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まるで煌めく花火のように  作者: 匿名になろう
第四章 朱莉の追憶
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第四章 第八話

次に幸平と会ったのは、結婚式の打合わせだった。


といっても会場は笹川神社なので、外部の結婚式場で行う場合に比べると、いろいろと融通は効く。


参列者には親族や親しい友人などのほか、当日自由に参加できる枠も設けた。


私たちの結婚にどの程度の人が興味を持ってくれるのかは分からないけれど、なんだかんだで紫水町ではそこそこ有名な神社でのイベントということもあり、数十人から二百人程度は集まるだろうというのが父や私の見立てだった。


打ち合わせを終えて幸平を見送ろうとしていたころで、凛子と出くわした。今日は桃花も夏樹もいない、一人のようだ。


「朱莉お姉ちゃん」


声をかけた凛子が、すぐに隣の幸平に気づく。たしか二人は初対面だった気がする。


「こんにちは」


幸平が挨拶をすると、凛子も、


「こんにちは」


と言って、少しぎこちない会釈をした。


「朱莉さんにお話でしょうか。それなら、私はここで失礼しますね」


幸平が歩き出そうとしていたところを、凛子が制止する。


「いいえ、大丈夫です。すぐ終わりますから」


凛子はそう言って、私の方へと向きを変えた。


「あのね。今日は私、伝言を伝えに来たの。なんか私ってこういう役目ばっかりね。みんな気軽に頼んでくれるんだから、嫌になっちゃう」


「伝言? 私に?」


「牧師のエリックさんが教会で朱莉お姉ちゃんを待ってるんだって。何の用かは教えてくれなかったけど、大志が朱莉さんに伝えろって言ってた。朱莉お姉ちゃんもきっと会いたがってるはずだとも言ってたけど、エリックさんとはどういう関係なの?」


そこまで言って、凛子は幸平の方をちらっと見た。


「あ、ごめんね。朱莉お姉ちゃん今忙しいよね。もう伝言は伝えたし、私はこれで」


凛子はそう言って、私の返事を待たずに走り去った。


「結婚式の話、いよいよ具体的になってきましたね。私、ワクワクしてきちゃいました。できればウエディングドレスも着てみたいので、明日もう一度父にお願いしてみます」


凛子との会話を聞かれたのが気まずかったので、自ら幸平に話しかけてみた。


すると幸平は苦笑いを浮かべながら、


「教会に行かなくてもいいんですか」


と、言った。


「大丈夫です」


私が大きな声で即答すると、幸平が少し驚いた顔をした。


「牧師さんはいつでも教会にいらっしゃるでしょうから、別に急ぐ必要はありません。仮に大事な用があるなら、向こうから来たらいいじゃないですか」


そのまま十メートルくらい無言で歩いたところで、幸平が、


「朱莉さんは、意地になってるんじゃないでしょうか」


と、言った。よく意味がわからなかったので、視線で続きを促す。


「お父さんに婿養子を取ることを強要されて、かと思えば今度は一転して跡取りの話をなかったことにされて、朱莉さんはとてもお怒りだったはずです。今ここで結婚の話までなかったことにしてしまうと、まるでこれまでお父さんに命令されて私と結婚するつもりだったかのように見えてしまう。朱莉さんの一度きりの大切な人生が、全てお父さんに決められていることになってしまう。それが嫌なんじゃないですか」


「違います。全然違います」


震える声で、幸平の言葉を否定する。首を何度も左右に振った。


「だからせめてもの抵抗として、朱莉さんが自分の意志で私との結婚をするという風に、誰に強制されるでもなく自分で自分の人生を決めたという風に、そう思い込みたいんじゃないですか。そのために、私と結婚しようとしているのではないですか。本当は私のほかに気になる方がいらっしゃるのではないですか」


「違います。そんな失礼な……だってそれだと幸平さんがあまりにも……」


言葉に詰まっていると、幸平が黙って私の肩を抱き寄せた。


もう知り合って一年くらい経つけれど、こんなに接近するのは初めてだった。


幸平はいつも物腰が柔らかく丁寧で優しい話し方をするのでこれまであまり意識してこなかったけれど、意外と男性らしい体つきをしている。


背は高く、私の目の前には彼の胸があった。腕には筋肉が程よく乗っており、抱きしめられた身体が少し痛い。


「ごめんなさい」


嗚咽の混ざった声で、幸平に謝る。私が何度も、


「ごめんなさい、ごめんなさい」


と繰り返している間、幸平は一言も言葉を発さず、ずっと私を抱きしめていた。




それからしばらくした後、一人で境内の隅のベンチに座ってメイクを整えていると、幸平がペットボトルに入ったジュースを持ってきて、手渡してくれた。


「落ち着きましたか」


「はい。さっきは取り乱してすみませんでした」


「いえ、お気になさらないでください」


二人で並んで座り、ジュースを飲む。幸平が私の様子を横目で伺いながら、


「しつこいかもしれませんが、朱莉さんは今でもエリックさんのことが気になるんじゃないですか」


と、言った。私が黙っていると、彼は続けて、


「今さっき休憩所でジュースを買うときに、偶然、机に掘られた文字を見てしまいました。よく朱莉さんが座っていた席です」


と、言った。


「とっくの昔に忘れたつもりだったんです。本当です。信じてください」


「はい、信じますよ」


「二十年前に、結婚の約束をしたんです。私が六歳、エリックが四歳の時の話です」


「素敵な話じゃないですか」


「少女漫画みたいですよね。でも現実は漫画じゃない。そんな約束は無効でしょう。それなのに去年の夏祭りの日に偶然彼に似た人を見つけて、今年に入ってそれが本物のエリックだとわかって、二人で何時間も話して、私本当は今でも」


「すみません」


再び感情が溢れ出しそうになる私を、幸平が慌てて制止した。


「それ以上は私ではなく、エリックさんに話した方がいいんじゃないですか」


「そうですね。余計な話をしました。すみません」


「いえ、本当は私が続きを聞きたくないだけです。正直に話してくださってありがとうございました。エリックさんが羨ましいです」


幸平は話しながら、まだ半分以上残っているジュースに蓋をして、立ち上がった。


「お父様には私から伝えておきます。私たちが直接会うことはもうないかもしれませんね。今まで本当にありがとうございました。失礼します」


幸平は、三、四歩ほど歩き、最後に、


「朱莉さんならきっとご自身の力で幸せと掴めると信じています」


と、言って、いつも通りのゆったりとした足取りで去っていった。


呼び止めようと思ったけれど、声が掠れてうまく発声できなかった。


そのまま一度も振り返ることなく神社から出ていく後姿を、完全に見えなくなるまで見送った。

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既に最後まで書き終わっているので、できるだけ速やかに全話投稿していきます。

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