えた。


「夏祭りの片づけが気になる?」


本当はもう少しエリックと一緒に余韻を楽しみたかったけれど、さすがにこれ以上を望むのは贅沢が過ぎるだろう。


ちょうどそんなことを考えていたタイミングで、エリックが声をかけてきた。


「ごめんなさい。やっぱりちょっと心配で」


「行ってきなよ。朱莉ちゃんにとって大事なことなんだろう」


「ありがとう。でも、もう少し一緒にいたいの」


そう言って、彼の服の袖を引っ張る。


「うん。じゃあ鳥居のところまで送ってもらおうかな」




できるだけゆっくり歩いてみたけれど、鳥居にはすぐに到達してしまった。


他にも複数のカップルが別れを惜しんでいる。待ち合わせをしている友人グループもいるようだ。


「今日は楽しかった。朱莉ちゃんも無理をしないで早めに休んでね」


エリックはそう言って、軽い足取りで帰っていった。


二十年前にできなくて後悔していたことは、階段を最後まで上り切ることと、一緒に高台で花火を見ること。それに、あともう一つある。


「エリック、またね! 必ずまた会おうね!」


目一杯の笑顔で彼の名前を呼びながら、大きく手を振った。今晩、私の笑顔を思い出しながら眠りについて欲しいから。

【応援よろしくお願いいたします】


「面白かった!」「続きを読みたい!」

と思ってくださった方は、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。

もちろん、あまり満足ができなかった方は☆1つや2つでも構いません。


また、ブックマークや感想コメントもいただけると本当に嬉しく思います。


既に最後まで書き終わっているので、できるだけ速やかに全話投稿していきます。

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